発掘良品第1弾の結果と第2弾の『カプリコン1』
「発掘良品」第1弾のアンケート用紙には何が書かれている?
7月からスタートは切ったが、名作とはいえ、世間の評価が確定しているわけではない旧作を、お店に大量に並べて果たしてうまく行くのだろうか?
相当量の商品投資はムダに終わるのではないか。そしてその責任を取らされ、減給、懲罰委員会にかけられ、会社に多大な損害を与え、店を不良在庫だらけにしたとして諭旨退職、風呂無しの事故物件に引っ越さなくてはならなくなり、夜中、何かがはい回る音で不眠症になり、気がふれて脳梗塞を発症し、そのまま餓死・孤独死するのではないか。
わたしは自信の乏しい人間である。「これはいけるぞ」という楽天的な右脳に対して、「3つの理由でうまくいかない。1つ目は・・・」という批判的・分析的な左脳が脳内で議論を戦わせ、いつも左脳が勝つ。楽しいことが好きでお酒好きの右脳が支配する広大なネバーランドに、左脳の会計士が踏み込んできて税金の計算を始める。「これだけの固定資産税払えますか」
7月下旬開始なので、8月末近くになると30日間の実績が取れる。同時に「面白くなかったら返金しますキャンペーン」と同時並行で、借りて頂いたお客様にアンケートをお願いしていた。今では考えられないスケールの企画だった。そのアンケートが続々と回収された。企画に対するご意見や、返金されたお客様の理由など、膨大な情報が集まってきた。
また、当時ツイッターやFacebook利用者が急激に伸びており、映画ファンの人々が「発掘良品」について様々な意見を発信していた。これらの生の情報から何が言えるのか、またどこを改善すればもっと良くなるのかを議論し、次の発注に反映しなければならない。
だが、DVDの注文というのは、受注数に比例してプレス加工に時間がかかる。発売日の一か月半乃至二か月前に行うのが業界のルールである。数量が少なければ向上のラインを調整して早めることもできるが、7月の時点で8月に入る第2弾の注文はすでに終わっていた。
次のメインタイトルは娯楽派ピーター・ハイアムズ監督の『カプリコン1』。
この当時発売元の東北新社映像事業部はレンタル出荷を停止していた。レンタル店からの旧作のバックオーダーは一部を除いてほぼない。なのでセル専用商品しかなかった。だが『カプリコン1』は奇跡的にレンタル品番が生きていた。わたしは、若いメンバーたちと一緒に駆け足で面談に向った。
国家のプライドをかけた初の有人火星探査船「カプリコン1号機」の打ち上げ直前に問題が発生する。生命維持装置にトラブルが生じたのだ。この国家的プロジェクトを絶対に失敗に終らせるわけにはいかないNASAは、とんでもない計画を立てる。ロケットは無人のまま打ち上げ、火星着陸が無事に成功したと発表する。3人の飛行士は極秘スタジオで、あたかも火星に着陸したという芝居をさせ、再びロケットに乗り組む。そしてロケットを地上から操作して帰還させるという、世界中を騙す陰謀だった。飛行士たちは拒否するものの、家族を人質に取られてやむなく加担する。だが、順調に行くと思えた壮大なやらせは、帰還中のロケットに問題が発生し、人々が見守る中、破壊するという事態に陥ってしまう。NASAは考えた。3人が地球上に存在してはまずい。この映画でのNASAはまるで北朝鮮的な犯罪を企む。
若いチームメンバーの誰かがこう言った。「お菓子みたいな名前ですね」
グリコは「カプリコ」、ハウスは「とんがりコーン」、東ハトは「キャラメルコーン」、確かに君たちは連想してしまうだろう。また誰かが言った。「2もあるんですか」「SFですよね」
第1弾の結果が出た。
30日間の旧作のレンタル数で『ジャガーノート』は1位となった。2位が『ショーシャンクの空に』、3位が『プラダを着た悪魔』。4位に同じく発掘良品から『理由』が入り、5位が『ユージュアル・サスペクツ』だった。なんと上位5作品に2本も食い込んだのだ。
何も仕掛けずに、自然のままの実績値を「なりゆき」と呼ぶが、「なりゆき」ではこの旧作ランキング上位に2作品も食い込むことはない。わたしの考えは正しかったのだ。
企画に対するお客様のアンケートではお褒めの言葉が目立った。
「これは良い企画」
「日経エンタメとかに載ってそうな緩めのランキングを想像しながら開いたらぜんぜん違った」
「ツタヤの影響力は最新作の提灯持ちよりこういう映画ファン育成活動に生かして欲しい」
直営店のスタッフからも嬉しい声が届いた。
