『　ゴジラ　』のヒロイン　と　科学者の苦悩

『　オッペンハイマー　』の日本公開を待ちながら　　その２

　夏本番　と言うには連日過酷すぎる暑さですが・・・

　海辺やプールでビキニ水着姿の女性を見ると、萌えて鼻の下を延ばしてしまう野郎の一人ですが、１９４６年７月にアメリカがビキニ環礁で行った原爆実験が水着のビキニの名前の由来。

　クロスロード作戦がその実験の作戦名。

　１回目のエイブル( Able = A )実験が行われたのが１９４６年７月１日。

　原爆のように小さいが破壊力がある　ということで、７月５日にフランスのルイ・レアールというファッション・デザイナーが命名して発表。　

　戦争が終わった解放感と新時代を告げるインパクトのあるネーミングで、ビキニ水着はあっという間に普及し定着した。

　『　トラ・トラ・トラ! 』と『　アルキメデスの大戦　』には連合艦隊司令長官の山本五十六(　山村聰　/ 舘ひろし　)が艦上閲兵するシーンがあります。

　連合艦隊の旗艦・長門での壮観な儀式は帝国海軍の威容を表してますが、最多で１２隻あった戦艦も、大和、武蔵をはじめ次々に失われて、終戦時に残ったのは長門のみ。

　敗戦後アメリカに接収され、クロスロード作戦の標的にされて、７月４日のエイブル実験と７月２５日の2回目ベーカー( Baker = B )実験との２つの実験を経た後に水没。

　続けて行われる予定だったチャーリー( Charlie =C )実験は放射能汚染がきつかったため一旦中止。

　だがビキニ環礁ではその後も核実験が続けて行われ、

　１９５４年３月１日にアメリカが行った水爆実験・ブラボー実験でマグロ漁船・第五福竜丸が死の灰を浴び大事件となったが、それでもさらにその後も続けられ、１９５８年までの１２年間でアメリカが行った原爆・水爆実験は２３回。

　強制移住させられていた島民は１９７４年許可されて帰島するが、重大な健康被害が相次ぎ、ふたたび離島を余儀なくされた。

　１９９８年国際原子力機関は報告書で「　永住に適さない　」と発表。

　２０１０年ユネスコの世界遺産に登録。　( 負の記憶の歴史文化遺産という意味合いでしょう。)

　第五福竜丸事件がきっかけでつくられたのが『　ゴジラ　』

　ポスターには水爆大怪獣映画とはっきり明記されています。

ちなみに第五福竜丸の久保山愛吉無線長が亡くなったのが１９５４年９月２３日。

『　ゴジラ　』の公開は１１月３日。

　主人公の潜水作業のエキスパート尾形秀人を演じたのは宝田明。　当時２０歳。

父親は満鉄の職員。ソ連侵攻後、兄と一時生き別れたり、ソ連兵に腹部を撃たれたり、１２歳の少年にはあまりに過酷な戦争体験の後、文字通り命からがら引揚。

物心ついた頃から満州育ちの彼には、初めての祖国日本の地でした。

その尾形の恋人で、古生物学者の山根恭平(　志村喬　)の娘の山根恵美子を演じたのは河内桃子。　当時２２歳。　１９５３年第６期東宝ニューフェースで５作目での抜擢。

祖父は大河内正敏。　東大を首席卒業の物理学者で東大教授、海軍省政務次官などを経て理化学研究所所長に就任。　これを企業化させた理化学興業株式会社(　現在のリケンの前身　)を設立。理研グループとして科学技術の実業化を推進、子爵で貴族院議員。　内閣顧問などを歴任。　　

１７０センチを超える長身で美人と評判の河内桃子は自慢の孫だったようです。

敗戦。　軍需産業、日本の原爆製造計画に関与したとして、１９４５年１２月戦犯容疑で巣鴨に収監される。　原爆開発に成功し投下した国が、原爆開発が成功せず投下された国の人間を戦犯容疑で逮捕したわけです。　４６年４月釈放。　貴族院議員、理化學研究所所長を辞任。　その後公職追放。　サンフランシスコ講和条約締結直前の１９５１年８月６日公職追放解除。　１９５２年８月脳梗塞で死去。

あまり知られていないことから考えると、彼女の『　ゴジラ　』への起用は東宝の意図的なものではないと思いますし、本人も意識してなかったと思います。

　山根博士の愛弟子の科学者で、恵美子の元婚約者・芹沢大助を演じた平田昭彦。当時２６歳。

陸軍幼年学校、陸軍士官学校を経て、戦後東京大学法学部卒後、三菱商事に入社したものの、俳優に。　宮仕えを嫌ったのと、実兄が当時新東宝の助監督だった小野田嘉幹( のちに「　鬼平犯科帳　」のメイン監督 )だったこともあってのことか。　妻は岸恵子、有馬稲子とにんじんくらぶを作った女優の久我美子。

水爆でも生き延びたゴジラを倒せる薬品オキシジェン・デストロイヤーを開発した芹沢大助。

彼の科学者の良心からくる苦悩は、ロバート・オッペンハイマーやレオ・シラードらが原爆開発した後に抱いた葛藤と対比することができます。