テレビドラマ「渥美清の泣いてたまるか」を『男はつらいよ』生誕前夜として見る(その4)
■渥美清の泣いてたまるか④
第七話「あすは死ぬぞと」
《作品データ》
昭和41年4月17日から昭和43年3月31日まで、およそ2年間にわたりTBS系列で毎週日曜日午後8時 から午後8時56分まで放映された渥美清(青島幸男、中村賀津雄)主演の1話完結形式の連続テレビドラマ。昼夜運送の社長婿で専務の主人公・清造は昼間は給料アップを社員から嘆願されつつ社長にどやされ板挟みにあい、夜は自宅で厳しい妻に責められる日々。ある日の夜、自宅に帰ると妻は新興宗教の会合に出掛け、小学生の子どもがいるから留守番を頼まれるが、近所の大衆食堂に外食へ行く。その時、清造は飲みながら「死んじゃいたい」と呟くと、死神と名乗る初老の男に話しかけられ、「お前はあと24時間後に死ぬ」と告げられてしまう。主人公・清造役を渥美清が演じ、他弘田三枝子、北あけみ、花沢徳衛、西村晃、バーブ佐竹、大泉滉、石橋蓮司、潮健児が出演。
・放映日:1966年7月3日
・製作:国際放映、TBS
【スタッフ】
監督:渡邊祐介/脚本: 関沢新一
【キャスト】
渥美清、弘田三枝子、北あけみ、花沢徳衛、西村晃、バーブ佐竹、大泉滉、石橋蓮司、潮健児
第八話「ああ誕生」
《作品データ》
昭和41年4月17日から昭和43年3月31日まで、およそ2年間にわたりTBS系列で毎週日曜日午後8時 から午後8時56分まで放映された渥美清(青島幸男、中村賀津雄)主演の1話完結形式の連続テレビドラマ。自動車解体工場で働く主人公・亀山丈吉は妻・房子が妊娠するが、出産は産婆ではなく、大病院で行うようにし、房子は大病院に通うことに。医師の助言で亀山夫妻は工場地帯のアパートから郊外にあるモデルルームに引っ越すが、見学客に見られている内に房子はある行動をおこす。主人公・亀山丈吉役を渥美清が演じ、他春川ますみ、殿山泰司、渡辺文雄、笠置シヅ子、鈴木やすし、左卜全、ミスター珍が出演。
・放映日:1966年7月17日
・製作:国際放映、TBS
【スタッフ】
監督:真船禎/脚本:早坂暁
【キャスト】
渥美清、春川ますみ、殿山泰司、渡辺文雄、笠置シヅ子、鈴木やすし、左卜全、ミスター珍
《『渥美清の泣いてたまるか』第七話&第八話考察》
前に書いた《『渥美清の泣いてたまるか』第五話&第六話考察》の作品データ、いやその前の第4話から放映日の記載に誤りがあったことをまずここでお詫びします。正しくは第4話は5月22日、第5話は6月5日、第6話は6月19日となっている。そう、毎週ではなく隔週放送になっている。この時代はプロ野球人気が凄まじく、ナイター中継のために隔週になっていたようだ。けど、「泣いてたまるか」の前に19時半から放映している「ウルトラQ」は休みなく毎週放映している。
ん、これって、プロ野球中継は20時からなのかな?まぁ、視聴率が常に25〜30%を叩き出すモンスターコンテンツだから、TBSとしても休みたくないでしょ。かたや「泣いてたまるか」は…視聴率は分からないけど、裏番組にNHK大河ドラマ「源義経」があるから、「ウルトラQ」の後の時間帯とはいえ厳しかったんじゃないかな。
さて、今回の第七話・第八話、七話は死神が出てくる話、八話は奥さんの妊娠騒動と相反する話を持って来ている。偶然なのか、計算したものなのだろうか。
七話は死神の話を除けば、運送会社に勤務する中間管理職みたいな専務で、それも家ではかかあ天下の中年の悲哀である。専務だからドライバーみたいなブルーカラーじゃないけど、その運送会社自体そんなに大きくないから、社長と社員を繋ぐパイプ役みたいな専務という感じ。
