「残り者には福がある」を地で行く、季節外れのクリスマス映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
■ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
〈作品データ〉
『ダウンサイズ』や『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』を手掛けたアレクサンダー・ペイン監督の新作は『サイドウェイ』以来20年ぶりにポール・ジアマッティを主演にしたヒューマンドラマ&コメディ映画。ニューイングランドにあるボーディングスクールの古典教師のポールは校長からクリスマス休暇中に実家に帰らない残留生徒達の見張り番をすることに。その残留生徒のメンバーにはトラブルメーカーのアンガスもいて、ある日、立入禁止の体育館でトラブルを起こす。主人公ポール役をポール・ジアマッティが演じ、他ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ、キャリー・プレストン、テイト・ドノヴァン、ジリアン・ヴィグマン、ブレイディ・ヘプナー、ジム・カプラン、イアン・ドリーが出演。
・6月21日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー【PIC12】
・上映時間:133分
・配給:ビターズ・エンド、ユニバーサル映画
【スタッフ】
監督:アレクサンダー・ペイン/脚本/デヴィッド・ヘミングソン
【キャスト】
ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ、キャリー・プレストン、テイト・ドノヴァン、ジリアン・ヴィグマン、ブレイディ・ヘプナー、ジム・カプラン、イアン・ドリー
原題:The Holdovers/製作国:アメリカ/製作年:2023年
公式HP:https://www.holdovers.jp/
〈『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』レビュー〉
『ファミリー・ツリー』や『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』、『ダウンサイズ』など個人的にはもう一つな作品ばかりだったアレクサンダー・ペイン監督が『サイドウェイ』以来20年ぶりにポール・ジアマッティとコラボした学園もののヒューマンドラマ&コメディ映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』。
ポール・ジアマッティが演じる頑固な古典教師が主人公とあって期待通りの面白さで、トラブルメーカーの残留生徒のアンガスやベトナム戦争で息子が戦死した学食のマネージャーのメアリーなどメインキャラの掘り下げが深いドラマで、
『サイドウェイ』よりもさらに円熟味があるヒューマンドラマ&コメディに仕上がっていた!
1970年のニューイングランドにある寄宿学校を舞台にしたクリスマス&ハッピーニューイヤーを含んだ冬休み映画で、ポール・ジアマッティが演じる古典教師は生徒に嫌味ばかりを言う厳しい教師である反面、アル中で斜視、女性に奥手で、同僚の教師達や校長からも嫌われる偏屈な教師、というように『サイドウェイ』の主人公にも通じるポール・ジアマッティらしい役どころで、『サイドウェイ』が好きな方なら彼を見ているだけでかなり楽しめる。
これに加えて他の生徒とも度々問題を起こし、協調性に欠けるアンガス・タリーに、息子を亡くしたばかりの学食のマネージャーであり残留番でもあるメアリーとの残りものたちのクリスマス休暇の日々を描いている。前半はアンガスの他にも同じクラスのクンツや年少組のアレックス、パクもいたが、アンガスとポール、メアリーのみになってからがこの映画の本番といった感じで、ポール、アンガス、メアリーの現在進行のエピソードの中でそれぞれの過去に触れ、その踏み込み具合いが深い。一見、何もなさそうなポールにはある秘密があり、そこにポールの人格形成の根幹を垣間見ることになる。
ポールもアンガスも融通が利かない、上手く立ち回れない、比較的お金を持つ者に虐げられるなど実は共通点が多く、話が進めば進むほどシンパシーを通わす。また、1970年のアメリカはコンプライアンスがガバガバで、テレビドラマ「不適切にもほどがある」の昭和シーンに通じるものが多々あり、酒とタバコのシーンが多く、その都度楽しめる。そんな中でショッキング・ブルーの「Venus」がかかったり、当時の『007』映画の名前が飛び交ったり、カウチで当時のテレビのバラエティー番組を見るなど1970年の空気がムンムン。
ポールと校長の秘書的な立ち位置のミス・リディア・クレインとのささやかな関係や行く先行く先で器用に女の子と仲良くなるアンガスの様子なんかを見てもかつての『サイドウェイ』を思い起こす。サラッとしたラストもお見事。季節はずれの冬休み映画だが、アメリカの公開も昨年の秋だったりするので、季節はずれを遥かに超えた映画とも言えよう。