紅い「エミリア・ペレス!」(2024)
◆監督と作品の概要
「真夜中のピアニスト」、「預言者」、「パリ13区」などでフランスを代表する名匠として知られるジャック・オーディアールが手がけ、カンヌ国際映画祭審査員賞及び女優賞、セザール賞の作品賞及び監督賞の受賞、及びアカデミー賞でも多数部門でノミネートと、何かと話題をさらった作品である。
メキシコの麻薬カルテルのボスが過去を捨て、性別適合手術を受け女性として新たな人生を歩みはじめたことから起こる出来事を、クライム、コメディ、ミュージカルなどさまざまなジャンルを交えて描いた。
メキシコシティの弁護士リタは、麻薬カルテルのボスであるマニタスから「女性としての新たな人生を用意してほしい」という極秘の依頼を受ける。リタはマニタスが性別適合手術を受けるにあたって生じるさまざまな問題をクリアし、マニタスは無事に過去を捨てて姿を消すことに成功する。それから数年後、リタの前に、エミリア・ペレスという女性として生きるマニタスが現れる。
◆特長
メキシコが舞台で、スペイン語で制作されているので、フランス映画としての特徴はいっさいない。また、監督がジャック・オーディアールとあって、ノワール迄は行かなくとも、荒くれた主人公や、人生に疲れた主人公の尋常でないテーマの作品が多い。その中では、多少、ハートフルな部分もあり、父から母になったエミリアの母性(父性)は、堰をきった様に描かれている。敬遠していた子供が、(なくなった)父の匂い(香り)を、いろいろな表現で示すところは、地味ながらも、印象深いシーンである。

◆所感(紅い映像)
ミュージカルとされるが、テンポ感がない部分も音楽が使用されるので、あまりミュージカル性は感じなかった。ただ、リタが登場する部分はミュージカル性があってよかった。
エミリア・ペレスは、「永遠のマリア・カラス」を演じたフランス女優のファニー・アルダンに似たイメージがあり華やかではあるが、弁護士役のアメリカ女優のリタ(ゾーイ・サルダナ)の位置づけがキー・パーソンかと思った。アカデミー賞では助演女優賞を受賞している。
ポスターの色は濃いピンク(フューシャ・ピンク)だが、リタの衣装も赤いスーツで、まさに、メキシコの紅い色の映画といえよう。
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◆テーマ
「パリ13区」では、国際都市化する中での人種の格差等が一つのテーマだった。「エミリア・ペレス」では、トランスジェンダー、社会貢献のNPO活動家になる等の社会課題をテーマにしており、注目されるポイントが高い。