2023年に観た映画(34) 「ミツバチのささやき」
1987年3月、卒業間際の大学時代最後に観た作品。ずっとCINE VIVANT六本木で観たものとばかり思っていたら、公開2年後の有楽町の名画座での観賞でした。爆睡してしまった覚えあり。
本作は制作年度が1973年でありながら、日本公開は1985年。西武グループが文化事業に力を注いでいた時期に、ミニシアター開設と共に発掘してきた作品ですね。
36年前に寝落ちしてしまった本作を「午前十時の映画祭13」にてリベンジ観賞。
内戦が終わりを告げた1940年のスペインのとある村。公民館で巡回上映された「フランケンシュタイン」を観た少女アナに訪れる人生の通過儀礼(を描いたのだそうby監督)。
私が小学生の頃(昭和40年代)も、小学校の講堂でアニメや怪獣映画や劇団の舞台を観た覚えがあります。あれってある種の幼児体験的な出来事として、心に残り続けるものなんです。
当時のスペインの内政事情を背景に、養蜂業を営みつつ蜂の生態を学者の如く観察を続ける父、母親の想い人への恋慕、そして姉妹の日常を、それぞれ不可侵なものとして思わせぶりに描きながら、スクリーン上の怪物と逃亡兵の末路とが幻想的に交錯するアナの体験と成長を見守る事となる。怪奇映画を観て素朴な疑問を持ったアナを演じるアナ・トレントの無垢な愛らしさが、本作の普遍性に一役も二役も買っている。
36年前と同様に本作への情報を何も持たないまま観賞に臨みましたが、全ての出来事が淡々と描かれていて、当時爆睡してしまった理由は良く判った。今回は鑑賞後にじわじわと、思った以上に後を引くことに。監督の作家性に向き合わないと絶対退屈してしまいそうな作品ですが、当時のパンフレットに記載された監督インタビューを読んで、本作へのアナリーゼ不足を如実に感じてしまった。
10年に1作ペースのヴィクトル・エリセ監督は、10年前にアキ・カウリスマキ監督らと作ったオムニバス映画が最後だと思ったら、今年のカンヌで新作が上映されていました(プルミエール部門)。日本公開やいかに。
№34
日付:2023/9/16
タイトル:ミツバチのささやき | EL ESPIRITU DE LA COLMENA
監督・共同脚本:Victor Erice
劇場名:シネプレックス平塚 screen3
パンフレット:あり(¥600)
評価:5.5
<CONTENTS>
・ミツバチの巣箱を出て ビクトル・エリセ自作を語る インタビュアー:四方田犬彦
・記憶の集積、イメージの再生 武光満/蓮實重彦
・怪物フランケンシュタインとオルゴール懐中時計と井戸のある一軒家。「ミツバチのささやき」の可愛いアナ。 淀川長治(映画評論家)
・神隠しにあった少女 川本三郎(評論家)
・夢の縁 天沢退二郎(詩人)
・三番目の質問の手前で 山口昌男(文化人類学者)
・閉ざされた部屋の中に住む人々の空想 小松弘(映画史家)
・フランケンシュタインが来た 高橋睦郎(詩人)
・アナも火を跳んだ 萩尾望都(漫画家)
・ソイ・アナ ソイ・ビクトル・エリセ 奈良原一高(写真家)
・ビクトル・エリセ インタビュー 「ミツバチのささやき」の神話構造(旦敬介 訳)
・解説/ストーリー
・採録シナリオ
・現代スペイン映画群像 出口丈人(映画評論家)
・連載interview ジャン・ルノワールに聞く(奥村昭夫 訳)
かつてのATG「アートシアター」同様、会報誌的位置付け(CINE VIVANT №8)で販売されていた。当時のパンフレットの相場は400円なのですが、その価格差を補って余りある、寄稿文の多さにシナリオまで付いてなかなかに充実したパンフレット。監督インタビュー記事は今回の再鑑賞後に本作への理解を深める上でとても役立ちました。