懐古 アメリカ映画の1963年
昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。
「1960年」、「1961年」、「1962年」の名作紹介に続き、今回は「1963年」(昭和38年)の話題作を懐かしむ。
「大脱走」 監督:ジョン・スタージェス
何と言ってもスティーヴ・マックィーンのかっこ良さに痺れる。
脱走常習犯の一匹狼的キャラクターが彼にピッタリで、観終わった後味の爽やかさも心地よい。
第二次世界大戦下のヨーロッパ戦線、ドイツ軍の捕虜収容所に捕われた連合軍将兵が集団脱走を計画する。 床下からトンネルを掘って塀の外に抜けるという大胆な計画だった。巧みなチーム・プレイで脱走は成功するが、やがてドイツ軍の追跡が始まる...
サスペンス、アクション、ユーモアという3つの要素が見事に織り込まれ、計画・実行・その後の運命のプロセスがテンポよく進むストーリーもさることながら、それぞれに一芸に秀でたキャラクターが魅力的だ。
そして密室(収容所とトンネル)と屋外(脱走と追跡)という空間をドラマに生かしながら、脱走者たちの成功と挫折を描き分けてみせるジョン・スタージェス監督の手腕が素晴らしい。
前半のヤマ場は脱走の方法で、常道であるトンネル掘りに関し、1つのアイデアが絶妙なチームワークで実行される醍醐味が最大の見どころ。
脱走後の各メンバーの運命を同時進行で描く後半は、皮肉なオチも交えながら、 ‘めでたくジ・エンド’ とはいかない工夫が凝らされている。
スティーヴ・マックィーンに加え、ジェームズ・ガーナー、チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーン、リチャード・アッテンボロー、デヴィッド・マッカラム、ドナルド・プレゼンスら、豪華俳優の競演も見どころだ。
「鳥」 監督:アルフレッド・ヒッチコック
サスペンスの巨匠ヒッチコック監督が、「サイコ」(60年)に続いてホラー演出に挑戦した異色作で、心理サスペンスの妙味を生かした快作。
サンフランシスコの小鳥店で弁護士のミッチ(ロッド・テイラー)に悪戯をたしなめられたメラニー(ティッピ・ヘドレン)は、彼に興味を持ち、ボデガ湾にある彼の母親の家を訪れる。ミッチが現れるのを見越して、彼の妹へのプレゼントである小鳥をこっそり置いてくるが、その時、1羽のカモメがメラニーを襲う。ミッチの助けで難を逃れたメラニーだが、この事件はやがて始まる異常現象の前触れでしかなかった...
ダフネ・デュ・モーリアの原作で明かされている ‘鳥が人間を襲う理由’ を映画ではあえて不明にすることで、 ‘日常を侵食する恐怖’ というヒッチコックお得意のテーマが顔を出す。
ジャングルジムに鳥たちが群がってくる有名なシーンは、それまでのヒッチコックの ‘恐怖映画’ の創りとは趣を異にした、見事な演出。
そしてバーナード・ハーマンの奏でるシンセサイザーによる ‘鳥の鳴き声’ も、日常を食い破る不条理な響きで、恐怖感を煽っている。
主人公の母親役でジェシカ・タンディが出演しているほか、主人公の妹役でヴェロニカ・カートライト、小学校教師役でスザンヌ・プレシェットも個性的な演技をみせている。
因みに、メラニー役のティッピ・ヘドレンは現在94歳で御存命(2024.09.18)。
彼女の実娘は女優メラニー・グリフィス、孫は女優のダコタ・ジョンソン。
「ハッド」 監督:マーティン・リット
親子の断絶と、非情な男の孤独を描いた人間ドラマの秀作。
硬派監督のマーティン・リットが、名優ポール・ニューマンの魅力を巧みに引き出している。
15年前、無謀運転で兄を死なせたハッド(ポール・ニューマン)がテキサスの牧場に帰ってくる。兄の遺児であるロン(ブランドン・デ・ワイルデ)は荒々しい性格のハッドになつくが、老いた父ホーマー(メルヴィン・ダグラス)は、事あるごとにハッドに冷淡だ。そんなある夜、ハッドは以前から想いを寄せていた家政婦のアルマ(パトリシア・ニール)の寝室を襲う。衝撃を受けた彼女は、やがて牧場を去ってしまうのだが...。
父と息子だけでなく、あらゆる人間関係が断絶していく過程を印象的に描いている。
主人公のハッドは、いわゆるヒーロー像とは程遠く、あらゆる面で人間的な「弱さ」が強調されている。ポール・ニューマンのセクシーな魅力と表裏一体なのかもしれない。
地味ながら官能的な匂いを持った牧場の家政婦役を好演したパトリシア・ニールは、本作でアカデミー主演女優賞を受賞した。
又、頑固な牧場主を演じたメルヴィン・ダグラスが、同・助演男優賞を受賞している。
特に、「ニノチカ」(39年)など往年の名作で都会的センスを持った伊達男を演じてきた、メルヴィンの成熟した演技には驚かされた。
因みに、ロンを演じたブランドン・デ・ワイルデは、「シェーン」(53年)で、 ‘シェーン、カムバック!’ と叫び続ける少年ジョーイを演じた人物。
