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私の好きな映画

じょ〜い小川
2024/06/30 23:50

倫理や道徳、良識を破壊する女性の成長譚『哀れなるものたち』

〈作品データ〉

『ロブスター』や『女王陛下のお気に入り』を手掛けたヨルゴス・ランティモス監督の新作は1992年に発表されたアラスター・グレイの小説を下にしたSFブラックコメディ映画。外科医のゴドウィン・バクスター博士は川に身投げした女性を脳の手術により蘇生させ、ベラと名付け娘のように育てる。ある日、外の世界に憧れていたベラは弁護士のダンカン・ウェダバーンと駆け落ちをしてゴドウィン邸宅を出ることに。主人公ベラをエマ・ストーンが演じ、他マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、クリストファー・アボット、スージー・ベンバ、ジェロッド・カーマイケル、キャスリン・ハンター、ヴィッキー・ペッパー、ダインマーガレット・クアリー、ハンナ・シグラが出演。

 

 

・1月26日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー【R18+】

・上映時間:141分

・配給: ウォルト・ディズニー・ジャパン

 

【スタッフ】

監督・製作:ヨルゴス・ランティモス/脚本:トニー・マクナマラ

【キャスト】

エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、クリストファー・アボット、スージー・ベンバ、ジェロッド・カーマイケル、キャスリン・ハンター、ヴィッキー・ペッパー、ダインマーガレット・クアリー、ハンナ・シグラ

 

原題:Poor Things/製作国:イギリス、アメリカ、アイルランド/製作年:2023年

 

公式HP:https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings

 

 

〈『哀れなるものたち』レビュー〉

『籠の中の乙女』や『ロブスター』、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』、『女王陛下のお気に入り』と常に性描写に開放的でエキセントリックな作品を作り出すヨルゴス・ランティモス監督最新作『哀れなるものたち』。過去とも未来とも言い難い異世界で展開される蘇生した女性ベラによる自由意志を求めるブラックコメディ&アドベンチャー映画で、これまでのヨルゴス・ランティモス監督作品と同様に

過激で奇異な演出が満載の女性の成長譚は見ていて非常に心地良いヨルゴス・ランティモスワールドである!

 

死体を別の人間のパーツを使って亡骸となった女性を蘇らせるくだりはご存知「フランケンシュタイン」そのものだが、胎児の脳を移植させて蘇らせたために蘇ったベラは大人の身体だが赤ん坊の脳になっていて、序盤は奇妙な言動を見せる。それをゴドウィンが手厚く教育することで徐々に成長するが、ここでヨルゴス・ランティモスらしく面白いのは早い段階で性の快楽を覚え、しばらくは性欲に貪欲でエロス大全開で展開。

 

普通ならまだ性の快楽に目覚める子供の頃に親や大人から公共の場での善悪を教え、学ぶものだが、ベラは体はアラサーぐらいの大人なので性欲も備わっているため、それまでに持っていた知的好奇心も相まって、教育不足と理性が未成熟なまま外の世界に出て数々の奇行や失敗をやらかしてしまう。

 

こうした限られた場所(=家庭)での教育に過激な性描写はヨルゴス・ランティモス監督作品では既に『籠の中の乙女』でやっていたが、今回はベラの周りからの影響・学習による成長が早く、中盤以降も相変わらず性行為に貪欲・奔放ながら徐々に知的な言動も見られる。

 

また、単なる女性の成長譚というだけでなく、展開も目まぐるしい。前半のベラが限られた世界から他者からの導きで外の世界を知る流れはフェデリコ・フェリーニ監督の『道』の応用だし、パリでのベラが行うあの仕事はルイス・ブニュエル監督の『昼顔』そのもの。ヨルゴス・ランティモス監督は『籠の中の乙女』でもカトリーヌ・ドヌーヴ主演の『ロシュフォールの恋人たち』のオマージュをやっているので、あのパートのエマ・ストーンに『昼顔』のカトリーヌ・ドヌーヴを被せた可能性が高い。

 

さらには冒頭のシーンの謎もしっかりと回収しているし、展開の読めなさ加減もヨルゴス・ランティモス監督の『ロブスター』のようだし、最後の最後まで奇異な演出も『籠の中の乙女』と『ロブスター』の合せ技のやつだったりする。ウィレム・デフォーが演じる博士も狂っていながらもこれまでで一番優しいウィレム・デフォーが見られるし、エログロ満載はこれまでのヨルゴス・ランティモス監督作品からすれば平常運転だし、むしろ超歓迎!

倫理や道徳、良識を破壊する快感はこの上ない、極上の映画体験である!

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