【ネタバレ】「怪物」坂元裕二脚本の印象的なセリフたち
是枝裕和監督作品「怪物」の魅力はまずは、映画「花束みたいな恋をした」やドラマ「カルテット」「大豆田とわ子と三人の元夫」などの坂元裕二の脚本。
ドキッとさせられる、印象的なセリフがたくさんあります。
いくつか抜き出してみました…完全にネタバレになっちゃうので注意。
覚え違いをしてるところもあるかもなので、その場合ご容赦を。
早織「白線はみ出したら地獄ね」
湊「子供の頃のことでしょ」
早織「子供じゃん」
道路の白線の上を歩くという、母と子の何てこともないちょっとした遊び。
でも、湊が幼い頃から、二人は仲のいい親子だったんだな…ということが伝わる。
そしてまた、湊が「もう子供じゃない」と自分で思うような年齢になっていて、でも「子供じゃん」と母は言いたくなる幼さも同時に併せ持っている、そういう時期であることがわかります。
そういう時期であるからこそ…いろいろなボタンの掛け違いが起こり、誤解とすれ違いが起こっていくんですね。
早織「(テレビのドッキリ見ながら)これヤラセかなあ?」
湊「テレビで見てるから嘘ってわかるんだよ」
学校では依里へのいじめが横行しているんだけど、これは子供たちの言い分は「ドッキリだよドッキリ!」ってことになってます。
依里が不快そうにすると、「リアクション薄っ!」ということになる。
これみんな、テレビのバラエティ番組のまねっこなんですよね。大人もそれ観て笑ってるわけだから、子供が「そんなことはやっちゃいけない」と思うわけないですよね。
早織「なんで飴食べてるの?」
保利「こういうのって母子家庭にありがちっていうか」「母子家庭あるあるっていうか」
早織視点で見ていると、保利先生は最低最悪のダメ教師に見えるんですよね。
でも、後の保利先生視点を見ると、この時点での彼の主観では、「モンスターペアレントに言いがかりをつけられてる」状態。
だから、少々ふてくされてしまうのも、わからなくはない。それにしても未熟だとは思うけど、若くて着任早々の教師で、学生みたいなものだしね。
早織「ハイをエエに変えてって言ったんじゃないよ」
早織「私が話してるのは人間?」
さすがの演出というか、この辺りの学校の対応はものすごいムカつく。イライラさせられるものになっています。
観ている側も完全に早織に同期して、学校が悪者! 学校許すまじ!という気分にさせられる。
でもここで観客が同調させられる気分というのは、まさによくある「炎上」「ネットリンチ」に加担する人の気分そのものなんですよね
校長「実際はどうだったのかは、どうでもいいんだよ」
校長「あなたが学校を守るんだよ」
これ、校長の保利への言葉だけど、校長の念頭にあったのは「駅前ビル放火」の件と、その夜にすれ違った依里のことじゃないかな。
依里のことがあるから、校長は「真実は一切追求しない」ことを決めていたんじゃないだろうか。
…わからないけど。自身も嘘を抱えている彼女は、一筋縄ではいかない。
依里「さけどころウエダの自販機でコーラ買ったことある?」
依里「何回かに一回、あったかいコーラ出るよね」
湊「のぐちみなこさんって女の人と温泉行って事故死したの」
湊「ダサいニット着てるの」
依里「それ相当面白いね」
依里「敵に襲われた時に身体中の力を全部抜いて諦めます」
依里「感じないようにします」
湊「それは星川依里くんですか」
この辺の子供たちの会話がすごく好きです。なんというか、心を許しあってることが伝わります。
湊「星川くん、ビッグクランチが来るよ」
湊「出発するのかな?」
依里「出発の音だ!」
脚本を読んだ是枝監督は「銀河鉄道の夜」を連想したとのことで、それはまさにそういうこと…なんですよね。
ラストの受け取り方は人それぞれ…とは思いますが、僕は結構ドン!とショックなものがきました。かなり、キツかった。
でも、それがめちゃくちゃに美しい。「誰も知らない」や「万引き家族」があまりにもキツかったのにこの上なく美しかったように。
そして、美しいからこそ、悲しい。
怪物は誰か…と問うならば、怪物は少年たちをこのような結末に導いた「我々を含めた今の日本そのもの」ということになるでしょうね。