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2023/09/19 21:29

「エクソシスト」の中にある様々なリアルな恐怖

強力なホラー映画ってただ怖いだけではなくて、そこから様々な重層的な意味が読み取れるものです。
だから、どんなに自分とかけ離れた超自然現象を扱っていても、どこかで自分にリンクするところがあって、真に迫って感じられる。

古典中の古典「エクソシスト」はもちろんそうで、読み方によって実に多くの、様々な「リアルな恐怖」が内包された作品になっています。

 

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Photo:AFLO

基本的なストーリーは皆さんご存知の通り、少女が悪魔に取り憑かれ、神父が悪魔祓いで対決する……というものです。
公開当時(1973年)としても「悪魔憑き」なんてもちろん古臭い概念で、劇中で言われるように精神医学の発展と共に淘汰されたと見なされていたものです。
それが、真正面から「マジの現象」として蘇る。
土着信仰が生きる田舎の国とかじゃなく、アメリカの大都市の裕福な女優の家でそれが発生して、昔のような神聖さが薄れた生活感あふれる神父が戦いを挑む。
本作はまず、古い恐怖を現代に蘇らせた王道モダンホラーの嚆矢と言えます。

 

本作はまた、思春期の子供がある日突然「変わってしまう」恐怖を描いています。
天真爛漫な12歳の少女だったリーガンが、いつの間にか少しずつ変わっていって、気がつけば「汚い言葉で親を罵り、自分自身を傷つけ、他者にも暴力をふるい、暴れ回る」
これは「積み木崩し」の恐怖ですね。昔から思春期にはつきものの、決して避けては通れない、でも親にとってはとんでもなく恐ろしい「我が子の変化」への恐怖

 

リーガンの母クリスは人気女優で、裕福なのだけど、忙しくてリーガンにはあまり構っていられない。
また、夫との関係は険悪になっていて別居中。
そんな背景も、「娘がグレる」理由になり得るものになっています。
だから、クリスは娘の悲劇が病気であれ悪魔憑きであれ、どこか「自分のせい」という罪悪感も持ってしまうんですよね。そこも巧みです。

 

本作はまた「病気ホラー」でもあります。
ある日突然、すべての人を平等に襲う病気。
別に悪いことをしていなくても、病気は忖度してくれません。誰しもが病気になる可能性があり、ややこしい病気になってしまうと、検査や治療の苦痛、そしていつ治るかもしれない不安に悩まされることになります。
自分であっても辛いのに、最愛の一人娘がそんな境遇に置かれるというのは、恐怖ですね。

 

中盤にかなりの尺をとって描かれる、リーガンの病院での精密検査シーン。
すごく痛々しくて、怖いんですよね。大きな音を立てる威圧的な機械であったり、注射針やチューブといった医療器具の生理的な怖さ。検査のためとはいえ、少女の体が傷つけられ、血が噴き出す本能的な嫌悪感。
それだけの辛い目にあっても解決にはつながらず、その先には出口の見えない精神医療が待っている。

Photo:AFLO

クリスとリーガン母子の視点からは、そんな子育てにまつわる普遍的な恐怖が見え隠れします。
一方で、悪魔祓いを行う神父の側も、現代的な問題を抱えています。
ボクサーあがりの若い神父であるカラス神父は、年老いた母親を十分にいたわれず、苦痛の中で死なせてしまったという深い悔いを持っています。

 

カラスの母親への思いは、クリスのリーガンへの思いと対になるものですね。親子の無条件な愛情が、理不尽な運命で引き裂かれてしまう。
財政的な苦しさで、老親の面倒を十分に見られない…というのは現代でもままある普遍的な悩みで、誰にでも起こり得る避けられない悲劇だと思いますが。
でもやっぱり、その渦中にある当事者は強い罪悪感を抱えてしまうんですよね。

 

心の変化、病気、老い。そんな避けようがない、でも当事者にはあまりにも理不尽なものに思える悪い運命。
本作の「悪魔」は、それを象徴するものであると言えます。
それはただ本人を苦しめるだけでなく、クリスやカラスのように、当人をもっとも愛する人をこそ、苦しめる。
「自分を責める気持ち」がいちばんキツイですからね。それで絶望に負けてしまうと、愛する人を救うこともできなくなってしまいます。
本作では「悪魔との対決」という形で、そんな「自分自身の絶望との戦い」が描かれていくことになります。だから、普遍的なんですね。

 

「エクソシスト」は「午前十時の映画祭」でディレクターズ・カット版を上映中。
映画館では、この映画の最大の特徴である「尋常じゃない緊張感」が大いに味わえます。

 

正当な続編となる新作「エクソシスト 信じる者」も12月公開予定になっています。それに向けても、予習をどうぞ!

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