トレマーズ風な話
トレマーズ風なやつを探せ
1990年に『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』の陰に隠れて劇場公開された『トレマーズ』。陸の『ジョーズ』という伝わりやすい触れ込みだったが、コケた。その後遺症でビデオレンタル店にはせいぜい1本あるかないかだった。『トレマーズ』は毎月のようにリリースされるビッグタイトルに押し飛ばされ、小突かれた。人々に忘れられ、どこでもいつもさびしそうに棚に並んでいた。
今なら劇場でコケてもYouTuberやSNSであっという間に口コミが広がるが、当時はメールもないし、ブログもないし、パソコンもスマホもない時代。『トレマーズ』の口コミスピードは現在の1000倍遅い。
わたしが『トレマーズ』を観たのはずっと後になってからだ。
ネバダの砂漠地帯にある小さな田舎町に突然出現した未知の生物は、地中を猛スピードで自在に移動し、人間を襲う。巨大なミミズというか、蛇というか、ワーム型で鋭い牙を持ち、目は退化し、振動で獲物をキャッチする。町の便利屋のバル(ケヴィン・ベーコン)と相棒のアル(フレッド・ウォード)は地震調査に来ていた大学院生のロンダ(フィン・カーター)と共に、このモンスターに襲われるが、街の住民で、事情を知らない銃マニアのガンマー夫妻に助けられた。生き伸びた5人は知恵と度胸と火薬で決死の脱出を試みる。
主演のケヴィン・ベーコンは横に置いといて、相棒役のフレッド・ウォードは仕事を選ぶ。ウォード出演作品で過去に観た作品はすべて水準以上だった。『アルカトラズからの脱出』『レモ/第一の挑戦』『サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出 』『ライトスタッフ』『ヘンリー&ジューン/私が愛した男と女』。それに製作総指揮はキャメロンの姉嫁ゲイル・アン・ハード女史ではないか。シナリオも絶対にチェックするし、気を抜かない。面白くないはずがない。
何よりわたしが気に入ったのは、窮地にいたベーコンらを助ける夫婦。死亡フラグが立つかと思いきや、自分たちが保有する大量の銃やライフルを撃ちまくってモンスター(「グラボイド」という名前があるらしい)を撃退し、勝利する。
夫のバート(マイケル・グロス)と妻のヘザー(リーバ・マッキンタイア)は見事な連携とガンさばきで、地下の壁を突き破ってきた化け物を仕留める。この夫婦めっちゃかっこいいではないか!
お互いを愛し、完全に信頼し、自分たちが取り扱うものに精通し、ちょっと頭の固い夫を柔軟な妻がサポートする、怖いものなしの最強無敵の夫婦。わたしはこの夫婦を映画界の籠池夫妻と呼んでいる。
『トレマーズ』は劇場ではなくビデオやDVDで人気を集め、いつの間にかシリーズ化されていた。わたしは観ていないが、続きのシリーズの主役はバート・ガンマーらしいから、やっぱり他の観客も制作陣もこのキャラクターが気に入っていたのだ。
劇場で大ヒットした映画はみんな知っている。バイヤーは興行成績の数字を見て仕入れる数を決める。それは分かりやすいがつまらない仕事になる。そういうのはA.I.に任せればいい。『トレマーズ』のように劇場はコケたけれど中身がめちゃめちゃ面白い作品こそがレンタルを盛り上げる。『ヒドゥン』も『ゼイリブ』も『恋はデジャ・ヴ』も『いとこのビニー』も、そして『ショーシャンクの空に』も『ユージュアル・サスペクツ』も。
わたしの仕入れ方針はいつも「トレマーズ風のやつを探せ」だった。