石井裕也監督作品らしい死生観が感じられる手が届きそうな近未来ヒューマンドラマ『本心』
■本心
《作品データ》
平野啓一郎原作の小説「本心」を『舟を編む』や『愛にイナズマ』を手掛けた石井裕也監督が映画化した近未来の日本を舞台にしたヒューマンドラマ。主人公・石川朔也は工場で働きながら母・秋子と暮らしていたが、ある日、豪雨の中川べりに佇む秋子を助けようとするが、この時から朔也は1年間昏睡状態に。1年後病院のベッドで目覚めた朔也は秋子の死を知り、先輩の岸谷の勧めで「リアル・アバター」の仕事に就くことに。石川朔也役を池松壮亮が演じ、他三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡、田中裕子、窪田正孝が出演。
・2024年11月8日(金)よりTOHOシネマズ日比谷全国ロードショー!
・上映時間:122分
・配給:ハピネットファントム・スタジオ
【スタッフ】
監督・脚本:石井裕也
【キャスト】
池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡、田中裕子、窪田正孝
公式HP:https://happinet-phantom.com/honshin/
〈『本心』レビュー〉
昨年は『月』と『愛にイナズマ』といった秀作を連続で公開したこともあって期待が高まった石井裕也監督の新作で平野啓一郎原作、池松壮亮主演映画『本心』。亡くなった人間のAIだけでなく、Uber Eatsの進化版のような仕事、アバター、メタバースなどが一般化した近未来で繰り広げられるヒューマンドラマ&恋愛で、倍賞千恵子主演映画『PLAN 75』よりかは身近さ、手が届きそうな近未来が色々と見られる。
要するに工場が完全オートメーション化したことによりUber Eatsの進化版を生業にする青年がAIで亡き母親を作り、彼女の本心を訊くというもの。AI云々の話は予告編で見ていたので分かっていたが、それ以外にも配達以外の仕事も請負うUber Eatsもどきのアプリや他人の身体を使ったアバターなど、今あるシステムの延長線上のようなものを見せるので、『PLAN 75』よりも有り得る近未来を味わえる映画である。
そんな中で、亡くなった人間をAIで作り、意思がある人間のようにふるまったり、作中では「自由死」と言ってた尊厳死のようなシステムなど、生と死を意識する描写がある辺りは石井裕也監督作品らしい。しかしながら、そんなAIが作れるなら犯罪に間違いなく使われそうだし、ヒューマンドラマをやるよりもミステリーやサスペンスをやった方が面白くなるはず。まぁ、原作があるからそこは止むを得ないが、メタバースのバーチャル空間が対して進化してないようにも思える。そこは前向きに考えれば、有り得る近未来を考えてのメタバースなんだろうけど、そういった部分でもう少し驚かせてほしかった。
そのうちオールAIキャストやオールメタバースで作った映画とか出る可能性を匂わせるが、現段階で出来ることを全てぶち込んだ映画である。一応、タイトルに絡む所もあるからそれなりのことはやっているから、石井裕也監督作品とはあるが期待値は低目で見てほしい。