「カウンターにて貸出時、アンケートのご説明をしていると、お客様より『前回借りる時、おもしろくなかったら返金してもらえるんならと思って借りてみたけど、こんなに面白いと思わなかった…。今日もこのコーナーから借りたから、アンケートはいらない』というお声を頂いております。『面白かったから、今日も借りる』というお声をスタッフ数名からヒアリングしており、普段、なかなかこういうお声を頂かないので、スタッフともども(作品を)選んだわけではありませんが、嬉しくなりました」
これでやっと安眠できる。飲みに行こう。服買おう。『2001年宇宙の旅』のDVDをブルーレイに買い替えよう。
しかし、喜ばしいことばかりではなかった。10タイトルあれば「2:8」の法則で上位2割に人気は集中するが、かならずそのグループの中で人気が今一つなものが出てくる。
リチャード・アッテンボロー監督の第一次大戦を舞台にした風刺ミュージカル『素晴らしき戦争』は、時代に合わなかったかダメだった。確かにアッテンボローの映画は真面目過ぎて面白くないのが多い。だがわたしは名もなき兵士の無数の十字架を見てほしかった。
ミロス・フォアマン監督の『ヘアー』もいかがわしい歌詞が良くなかったのか、もうカウンターカルチャーを語る時代は終わったのか、これもダメ。だが、わたしは愛と平和と自由を歌ったこの時代のロックミュージカルの温度に触れてほしかった。
ポール・ニューマンが再びジョージ・ロイ・ヒル監督と組んだ何でもありのスポーツ・コメディ『スラップ・ショット』も今一つだった。でもわたしはポンコツのアイスホッケーチームがラフファイトしまくりで勝ち進むのを見てほしかった。本国ではパート3まで製作されているのだが、スポーツもので日本でなじみの薄いものは関心が薄いのかもしれない。クリケットもそう、ローラーゲームもそう(復刻シネマライブラリーで発売した、このスポーツが出てくるラクエル・ウェルチ主演の『カンサス・シティの爆弾娘』は全然売れなかった)。
でもこうした下位グループが生まれるのは想定内。
それよりキャンペーンが始まっていてもまだまだ「発掘良品」の売場が出来ていない店、企画の趣旨が正しく伝わっていない店があるのが問題だった。1000店舗以上もお店があるとほぼ確実にこうした事態は生まれてしまう。伝える努力を続けなければ。
わたしは店長会やオーナー会で、発掘良品の企画趣旨を自分の言葉で伝える全国行脚に出ることにした。
実はこの2010年、わたしは家族三人で都内に住んでいたが、千葉に自宅を建築中だった。仕事、出張、ホームメーカーとの打ち合わせ、マンション売却の打ち合わせと、超多忙な毎日を送っていた。忙しいとくよくよするようなことを考えない。アイデアは次々に浮かんでくる。あれもしたい、これもしたい、もっともっとしたい。不安や心配ごとは暇だから浮かんでくるのだ。
「おれはいますごくすごくいい調子で人生を歩んでいるぞ!」
わたしは発掘良品の好調な成績を会議室で説明しながら、『未来は今』の重役室のテーブルに立ちあがってフラフープを回している気分だった。
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示こんばんは。
『カプリコン1』は劇場に足を運んでハラハラドキドキしながら見入った映画です。DISCASさんの在庫に並んだときは嬉しかったですね。
特にNASAが追跡に使うヘリコプターが禍々しくてキャラクターが起っていました。陸自でも使っていた観測ヘリ、ヒューズOH6、民生型の型式は忘れましたが。見ようによっては可愛い卵みたいなキャビンが表情のない昆虫みたいで怖かったです。
テリー・サバラスが脇を固めていたのも良かったです。農薬散布用の複葉機でヘリコとチェイスするシーンも素晴らしかった。監督のピーター・ハイアムズも才人だと思いました。その後、イマイチぱっとしない感がありますが。
とにかく、この頃の映画は十代の後半から二十代前半にかけて劇場で観たものが多いので、特に印象深い作品が多いです。私も感謝です。
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示こんばんは。
『 カプリコン1』『スラップ・ショット』は名画座の2本立て、3本立てで何回も観た思い出の映画で大好きです。
『 素晴らしき戦争 』は長い間観たかった幻の映画で、DISCASさんで出会えてうれしかったです。
感謝いたします。
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示