本作出演時は21歳の青年に成長していたが、9年後、交通事故により30歳の若さで世を去っている。
「シャレード」 監督:スタンリー・ドーネン
オードリー・ヘプバーンとケイリー・グラントが醸し出す洗練された大人のムード。
パリの観光名所を巧みに織り込み、ロマンティックなサスペンス映画に仕上がっている。
フランスのスキー場に来ていたレジーナ(オードリー・ヘプバーン)は、夫との離婚を決意し、そこで偶然知り合ったピーター(ケイリー・グラント)というアメリカ人に心惹かれながら、パリに戻る。ところが、彼女の留守中に夫が殺されたことを知ったレジーナは、あまりの出来事に呆然となる。夫は戦時中に25万ドルを横領し、そのトラブルがこじれて殺害されたらしい。葬儀に現れた見知らぬ3人の男も、次々と殺されていく。レジーナは事件に絡んでいるらしいピーターを疑い始めるのだが...。
ミュージカルの名手と言われたスタンリー・ドーネンの演出だが、明らかにヒッチコックを意識しているようだ。
冒頭、いきなり列車から人が突き落とされる‘入り’、007を彷彿させるタイトルロール(モーリス・ビンダーがデザイン)。軽妙洒脱なミステリーだが、不気味な怖さも感じられる。
ジェームズ・コバーン、ウォルター・マッソー、ジョージ・ケネディといった名優たちの、良い意味での癖のある演技にも注目で、彼らの本作における貢献度は極めて高い。
オードリー・ヘプバーンとは気心の知れた仲であるヘンリー・マンシーニによるロマンティックな主題曲も、サスペンス・ムードを盛り上げている。
「北京の55日」 監督:ニコラス・レイ
1900年に中国で勃発した義和団事変の史実に基づき、歴史の波に翻弄される人々の運命を描いた人間ドラマ。
そもそも「義和団」とは何ぞや...
「義和団」...1899年から1900年、中国・山東省で起った反キリスト教暴動をきっかけに、華北一帯に広がった反帝国主義を唱える、いわば秘密結社。つまり、当時の社会矛盾やキリスト教布教などへの反感から、武力的排外運動を行った組織のこと。
調べてみると、概ね上記のような説明が書かれてある。
1900年初頭、清国から西欧勢力とキリスト教徒を追放しようと蜂起した義和団は、次第にその勢力を増し、西太后(フローラ・ロブスン)は彼らの力を利用して、外国勢力を一掃しようと企んでいた。同じころ、ルイス少佐(チャールトン・ヘストン)率いるアメリカ海兵隊が北京城に到着する。ルイスは、ロバートソン卿(デヴィッド・ニーヴン)主催の舞踏会で、ロシア男爵未亡人のナタリー(エヴァ・ガードナー)に会い、2人は強く惹かれる。義和団は外国人居留地を攻撃、ドイツ公使が路上で殺害されるに及んで、ルイスは西太后に抗議するが、彼女は各国の外交団の北京城退去を警告する...。
プロデューサーのサミュエル・ブロンストンは、マドリードにある自身の大撮影所に、北京の街並みや紫禁城のオープン・セットを組んで撮影させたというから驚きだ。
主要な中国人役の大半はイギリス人俳優が演じているほか、日本からは伊丹十三が柴五郎役で出演。
クレジット19位のキャスティングだった。
「クレオパトラ」 監督:ジョセフ・L・マンキーウィッツ
運命に翻弄される悲劇の女王クレオパトラの生涯を、豪華キャストで描いたスペクタクル史劇。
5年の歳月と4000万ドルの製作費、2万6千着の衣装が投じられた超大作である。
紀元前48年。内乱の続くエジプト王国に侵攻したローマ帝国の闘将シーザー(レックス・ハリスン)は、砂漠のスフィンクスでエジプトの女王クレオパトラ(エリザベス・テーラー)と出会い、その美しさの虜となる。クレオパトラはローマへ凱旋したシーザーと運命を共にするが、彼が暗殺された後、再びエジプトに逃げ帰る。数年の月日が流れ、ローマの権力者アントニー(リチャード・バートン)がエジプトを訪れ、彼もまたクレオパトラの虜となってしまう...。
20世紀FOXを倒産寸前にまで追い込んだとか、リチャード・バートンとエリザベス・テイラーの不倫の恋が話題になったりと、ゴシップのほうで有名になった一面もある。
しかしアカデミー賞の撮影賞(カラー部門)でレオン・シャムロイがオスカーを手にしたように、大画面に展開される圧倒的な重量感は、他の追随を許さない迫力があった。
なかでも、クレオパトラが巨大なスフィンクス像の台座に座り、ローマに入場するシーンは、本編最大のハイライトであり、映画史に残る名場面である。
尚、本作は「米・英合作」の表記がある記述も一部にあるが、アメリカ映画として投稿しています。
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投稿を表示こんにちは👋😃
クレオパトラって、凄いお金と時間を掛けた大作なんですね。
昔テレビで放映したときに観た記憶かあるのですが、きっと一杯カットされていたに違いありません。
今度改めてちゃんと観てみたいてす!
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