6作目 Kids Return (キッズ・リターン)「甘酸っぱさのない青春物語」
Kids Return (キッズ・リターン) 平成9年(1996年)公開
「キッズ・リターン」 の解説・あらすじ・ストーリー
いつもつるんで、学校に行っては問題を起こしていた18歳のマサルとシンジ。ある日、カツアゲした高校生の助っ人にノックアウトされてしまったマサルは、ボクシングに目覚め、ジム通いをはじめる。付き合いでシンジもジムに入門し、ふたりはボクシングの練習に没頭する。ある夜、ヤクザに絡まれたふたりは、若頭に助けられるが、その迫力にマサルは感動する。高校生活も終わり、いつの間にかシンジはボクシング界の逸材に成長していた。だが、ジムにはマサルの姿はなかった……。
(TSUTAYADISCASより引用)
北野監督バイク事故後の作品。
全編、冬空をイメージさせる独特の映像 と無垢な童心に帰るような声で始まる、音楽が映画への高揚感を上げる。
マサルとシンジはとんねるず?
怖いもの知らずでイケイケな若き日の石橋貴明を彷彿させるキャラのマサル(金子賢)と一見もの静かで、優しさもあるが実は狂気と負けず嫌いな木梨憲武のシンジ(安藤政信)と勝手に!「とんねるず」とダブらせて今作を観ていた。
そんな2人を主役とした北野監督の”フィルター”を通した甘酸っぱさがない青春物語。今作品では脚本、監督業に専念をする。
青春を感じない?「青春映画」
「青春」を題材にした映画には恋愛・友情・不良、スポーツのエッセンスがあるが、このキッズ・リターンはそのエッセンスをあまり感じない。恋愛に関するシーンは喫茶店の小生意気そうな娘サチコ(大家 由祐子)と童貞感の雰囲気をかもし出すヒロシ(柏谷享助)とのやり取り、友情というより舎弟な関係性と単なる不良者でないさらにドロップアウトした輩(やから)感がある。スポーツはボクシングで友情物語というより「残酷な現実と結末」を描く。
映画のモチーフは北野監督の青春時代の出来事。やくざになるとろくなことないぞ!という啓発的な意味、ボクシングの裏側などの要素が詰まっている。
こだわった「ボクシング」について
この作品の見どころと言えば「ボクシングシーン」。リアルなボクシングジムの風景や内容がボクシング関係者の間では好評だった。わからないようにして打つ反則の肘打ちや不摂生の仕方など監督自身、無類のボクシング好きでもある。学生時代に元WBC世界ライト級王者ガッツ石松を輩出した「ヨネクラボクシングジム」にも通っていた経験を活かした。今作のボクシング指導は故梅津正彦氏、KOダイナマイトの内山高志元世界チャンピオンのチーフトレーナーや有名な所では南海キャンディーズのしずちゃんへ指導をしていた。配役では格闘技の経験のあるやべきょうすけ(不良グループの頭:ハナヤマ役)が見せた華麗なフットワーク。
実体験を元にしたシーン。
冒頭のシーンで屋上から先生を茶化した自作人形を宙づりにしたシーンは、監督が学生時代に実際に行った事でその時は全裸の同級生を屋上で宙づりにして、停学になったとシンポジウムで語っている。
宮藤官九郎との関係
意外な配役としては若き宮藤官九郎がかつあげされる高校生役で出演している。宮藤官九郎もほぼ同性代でビートたけしのオールナイトニッポンにハマったひとり。クドカンは北野監督ともにあこがれていたのが監督のラジオの相方「日本一の客」である放送作家の高田文夫に憧れた。自身のバントグループ魂で「高田文夫」という楽曲を作る。
その後、宮藤官九郎とは大河ドラマの「いだてん」で北野武監督が古今亭志ん生役で出演している。
主役2人のそれぞれの道。
劇中のマサルは極道へ。シンジはボクシング道へ進む。主役を演じた2人も映画のようなそれぞれの道を歩む。
タレント~総合格闘家~ボディメイクへの道
マサル(金子賢)は今作後はスポーツバラエティー番組のジャンクSPORTSでサブMCのタレント活動やテレビドラマ「ごくせん」で活躍をするが「打ち込める物が見つかった」として2004年ごろに期限付きで総合格闘技へ転身をする。2005年の大みそかPRIDE 男祭り にてリングデビューを果たす。対戦相手は暴れ馬のチャールズ・ベネット。しかし結果が出ないまま約2年の格闘技活動を辞め再び俳優業へ。現在はボディメイクを行いコンテストで優勝をしている。
