映画ファンに知られたくない話
『刑事グラハム 凍りついた欲望』で行くべきだった
1990年代のはじめ、わたしは廃盤の映画をビデオレンタル用に復刻するという仕事をしていた。これは、『羊たちの沈黙』が大ヒットした直後だから、おそらく1992年くらいの話。
版権購入の配給会社G社の担当Kさんから連絡があり、わたしがリクエストしたマイケル・マン監督の『刑事グラハム 凍りついた欲望』のビデオグラム権が取れたとのこと。みんなもっとレクター博士を観たいはずだし、この作品はトマス・ハリス原作としては『ブラックサンデー』よりも知られていないから、きっとレンタルも高回転するぞと息巻いていた。ところがある日のKさんとの打ち合わせで・・・。
「えっ、ダサくないですかこの副題」
「いや、ほとんどビデオストレートになるので『羊たちの沈黙』との関連性を絶対に入れた方がいいです」
「それならせめて原作の『レッド・ドラゴン』にしませんか」
「それだとどんな映画か絶対分からない人が多いですよ。この副題を付けたらだれでも関連作だってわかります」
「でもなんかイヤだなあ」
「桃田さんの趣味と、分かりやすさは別問題です」
「『刑事グラハム 凍りついた欲望』に戻して、コメントとかでフォローするのはどうですか」
「それだとますます関連作かどうかも分からなくなりますから絶対だめです」
「でももともとの邦題でしょ」
「ビデオ発売時にタイトル変えるのは、そんな珍しいことじゃないですよ」
「いや、やっぱり変ですよ。映画ファンは怒りますよ」
「じゃあ、こんな風に小さく入れましょう」
「ぜんぜん小さくないですよ。小さくても入れること自体おかしいですよ」
「とにかく、これで行きましょう。分かりやすいから老若男女が手に取ります。後で絶対にこうしておいてよかったって話になりますから」
「えっ、でも・・・」
『刑事グラハム 凍りついた欲望』で行くべきだった。その後、松竹ホームビデオ版も、20世紀フォックス版も同じ邦題をつけたまま再リリースし続けた。なんで変えてくれないんだ。
わたしの優柔不断のせいだ・・・。
キングレコードさん、無かったことにしてくれてありがとう。