反語的 異化効果な『ヒロシマ・モナムール』
シリーズ『 オッペンハイマー 』の日本公開を待ちながら その7
『二十四時間の情事』 原題 "Hiroshima, mon amour" ヒロシマ・モナムール
反戦映画の撮影で広島を訪れたフランス人の女優。 出会った日本人男性と関係を持つが、共に家庭がある身、帰国するまでを過ごすゆきずりの情事のはずだった・・・。
別れがたく、ひかれあう、美しい女と男。 知的で洗練された二人だけの世界。
それが原爆ドームや記録写真、全身やけどを負った姿のエキストラや反核平和デモとはミスマッチで、とてもシュールな印象を抱かせる。
公開時日本の観客にはほぼ黙殺され、フランスでも賛否両論物議をかもしたらしい。
ぼくも若い時に初めて観た時は違和感、居心地の悪さが強く好感は持てなかったが、歳を経て観てみると、違和感は依然残るものの、それだからこそ心に残り、複雑な思いを反芻させるようです。
14年前の戦争などなかった幻だったかのような、平和な街の情景。
忘却という言葉とは逆に忘れることができない思いを抱えている人もいれば、つらく痛いことだからこそ忘れようとする人もいる。
彼女は人を愛することを思い出した時、過去の失った愛、忘れようとしてきた痛みを思い起こす。
またゆきずりの情事とは悲惨な戦争体験を前に不謹慎とも見えますが、戦争のほうが非人間的なこと。
刹那的な情事と対比される、いつまでも逃れられないトラウマ。
ヒロシマをモチーフとした作品では、他とは表現を異にする反語的な、異化効果的なアプローチではないでしょうか。
無関係と思われた駅の女性の存在感にはちょっと驚きました。
戦時中ドイツ兵と愛し合い、戦後丸坊主にされ、群衆に嘲笑される中を街中引き回されるフランス人の娘。
戦争の残酷さを表すロバート・キャパの有名な写真がありますね。
監督は『 去年マリエンバートで 』などのアラン・レネ。
ホロコーストをモチーフにしたドキュメンタリー『 夜と霧 』で注目された後の長編劇映画第1作。
本作も当初はドキュメンタリーを制作するつもりでしたが、フランス人が日本人の戦争で感じた痛みをどこまで理解し表現できるか・壁にぶち当たって断念、劇映画に。
脚本はマルグリット・デュラス。 彼女のシナリオ第1作。
日仏合作で日本側の制作は大映。( 『 二十四時間の情事 』という邦題は永田雅一社長の命名 ? )
主演はエマニュエル・リヴァ。 舞台女優だった彼女の映画デビュー作。
2013年『 愛・アムール 』で史上最年長85歳でのアカデミー主演女優賞にノミネートされた際、本作のことが話題となりました。
相手役の岡田英次。 フランス語は話せずセリフを丸暗記しただけとのことですが、とてもそうは見えない。
ステレオタイプなアジア人像とは一線を画した、知的な色気があって、岡田さんかっこいいです。
ちなみに、この映画を初めて観たのは。よみうりテレビの深夜の映画特集番組「 CINEMAだいすき ! 」ででした。
番組の冒頭で特集のテーマ曲とともに作品のモンタージュが映し出されるのですが、その回の曲はドリス・ディ「 How Insensitive 」でした。
聴くたびに本作のいくつかのシーンを思い起こします。