KIDSReturnのオーディションが「伝説」俳優仲間から憧れの「カリスマ道」へ
シンジ(安藤政信)は今作のオーディションを受けた時はまだ事務所にスカウトをされてまだ1か月くらいだった。40~50人も受けに来た俳優の大体が「このオーディションに受かりたい!」と思っているが安藤は一番最後にけだるくあまりやる気もない態度でオーディションを受けた。監督もあまりも参加者が多いオーディションのため飽きてしまい「もう全員合格でいいや」と言い、周りのスタッフからそれでは困るます!と言われ、仕切り直して「じゃあ2番(安藤)シンジをやってくれる」と監督がいい、安藤は演じるが「棒読みだし、うまくない」と自信がなかったが合格になる。その結果、演技が評価され、初出演ながら第20回日本アカデミー賞の新人賞を受賞し、俳優の道へ。「旅行に行き金を使い果たしたら仕事をするスタンス」、「合わない現場だと勝手に降板する」などかなり個性的な安藤について、山田孝之、小栗旬、綾野剛、斎藤工などの華のある俳優仲間から「KIDSReturnのオーディションは伝説」とされ、その仕事へのスタンスや生き方について憧れの存在になる。
キッズ・リターン 観て欲しい6つのポイント!
- 組長役の石橋凌が自転車に乗ったト字たかお(普通のおじさん風)の殺し屋に撃たれるシーンは衝撃的。
- マサル(金子賢)とシンジ(安藤政信)のそれぞれのキャラクターとキャスティングのバランスの良さ
- 下条正巳(男はつらいよのおじちゃん)が意表を突くリアルな組長の雰囲気
- 組の若頭(寺島進)とラーメン屋の息子カズオ(津田寛治)のハングリーさと鋭い眼光。
- 不良グループを一瞬で恐怖のどん底にした大男(内田裕也の元付き人ジャンボ杉田)のたった1シーンでの存在感
- 過去の栄光にすがり、シンジ(安藤政信)へ反則技や不摂生を教える不良中年ボクサー林役のモロ師岡の演技力。
- 成人映画を観に行く男子あるあるコントシーン
これまで(みんなやってるか!以外は)の北野武監督作品は「死」の匂い、「死に向かう」が漂う悲壮感、やるせなさを感じる作品が多かった。今作のセリフで「まだなにもはじまちゃいないよ!」はバイク事故で生死をさまよった監督自身の死生観の変化も感じられる作品。
実は・・・
私事はありますが、以前、交通事故の後遺症により、寝たきり状態になった時に「キッズリターン」をTSUTAYAで借りてきてもらい、改めて観た際の名台詞の「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかなぁ?」 「バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ」を聴き、当時の半ばあきらめていた心境に突き刺さり復帰するきっかけとなりました。ぜひ何か行き詰った、苦しい状態の方作品を観てください。何かの浮上のきっかけになると思います。
おまけキッズ。
北京ゲンジ(役名:南極五十五号)がなんば花月に行った時の芸人名を完全掲載。
11月11日➡20日 ダイナマイト公園
漫才:5+hアベニュー
ものまね:モンタ正一
コント:上海パンプキン
漫才:ミス(ひくて・あまた)
漫談:南伸二
漫才:ひとぴっちゃんず
マジック:ジョーみのる
コント:ザ・半魚人
漫才:坂井(いもの・にもの)
漫才:水本(エビ太郎・カツ太郎)
コント:ゴーゴーゴー
マジック:蝶陽斉一
漫才:パンパース
漫談:吉川 敬
※○○ショー:ピーチーズ
漫才:森田(つちこの・たけのこ)
三味線演奏:松枝みどり
ものまね漫才ピカール三太郎
吉本新喜劇 ひらけゴマ
作 演出 馬場渚
高岡健蔵・長野ケン・工藤士郎・稲葉栄三・入江モナ・江田※〇子・尾崎ケン
※画像が粗く確認できず。
キッズリターンの美術担当は磯田典宏さん お疲れ様です。
Joe Hisaishi - Kids Return Joe Hisaishi Official より
主人公のシンジとマサルの10年後『キッズ・リターン 再会の時』(2013年)が続編として公開された。原案は北野武監督。監督は北野組で助監督をしていた清水浩監督。
映画『キッズ・リターン 再会の時』テレビ東京公式 TV TOKYOより
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