2024年に観た映画(23) 「関心領域」
耳障りな前奏曲と真っ暗な映像で幕を開ける本作。「ウエスト・サイド物語」みたいだなどと思いながら、延々と続くので一瞬時間の感覚が消え失せる(何分間費やされたのだろう?)。
エリート将校一家の豊かな暮らしぶりと日々のさざ波を淡々と追いながら、無数に配置された固定カメラがまるで定点観測するかのように、一家の日常を切り取ってゆく。
モノリスの如き存在感を湛えながらそこに存在し、スクリーンに映り込む巨大な建造物には一切触れない。ここの住民たちにとっては、壁一枚を挟んだ先のこの世の地獄から漏れ出る銃声と悲鳴が、まるで小鳥の囀りの様に日常に溶け込んでいる。その異様さに観客も心ざわつく。
生産性の向上に余念のない夫は順調に出世し、家庭を守る妻は誰もが羨む素敵な楽園を造り出す。この極めて優秀な夫婦が手に入れた豊かな日常の成り立ちが、隣接する施設に支えられている様子が時折垣間見える。ザンドラ・ヒュラー演じる司令官の妻が感情に任せて使用人に放つ言葉に背筋が凍る。一家の誰もがただ無関心なのではなく、ちゃんとこの地で折り合いをつけている。
本作のラストでようやく、明確なメッセージが観客に投げつけられる。一家の日常生活のすぐ隣で起きていた惨劇は、本作における最大の“関心領域”であった事が明白となり、同時に観客も傍観者ではいられなくなる。
たまたま収容所のすぐ隣で生活していた彼等と、今や遠く離れた戦場をSNSを通じて容易に目の当たりにできる我々とで、どれだけの差があるというのか。
「関心領域」
この作品のモチーフを見事に表したタイトルだと思っていたら、そもそも戦時中に「アウシュヴィッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉」として存在していたらしい。
驚くべきアイディアと手法で描かれたホロコースト・ムービー。ジョナサン・グレイザー監督のフィルモグラフィーを見ると、10年に1作ペースでかつ、10年前はスカーレット・ヨハンソン、20年前はニコール・キッドマンと、当代人気女優を主役に配した話題作を提供している。この極めて寡作な監督さんが昨年の映画界を席巻した話題作は、決して観賞後の後味が良い作品ではありませんでした。
№23
日付:2024/6/2
タイトル:関心領域 | THE ZONE OF INTEREST
監督・脚本:Jonathan Glazer
劇場名:シネプレックス平塚 screen6
パンフレット:あり(¥900)
評価:5.5
<CONTENTS>
・イントロダクション
・ストーリー
・監督&スタッフ
・キャスト
・プロダクション・ノート
・ジョナサン・グレイザー監督インタビュー
・「関心領域」はどこにあるのか? 逢坂冬馬(小説家)
・作品のテーマを観客の意識/無意識に働きかける見事なサウンドデザイン 國崎晋(RITTOR BASEディレクター)
・大量殺戮者の平穏な生活 田野大輔(原作翻訳監修/甲南大学教授・ドイツ現代史)