懐古 アメリカ映画の1971年
昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。
「1960年」を初回に、前回「1970年」まで11回にわたって当時の名作に触れてきた。
今回は、アメリカ映画が ‘暴力描写’ という表現について大きな変革の年となった「1971年」(昭和46年)の話題作を御紹介したい。
「フレンチ・コネクション」 監督:ウィリアム・フリードキン


第44回 米アカデミー賞・作品賞受賞。
マルセイユからの麻薬密売ルートを追う、ニューヨークの鬼刑事の奮闘を描く。
事件はニューヨークとマルセイユの2か所で同時進行していく。マルセイユでは刑事が男に射殺された。ニューヨークの裏街では、麻薬課のジミー・ドイル(ジーン・ハックマン)とバディ・ロッソ(ロイ・シェイダー)の2人の刑事が、麻薬の売人を逮捕した。やがてマルセイユから麻薬組織の元締めシャルニエ(フェルナンド・レイ)が、ニューヨークへやって来た。二つの点は一つの線となり、この犯罪ルートこそが ‘フレンチ・コネクション’ と呼ばれる大犯罪組織だったのだが...。
高架線下の凄まじいカー・チェイス、地下鉄での追跡シーンなど、スピード感あふれる映像が観客の度肝を抜いた。
ジーン・ハックマンは、人間臭い、型破りな新たな刑事像を体現してみせ、アカデミー主演男優賞を受賞した。時に40歳、脇役から叩き上げた遅咲きスターが誕生した瞬間だった。
その彼も、過日2025年2月18日、95歳で逝去、合掌。
尚、本作には実在の刑事エディ・イーガンとソニー・グロッソが出演している。
又、女性人気ボーカル・グループ「ザ・スリー・ディグリーズ」も出演している。
「ラスト・ショー」 監督:ピーター・ボグダノヴィッチ


寂れていく町の姿と、失われていく青春の悲しみをダブらせながら、一つの時代の終わりをノスタルジックに見せた感動のドラマ。
1951年、テキサスの小さな町アナリーン。高校生のソニー(ティモシー・ボトムズ)とデュアン(ジェフ・ブリッジス)にとって、町にたった一つしかない映画館は、恋人とデートできる唯一の場所だった。映画館の経営者サム(ベン・ジョンソン)は、西部時代のカウボーイの生き残りで、ソニーは彼に愛情と尊敬の念を抱いている。サムが急死した後、デュアンの恋人ジェイシー(シビル・シェパード)に翻弄されて、ソニーとデュアンの友情にヒビが入るが、デュアンが朝鮮戦争に出征することになった日、2人は閉館間近の映画館に出かける...
主役のティモシー・ボトムズやジェフ・ブリッジスがストーリーの中心となっているのは間違いないが、彼らを取り巻く共演陣の充実ぶりが、この映画の成功の下支えとなっている。
愛に飢えた中年の人妻を演じたクロリス・リーチマン、スナックの気さくなおばさんを演じたアイリーン・ブレナン、ボトムズ兄弟の三男で、頭の弱いビリー少年を演じたサム・ボトムズ、さらにエレン・バースティン、クルー・ギャラガー、ランディ・クエイドといった曲者揃い。
本編に登場する映画館で、「花嫁の父」、「赤い河」が上演されているのも興味深い。
「ダーティ ハリー」 監督:ドン・シーゲル


クリント・イーストウッドの代表作で、彼がスタントマンを立てることを拒否して臨んだ、アクション豊富なサスペンス刑事アクション。本作を含めて5作品が製作・公開された。
サンフランシスコのビルの屋上から、一般市民が銃撃される事件が起きた。犯人は10万ドルを要求し、支払わなければ次の犠牲者を狙うと警察に通告する。殺人課の敏腕刑事ハリー(クリント・イーストウッド)は、犯人を待ち伏せするが、激しい銃撃戦の末に取り逃がしてしまう。その後、犯人は14歳の少女を誘拐して20万ドルの身代金を要求、ハリーは20万ドルを手に、犯人の指定したマリーナへ向かうのだが...。
この映画の成功はイーストウッドの演技に負うところが大きい。
ハリーの性格は本質的に ‘勧善懲悪’ の西部劇ヒーローと同じであり、それを現代に置き換えた存在だ。犯人を捕まえる能力は素晴らしいが、警察として許される法の限度内にとどまることが出来ない。その無鉄砲ぶりをイーストウッドが実にダイナミックに演じている。
ハリーの上司を演じたハリー・ガーディノ、市長役のジョン・ヴァーノンのほか、犯人サソリを演じたアンドリュー・ロビンソンなど、強烈な個性をもった俳優が多数出演している。
映画の主人公が、観客の求める空想を実現することは、ある意味 ‘ファンタジー’ であり、その空想の世界が暴力とニヒリズムを内包している...「ダーティ・ハリー」とはそういう映画ではないだろうか。
「コール・ガール」 監督:アラン・J・パクラ


