違う視点で観る潜水艦映画
実話を基に描かれる
海の男たちの誇りと絆の戦争秘話
『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』
Discover usさんに招待頂き、オンライン試写で鑑賞させて頂きました。
人間としての基本を教わった気がします。
監督/エドアルド・デ・アンジェリス
主演/ピエルフランチェスコ・ファヴィー
マッシミリアーノ・ロッシ
ヨハン・ヘルデンベルグ
ジュゼッペ・ブルネッティ
ヨハネス・ヴィリックス 他
ーあらすじー
第二次世界大戦が始まったころ、サルヴァトーレ・トーダロはイタリア国王海軍の潜水艦コマンダンテ・カッペリーニに艦長として潜航していた。1940年10月、大西洋航行中のこと、ライトを消した貿易船のシルエットが夜の暗闇の中迫ってきた。後ほどわかることだが、それはベルギー船カバロ号で、イギリス軍の武器と軍需品を積んでおり、突如潜水艦に向けて攻撃を仕掛けてきた。短くも激しい衝突が起こり、潜水艦コマンダンテが貿易船を大砲で沈めた。その時艦長は、放っておけばそのまま海で溺れ死んだであろう26名の生き残ったベルギー人たちを、国際海洋法に従い救助して近くの安全な港に降ろしに行くという歴史的決断をした。すべての生き残りを乗艦させることで、3日間敵から視認されてしまう海面上を航行しなくてはならなくなり、それは自らの命と船員たちの命を危険にさらすことであった。カバロ号の船長は、アゾレス諸島のサンタ・マリア島で下船した際、なぜ自らの命令で危険を冒してまで救助してくれたのか尋ねた。サルヴァトーレ・トーダロ艦長はこう答えた。その言葉はのちに伝説として語られることになる。
「私の中には2000年の歴史が血肉となって流れている」
海中、限られた空間で繰り広げられる緊迫した状況と、乗員たちの極限状態を描いたものが潜水艦映画だとしたら、本作が焦点を当てるのはその部分ではない。戦争と潜水艦映画ではあるが、その前に生きる上で基本となる大切な物を描いている作品でもあった。
「確かに戦争だ、でも我々はまだ人間だ」という艦長のサルヴァトーレ・トーダロのセリフにもあるように、人間として、海の男としての誇りも強く感じられる。
愛、食、命がどの人間にとっても大切な物だとしたら、彼らイタリア人には歌も加わるのだろう。
サルヴァトーレの心には常に妻の存在と愛があり、何かの区切りでは必ず心の中で妻と会話をする様子が見られる。妻への愛が彼を強くさせているかのようだ。戦争中でも愛で満たされていれば人に対して優しく接することができる、それは乗員への接し方でもわかる。体調を気遣い、怪我を負った乗員には手当を施し、殉職者には最大の敬意を払う。
また、自分を見失いそうになると同僚に頼り「ここにいてくれ」と甘える事もあったり、欲求に素直な指揮官だ。
食事も生き抜くためには必要になってくる。
劇中で次々に聞こえてくる沢山のイタリア料理の名前、それは正に祈りのようだった。
ママの作る家庭料理、恋人と、家族と食べた料理を思い出せば、少ない食事でも心の安定に繋がるのだろう。どのような状況でも楽しもうとする気持ちは、元からの生活や気質に根付いているのだ。乗員たちが皆で食事をするシーンはとても感動的で、美味しそうな匂いが今にも漂ってきそうだ。
「敵の船は沈めるが、人間は助ける」
これもサルヴァトーレのセリフだ。命が簡単に奪われ、命の儚さを身近に感じる戦争中だからこそ、当たり前の人間でありたいと願う心がよく表れていた。
過酷で危険な状況でも命を守ることを最優先とし、たとえ敵であっても救助、安全な場所へ運ぶ決断をしたサルヴァトーレからは、母国イタリアを背負う誇りが感じられ、男たちの間には強い絆が生まれた。
決して簡単ではない決断を迷いなく下せることが海の男としてのプライドで、それができるサルヴァトーレ・トーダロは、やはり無敵だった。
この他にも乗員たちの歌、くすんだエメラルドグリーンの海の質感と怖さ、戦闘シーンなど、どれをとっても見応えがある。
特にイタリア海軍の全面協力のもと実物大で再現されたという潜水艦コマンダンテ・カッペリーニには注目したい。
潜水艦内の様子も細かく再現されており、美術面でも満足度の高い作品になっている。
『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』
7月5日(金)より
TOHOシネズ日比谷ほか全国公開
2023/イタリア・ベルギー/イタリア語・オランダ語/シネマスコープ/121分/ 原題:Comandante
配給: 彩プロ ©2023 INDIGO FILM-O’GROOVE-TRAMP LTD-VGROOVE-WISE PICTURES
ここまで読んで頂きありがとうございました