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私の好きな映画

じょ〜い小川
2024/11/07 01:08

昭和から令和へ60年の時空を超越した笠原和夫プロットの白石和彌時代劇大作『十一人の賊軍』

■十一人の賊軍

(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会

《作品データ》

『日本侠客伝』シリーズや『仁義なき戦い』シリーズ等の脚本を手掛けた笠原和夫が1964年に原案したプロットを元に、『凶悪』や『孤狼の血』シリーズの白石和彌監督が手掛けた時代劇大作!1868年慶応4年の戊辰戦争の中で、新発田藩は新政府軍と対立する奥羽越列藩同盟の間で揺れ動いていた。そこで家老・溝口内匠は鷲尾兵士郎ら部下達を決死隊に任命し、捕らえていた罪人10人と新政府軍に抗う砦を守る任務を与えることに。主人公の政役を山田孝之、鷲尾兵士郎役を仲野太賀が演じ、他尾上右近、鞘師里保、佐久本宝、千原せいじ、岡山天音、松浦祐也、一ノ瀬颯、小柳亮太、本山力、野村周平、音尾琢真、ゆりやんレトリィバァ、田中俊介、松尾諭、柴崎楓雅、佐藤五郎、吉沢悠、駿河太郎、松角洋平、浅香航大、佐野和真、安藤ヒロキオ、佐野岳、ナダル、木竜麻生、長井恵里、西田尚美、玉木宏、阿部サダヲが出演。

 

・2024年10月25日(金)より、TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー!

・上映時間:155分

・配給:東映

【スタッフ】

監督:白石和彌/脚本:池上純哉

【キャスト】

山田孝之、仲野太賀、尾上右近、鞘師里保、佐久本宝、千原せいじ、岡山天音、松浦祐也、一ノ瀬颯、小柳亮太、本山力、野村周平、音尾琢真、ゆりやんレトリィバァ、田中俊介、松尾諭、柴崎楓雅、佐藤五郎、吉沢悠、駿河太郎、松角洋平、浅香航大、佐野和真、安藤ヒロキオ、佐野岳、ナダル、木竜麻生、長井恵里、西田尚美、玉木宏、阿部サダヲ

 

公式HP:https://11zokugun.com/


〈『十一人の賊軍』レビュー〉

Netflix配信ドラマ『極悪女王』を合せると今年3作目なる白石和彌監督作品『十一人の賊軍』。迫力満点&意外な流れもある数々の時代劇アクションに、賊軍や決死隊、新発田藩、新政府軍、奥羽越列藩同盟らのグループが複雑に入り乱れる集団群像劇は『仁義なき戦い』シリーズを手掛けた笠原和夫のプロットらしさがありつつ、捨て駒部隊の賊軍に闇バイトの末端実行犯部隊にも重なり、

白石和彌監督作品らしいアプローチの超大作アクション時代劇に仕上がっている。

(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会

おおまかには、戊辰戦争での新発田藩家老による大半が死刑になる罪人達に「自由」という餌をぶら下げて、対新政府軍との過酷な砦防衛の攻防がメインとなり、いずれのアクションシーンも剣や銃による迫力満点の殺陣と、アームストロング砲や爆弾による数々の爆破などかなり派手な時代劇アクションが楽しめる。爆破シーンでの人体破壊や刀による血飛沫やゴア描写もしっかりやり、生々しい。

(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会
(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会

また、アクション以外でも罪人の処刑や後半のある殺戮シーンで堂々と斬首や刺殺を見せ、この点では北野武監督作品『首』での描写と偶然の共通が見られる。

(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会

本作の主役グループと言える賊軍達も山田孝之が演じる逃げ癖がある主人公を中心に、イカサマ師、エロ坊主、怪力辻斬り、貧乏な農民、二枚目、爺、医者志望、爆弾使い、そして紅一点の女性キャラと個性豊か。これに仲野太賀が演じる鷲尾兵士郎も仲間となり、数々のアクションシーンで活躍する。山田孝之が演じる政は主人公ではあるが『七人の侍』の三船敏郎が演じた菊千代とは真逆で、戦闘には若干消極的だったりするので好みが分かれそう。逆に戦闘シーンの中心となる仲野太賀が演じる鷲尾は言動もアクションも派手で、この作品で仲野太賀のファンになる方も多いかも。

(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会

時代劇で個性豊かな群像劇というとやはり黒澤明監督作品『七人の侍』が思い浮かぶが、本作はこれに罪人という最下層の身分要素と女性や知的ハンデがあるメンバーや老人など弱者のメンバーがいる点でNetflixドラマ『イカゲーム』の主人公チーム(第3ゲームのチーム)に被って見え、そこを考えると知的ハンデがあるノロと爺っつぁんの存在が面白い。ついでにこの爺っつぁん、アクションシーンになると『七人の侍』の宮口精二が演じた久蔵のような強い剣士になるので個人的には好きなキャラである。

(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会
(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会
(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会

他にも19世紀に世界的に流行っていたコレラ=虎狼痢(コロリ)や、序盤に出て来た新発田城にある風見鶏、アクションのサブアイテムとして活躍した焙烙玉やしっかりとした伏線があった「黒い水」の件など、小道具やアイテムの使い方が絶妙である。また、戦いの場になる砦や火の見櫓や吊り橋、崖がある岸辺など、どのアクションシーンも映えていて、城や古戦場で展開される時代劇アクションとは一味違って見える。

(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会

そして本作の一番のキモは日和見な新発田藩の態度、立ち位置にある。あの砦の作戦は奥羽越列藩同盟にいいように見せつつ、新政府軍にも実は反抗していない家老の巧妙な画策で、新発田藩と各軍との関係性や入れ食い状態になってる不思議な作戦など、後に『仁義なき戦い』シリーズを手掛ける笠原和夫のプロットらしさが伺える。それも『仁義なき戦い』シリーズを代表とする東映実録路線よりも遥か前の任侠路線がようやく日の目を見たこの時代の東映においては、この笠原和夫の原案は時代が早すぎたのかもしれない。また、新発田藩を動かす家老・溝口内匠を阿部サダヲが演じており、序盤は優しいいつもの阿部サダヲが『仁義なき戦い』シリーズの金子信雄のような風見鶏体質や、後半で見せるサイコパスさや残忍性には白石和彌監督作品『死刑にいたる病』の主人公にも通じるものがあったから、奇しくも阿部サダヲにあった役柄になっている。

(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会

この映画における「賊軍」は新発田藩にとっては使い勝手が良い捨て駒部隊であり、それって令和の現代においては

闇組織の違法・犯行にいつの間にかに巻き込まれ、挙句切り捨てられる闇バイトの末端実行犯たちに重なっているようにも感じられる。

偶然にも闇バイトによる強盗事件が多発する令和の日本において非常にタイムリーかつ親和性が高いものなった笠原和夫原案の白石和彌監督による時代劇大作。白石和彌監督作品としても『碁盤斬り』を遥かに超えた、『凶悪』や『孤狼の血』シリーズ、『死刑にいたる病』、『極悪女王』に並ぶ白石和彌監督らしさ溢れる傑作である!

(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会
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