そんな中で西村晃が演じる死神に余命24時間を告げられるんだけど、これ、いわゆる天使もののSFの応用と言えよう。やはり「ウルトラQ」の影響かと思えるけど、当時の「ウルトラQ」は「ウルトラマン」誕生前夜の特撮として怪獣メインのSF怪奇特撮だから、このSF回はギリギリそっちに寄せた渥美清のヒューマンドラマと言えよう。
八話はその反動なのか、妻の妊娠のてんやわんやとモデルルーム暮らしのエピソードを持ってきている。一見、普通の夫婦もののヒューマンドラマ&コメディながら、夫婦の希望や夢のシーンの挿入が多く、違う監督・脚本が手掛けているけど、不思議とSF要素を強めた回が続いた。
それとこの七話と八話はどちらも夫婦ものではあるが3話〜6話ほど子どもが目立ってはいない。七話はまだ小学生の子どもが出て来て、渥美清が演じる父親にやたらと野球のミットをねだる。それと小学生低学年の子どものわりには恐妻家の父親を茶化すようなセリフが目につく。昭和40年代だから、まだまだ「サザエさん」の波平みたいな頑固親父が多いイメージというか、家庭の中で父親の威厳があった時代というイメージがあるが、そういった意味でも子どもに寄り添った父親というのは当時は新鮮だったかも。
そう考えると、八話の渥美清が演じる亀山丈吉も、妻の妊娠に全面協力をする旦那として当時としては新鮮というか珍しかったのではないだろうか?中盤で妊婦主体のマタニティ教室になぜか旦那の丈吉のみ聴講オンリーで参加していたけど、逆に参加している他の妊婦や講師の産婦人科医からちょっと白い目で見られている。マタニティ教室に夫婦一緒とか、妻の都合が悪くて旦那の聴講参加とか令和の今ならいくらか理解出来るだろうけど、60年近く早かったかな。
基本は渥美清による働く妻帯者の中年の悲哀のヒューマンドラマである「泣いてたまるか」も死神によるSFとか、旦那による妻の妊活サポートなど、どこか新しいヒューマンドラマ、ホームドラマを模索しているかのようである。実験作というか。特に八話の亀山夫妻のそれぞれが息子・娘が成長した未来を想像したり、飛躍した出産シーンを想像し、それを映像化するシーンがあるが、あれって後年の『男はつらいよ』シリーズのオープニングでお馴染みの夢のシーンの原型のようにも見える。
そして七話では清造が近所の大衆食堂で食事をするシーンがあるが、バックに店のメニュー表があり、そこには魚フライが50円、トーストが50円、オムライスも50円とある。全部50円というわけではなく、オムライスの隣に書いてあったメニューは40円らしいが書いてあったものがアングルでわかりにくかった。看板は大衆食堂で、暖簾には「牛めし」と書いてあって、渥美清が演じる清造はどうも牛めしを食べているようだけど、見た感じ具沢山で50円だったらかなりお得なはず。この大衆食堂の親父を潮健児が演じている。
脇役に関しては第七話では妻役を演じた北あけみよりも、昼夜運送の女性事務員で中盤にも出てくる弘田三枝子が目立つ。スタイルこそはちょいポチャだが、目鼻立ちが目立つので比較的美人に見えるが、ポストマドンナとして貴陽している。あと、途中で出てくる泥棒役が若き日の石橋蓮司のようだ。
八話は妻の房子役を春川ますみが演じている。六話でも別れた妻役で出て来た春川ますみの再登板。それよりも奇妙な産婆役を笠置シヅ子が演じ、これがインパクトがある。それと、亀山丈吉の想像シーンの成長した娘役を松島トモ子が演じている。松島トモ子と言えば昭和50年代生まれ世代ならミネラル麦茶のCMのおばちゃんというイメージがあるが、この頃は二十歳だからさすがに綺麗。あと、左卜全やミスター珍がそれぞれモデルルームの客としてチョイ役で出てたり、全体的にシュールな作品に仕上がっている。
回が進むにつれてだんだん普通の人情ヒューマンドラマから離れ、意外にも実験的な要素が強まっている。それが奇しくもその後のテレビドラマのホームドラマやヒューマンドラマ、『男はつらいよ』の原型を作り上げているような気がする。