視聴したいフィルム その1
東京裁判 【上巻】
(1983年、日本・東宝東和、モノクロ、139分)*上下巻 収録277分 ナレーター:佐藤 慶


この映画は、1946年5月3日から1948年11月12日まで、東京・市ヶ谷の旧陸軍士官学校大講堂で行われた「極東国際軍事裁判」の模様を収めた記録映像をもとに、東京裁判の持つ歴史的な意味と、国家、戦争といったテーマを問いかける長編ドキュメンタリーである。
アメリカ政府によって記録された50万フィート(約152キロメートル)にも及ぶ膨大なフィルムを、4時間37分のドラマティックな作品に仕上げており、裁判シーンのみならず、大戦以前の歴史映像や興味深い解説が含まれている。
冒頭はベルリン郊外のポツダム。米国のトルーマン大統領、イギリスのチャーチル首相、ソ連のスターリン首相によるポツダム会談(1945.07.17 ~ 08.02)の模様である。ところが会談前日の1945年7月16日、アメリカが世界初の原子核爆発実験に成功した旨の報がポツダムに入る。米・ニューメキシコ州で行われた実験の映像は、実に異様である。それから1カ月も経たないうちに、広島、長崎に原子爆弾が投下されたのである。
場面は変わり、1945年8月15日、天皇陛下による終戦の詔勅。
続いて、東京大空襲をはじめとした数々の戦禍、或いは神風特攻隊の体当たり攻撃など、見るに忍びないシーンが続く。
一方で、戦勝に沸くニューヨーク市民の様子が映し出された後、ダグラス・マッカーサー元帥(1880.01.26 ~ 1964.04.05)が厚木飛行場に降り立った。戦艦ミズーリでの調印(降伏文書調印式)に、米側はマッカーサーが、日本側は重光葵外相と梅津美治郎参謀総長が臨んだ。
*マッカーサー元帥の生の声が聴かれる。 彼が迷うことなく戦争犯罪人に指名したのは、元首相の陸軍大将・東條英機であった。
そしてニュルンベルク裁判(ドイツ)の映像が流れた後、やっと東京裁判のフィルムに移る。
犯罪人に指名された28名の入廷の模様、キーナン主席検察官をはじめとする検事団、数名の弁護人の顔が並び、裁判長であるオーストラリアのウェッブ卿が最後に入廷する。傍聴席も埋まっている。起訴状(55項目の起訴文)の朗読、罪状認否と進むが、被告人は全員が無罪を主張する。
この途中、思いがけない映像が映る。
起訴状朗読途中、被告人のひとり、大川周明が、自分の前に座っている東條英機の頭を片手で叩くのである。
叩かれた東條は薄笑いを浮かべている。狂気なのか否かは今だ分からないとの説明が入るが、結局大川は退廷を命じられ、後に精神鑑定を受けた。
キーナン検事の追及は2時間に及んだらしい。戦争は犯罪か否か、個人に対する罪が問われるのか、等々、激しいやりとりが続く。
ここで私が意外に思ったのは、戦勝国であるアメリカから弁護人として5名が弁護団に加わっていると知ったこと。
マッカーサー元帥の指示のようだが、公平性という面で、微かな納得感を抱いた次第。
再び、東京裁判のシーンから過去へ遡る。
日露戦争、中華民国成立、昭和天皇即位、上海事変、満州国建国、関東軍の暴虐などの映像が映し出され、愛新覚羅溥儀の証言(生の声)も登場する。続いて2.26事件、近衛内閣誕生、盧溝橋事件の映像が流れる。
再び裁判の映像に戻り、南京事件の告発に端を発し、被告人それぞれが、過去に中国への戦争に対しどう関わっていたかが問われる。
ナレーターが冷静な口調で、次のように語る。 ‘南京事件の大量虐殺は、議論の余地のない犯罪事件、戦争の狂気である。非人間性のある狂気であり、永遠に背負わなければならない十字架なのである’ と。
続いて広島、長崎への原爆投下の映像が流れ、アメリカ軍部隊、婦人部隊の行進の模様が映し出され、インターミッションに入る。
東京裁判【下巻】へ続く。