オゾン監督の「私がやりました」は超Cool!
[私がやりました(2023年)]
「私がやりました(MON CRIME/THE CRIME IS MINE)」は、昨年11月に劇場公開された、フランソワ・オゾン監督の意欲的な作品で、フランスでもヒット作品となった。衣装デザインでセザール賞を受賞している。
[概要:クライム・ミステリー]
「8人の女たち」「スイミング・プール」のフランソワ・オゾン監督が1930年代のパリを舞台に贈るミステリー・エンタテインメント。有名映画プロデューサー殺人事件を巡って、売れない若手女優とかつての大女優が、富と名声をかけて真犯人の座を奪い合うさまをユーモラスに描き出す。
この作品が好きなところを、2点取り上げる。
[① キャスティングの魅力]
若手のナディア・テレスキウィッツ 、 レベッカ・マルデール という2名の主演女優に、ベテラン女優・俳優のイザベル・ユペール 、ファブリス・ルキーニ、ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエ等が多数助演していて、若い視聴者とシニアの視聴者が共に関心をもてる作品になったと思う。やはり、よく知っている俳優がリストされていると、より親しみをもって鑑賞できた。
[② 重さと価値観の転換が絶妙]
犯罪ものでありながら、始終、軽妙な描かれ方になっていて、雌豹(魔女)の様ないでたちのユペール様の登場で、豪華さがUpされた。法廷でのシーン等もあるが、シビアさや重さをあまり感じなかった。
また作品の主要論点である、[偽証罪>殺人罪]に犯罪の価値観が逆転してしまうのも、魔法にかけられた様。
[1930年代へのノスタルジー]
オゾン監督は、米国の映画「真実の告白」(37年)を下敷きにして構想したとのことだが、劇中で、主演の2名が劇場で観劇していた作品として「ろくでなし」(34)が引用されているが、この映画はビリー・ワイルダー監督作品で、「8人の女たち」にも出演しているダニエル・ダリューが主演していて、ノスタルジックな雰囲気や、30年代の空気が流れていて、一番印象に残る部分だった。
●フランス映画の特長(芸術的コンテンツの引用)
音楽に限らず、映画の中で引用される他の芸術要素(他の映画、小説、絵画)がリッチなのは、ハリウッド系等にはない、フランス映画の独特の特長と日々思う。
例えば、ゴダールの「女は女である」で、ジャンヌ・モローが「雨のしのび逢い」の話題をとりあげる。トリュフォーの「大人は判ってくれない」でドワネル少年がバルザック「谷間の百合」の書籍をテーブルに置く。などなど・・・。
[フランソワ・オゾンの好きな作品(Wikipedia引用)]
50代のフランソワ・オゾンの監督作品で、2000年以降の作品には以下のものがあるが、中でも、ロマン・デュリスの俳優としての魅力を最大限に引き出している『彼は秘密の女ともだち』や、テーマとは異なる品の良い演出がされている『婚約者の友人』等が好みである。2021年以降では、やはり、本作の魅力度はダントツと言える。
- 『焼け石に水』 Gouttes d'eau sur pierres brulantes (2000)
- 『まぼろし』 Sous le sable (2000)
- 『8人の女たち』 8 femmes (2002)
- 『スイミング・プール』 Swimming Pool (2003)
- 『ふたりの5つの分かれ路』 5x2 (2004)
- 『ぼくを葬る』 Le Temps qui reste (2005)
- 『エンジェル』 Angel (2007)
- 『Ricky リッキー』 Ricky (2009)
- 『ムースの隠遁』 Le Refuge (2010)
- 『しあわせの雨傘(英語版)』 Potiche (2010)
- 『危険なプロット』 Dans la maison (2012)
- 『17歳』 Jeune et Jolie (2013)
- 『彼は秘密の女ともだち』 Une nouvelle amie(2014)
- 『婚約者の友人(英語版)』 Frantz(2016)
- 『2重螺旋の恋人』 L'Amant double(2017)
- 『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』 Grâce à Dieu(2018)
- 『Summer of 85』 Été 85(2020)
- 『すべてうまくいきますように(英語版)』 Tout s'est bien passé (2021)
- 『苦い涙』 Peter von Kant (2022)
- 『私がやりました』 Mon crime (2023)