最近のフランスの文芸作品「幻滅」からの人間観察・・・
[幻滅(Illusions Perdues)](2021)
フランスの文豪バルザックの「幻滅」を「偉大なるマルグリット」のグザヴィエ・ジャノリ監督が映画化し、セザール賞で作品賞等を獲得した人間ドラマ。19世紀前半のパリを舞台に、田舎から出てきた純朴な青年が、新米記者として足を踏み入れたジャーナリズムの世界で、いつしか初心を見失い欲望の渦へと呑み込まれていく転落の物語を描く。主演は「Summer of 85」(2020)のバンジャマン・ヴォワザンで、共演はセシル・ドゥ・フランス、ヴァンサン・ラコスト、グザヴィエ・ドラン。
[ストーリー]
19世紀前半のフランス。詩人としての成功を夢見る田舎の青年リュシアンは、貴族の人妻ルイーズと恋に落ち、やがて2人で駆け落ち同然にパリへとやって来る。ルイーズの支援で社交界への進出を目論むも、世間知らずな振る舞いでたちまち笑い者に。その後、生活が苦しくなった彼は、やっとの思いで新聞記者の仕事を手にする。しかし、お金のためなら平気で嘘も書く、私欲にまみれた同僚たちの姿に戸惑いを隠せないリュシアンだった。
[大小説家オノレ・ド・バルザックと映画化作品]
バルザックは90篇の長編・短編からなる小説シリーズ『人間喜劇』を執筆した。大食家で借金まみれの生活を送ったが、親友の「レ・ミゼラブル」のヴィクトル・ユーゴーや、「マルゴ」や「三銃士」のアレクサンドル・デュマ(大デュマ)と共に19世紀のフランスを代表する小説家である。
映画化された作品では、「美しき諍い女」(1991)やランジェ侯爵夫人」(2007)が知られている。シャルル・アズナヴールが主演した「ゴリオ爺さん」(2004)や、「従妹ベット」(1998)等も以前鑑賞することができた。日本には紹介されていない代表作の「ウジェニー・グランデ」や「谷間の百合」の映画作品も存在するので、いつか鑑賞してみたい。
[本作の感想]
3名の若手俳優(監督)を起用した贅沢な作品で、その人物像の違いを観るのも面白い。また、長身のセシル・ドゥ・フランスは、エレガントな貴婦人の役にぴったりだが、ほとんどの作品でさっぱりした男っぽい役柄でガラッパチな雰囲気を出しているので、その二面性が面白い。「ある秘密」(2007)では優雅な美人役で、これは素敵だった。
主要なシーンで、有名なシューベルトの歌曲集「白鳥の歌」の中の「シューベルトのセレナーデ」が使われ、全般、哀愁を帯びた印象になるが、本作には少し優しい気がする。
タイトルは小説作品「幻滅」と同じであるが、実際には「幻想の喪失」といったテーマかと思う。登場人物のリュシアン自体は優柔不断な人物像で、「ゴリオ爺さん」のラスティニャックと同じフランス中西部の田舎アングレーム出身ということで、較べて観ると面白い。
他の方もご指摘する通り、メディア業界に限らず、現代のどの業界にも通じる人生観察のテーマとしては、改めてバルザックの新しさが発見できる。
[最後に]
フランス語のリスニング力Upのため始めたフランス映画鑑賞だが、小説等の文学書を読むのが苦手だったのだけど、先に文芸系の映画を鑑賞し内容を理解した後に文学書をよむことが楽しくなるのではと思う。また、昔に較べ周辺知識も多少増えたので、読書の楽しみも味わえるものと期待するところ(笑)。