アクションやシュールなドラマ、エロスの要素を盛り込んだ石井岳龍監督の箱男『箱男』
■箱男
〈作品データ〉
安部公房の1973年の長編小説を『爆裂都市』や『狂い咲きサンダーロード』を手掛けた石井岳龍監督が映画化したスリラー映画。カメラマンだった“わたし”はある日段ボールをすっぽり被った「箱男」を見かけ、しばらくして自分も箱男になり、ノートに様々なことを書きながら生活をする。基本的には段ボールの中にいて、箱の四角い穴から外を覗くだけだが、ある日、謎の襲撃者に襲われ、誰も近寄らないような街の外れに逃げのびることに。主人公“わたし”を永瀬正敏が演じ、他浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、渋川清彦、中村優子、川瀬陽太が出演。
・8月23日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー【PG12】
・上映時間:120分分
・配給:ハピネットファントム・スタジオ
【スタッフ】
監督・脚本:石井岳龍/脚本:いながききよたか
【キャスト】
永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、渋川清彦、中村優子、川瀬陽太
公式HP:https://happinet-phantom.com/hakootoko/
〈『箱男』レビュー〉
安部公房原作小説を石井岳龍監督が永瀬正敏主演で1997年に映画化しようとするが撮影直前に頓挫し幻となった企画を、27年経ってようやく実現化させた永瀬正敏主演、石井岳龍監督・脚本作品の『箱男』。「箱男」になった主人公の男をとりまくシュールな世界観を形成し、おおよそは「箱男」の映像化になってはいるが、後半になるとダレを感じる展開になってしまい、悪くはないかなぐらいの感触で終わった印象である。
主人公の中年男性が段ボールを被って箱男となり、何やらノートに観察の様子を書きながら段ボール内で生活していくが、時折謎の襲撃者から攻撃を受け、街の外れに逃げながら箱男として生きていく。その襲撃者には初老の軍医がバックにいて、箱男を狙う。
なんで永瀬正敏の箱男は顔に元プロレスラーのザ・グレート・カブキみたいなペイントをしているのかとか、警察から職務質問されないのかなどツッコミたい要素はたくさんあるが、こうした疑念を無視すればそれなりにシュールな箱男の世界観を楽しめはする。つまり、段ボールハウスのホームレスを描いた作品だったんだろうけど、石井岳龍監督が強引にアクションやシュールなドラマ、エロスの要素を盛り込んで映画作品として作り上げた。
しかし、箱男の奇妙なインパクト以上の衝撃はないし、塚本晋也監督の『鉄男』みたいに徹底してないので、後半になると飽きてしまう。それを白本彩奈が演じる葉子のエロい展開でどうにか繋ぎ止めようとしたり、“わたし”が箱男に対して別解釈をしたり、箱男としてブレを感じざるを得ない。あと、飲食や排便がないし、それに1973年の東京が舞台なのか、浅野忠信と佐藤浩市が出るシーンでノートパソコンを使っているから現代が舞台なのかもいまいちハッキリしなかったのも残念。
それでも、警察だとか現代に寄せてSNSとかを使うと収拾がつかなくなるのでこれらを排除して、安部公房の「箱男」の世界観を守り抜いたし、ラストは悪くないから、どうにか映画『箱男』として完走したように思える。50分ぐらいの中編にしても良かったかもしれないが、これはこれで箱男を存分に味わった気持ちにはなる。