屈折した人生を送る女と警官の心のふれあいを通して、現代アメリカの生態を捉えたミステリー。
失踪した科学者グルマンの行方を追って、ペンシルベニアの片田舎からニューヨークに乗り込んだ警官のクルート(ドナルド・サザーランド)は、唯一の手掛かりのグルマンがコールガールに宛てた手紙を頼りに、舞台女優志願のコールガール、ブリー(ジェーン・フォンダ)に協力を依頼する。しかし、警察に恨みを持つブリーはそれを拒否する。クルートはブリーと同じアパートの一室を借り、彼女の監視を始めるのだが...。
ジェーン・フォンダは役作りのため、ニューヨークの売春婦たちと1カ月間生活を共にしたが、短髪にしていたせいか、誰も彼女がフォンダだと気づかず、交渉してくる客もいなかったという。 ‘私は売春婦として全然ダメだって分かったわ’ と述べているが、この努力によって見事アカデミー賞・主演女優賞を手にしたのだ。
ゴードン・ウィリスのカメラも素晴らしく、極端な光と影の連写は、怪しげで風変わりな場所を撮影に選んでいることがうかがえる。
まるで幻覚のようなムードを加え、人間の邪悪さや性の暗部という、この作品のテーマを映し出しているかのようだ。
「アンドロメダ....」 監督:ロバート・ワイズ


宇宙から侵入した病原体による恐怖を描くSFアクションだが、本作の恐怖感は独特のものである。
それは細部にわたる周到な描写と、緊迫感溢れるドキュメンタリー・タッチに徹頭徹尾こだわった演出にほかならない。
ニューメキシコ州の片田舎ピードモントに衛星が落下した。陸軍兵が回収に赴くが、一帯は死の村と化し、赤ん坊とアル中の男だけが生き残っていた。事件を重く見た国家安全保障局は、秘密裏に召集されたストーン博士(アーサー・ヒル)、ダットン博士(デヴィッド・ウェイン)、ホール博士(ジェームス・オルソン)、それに女性科学者のレーヴィット博士(ケイト・リード)を動員、地下研究所で必死の分析を開始する。ストーンとホールは、住民達の急死は衛星の中の微生物が原因と断定するが、死者の血液が粉末状になるほど凝固しており、微生物(アンドロメダ・ストレイン)の正体は不明だった。そんな折、ダットンの研究室が汚染される...。
映画の冒頭、次の文章が流れる。
---これはアメリカ最大の科学的危機の記録である。スクープ計画及びワイルドファイア研究所関係者、彼らの協力で正確かつ詳細な描写が可能に。これらの記録の公表による国家安全保障への危険はない---
‘危険はない’ とはいうものの、本作のラストは意味深な描写で終わっている。
中盤はやや中弛み感はあるものの、ラストは一気に緊張感に包まれ、手に汗握る展開となる。
血液と呼吸の関係や、滅菌の方法(ヨウ化物を雲に散布、雨で海まで運びアルカリで殺す??)など
科学的な専門知識がないと理解不能の側面もあるが、それを上回るラストのサスペンスだ。
「バニシング・ポイント」 監督:リチャード・C・サラフィアン


暴力描写という点では「ダーティ ハリー」と「フレンチ・コネクション」に一歩譲るも、本作も暴力を狂気のスピードに置き換えた傑作だ。平均時速200キロで、警察に追われながらスピードの限界に挑む男の姿を描いたカー・アクション。
海兵隊出身で元警官のコワルスキー(バリー・ニューマン)は、今は車の陸送屋をしていた。デンバーからサンフランシスコまで15時間で行けるかという賭けをしたコワルスキーは、平均時速200キロでハイウェイを疾走する。車は白の1970年型ダッジ・チャレンジャーだ。白バイの追跡をあっさり振り切ってユタ州に入ったコワルスキーを逮捕せんと、警察の追跡はさらに執拗となる。コワルスキーは更にスピードを増し、張られたバリケードも突破した。このニュースを聞いた盲目のディスクジョッキーのソール(クリーヴォン・リトル)が彼を応援、警察の通信を傍受して情報をコワルスキーに流し始めた。続いてネバダ州に入ると、数台のパトカーが追跡してきた。コワルスキーは自分が警察署に勤めていた頃のことや、海兵隊時代のことを思い出す...その時、大きな爆発音によって回想は破られる...。
単なるロードムービーではなく、主人公の回想シーンによって様々な過去の出来事が映し出される。それらはコワルスキーの人格形成に少なからず影響しているのだろうか。回想シーンが終わった後も、コワルスキーの行く手に彼を応援してくれる人物が登場する。特に砂金取りの老人(ディーン・ジャガー)は出色だ。デラニー&ボニー&フレンズらが奏でるニューロックやカントリーの挿入も効果的だ。
暴力を描いた作品として「時計じかけのオレンジ」という秀作も挙げられるが、英米合作のため、上段には取り上げなかった。他の作品では、「屋根の上のバイオリン弾き」、「ウィラード」、「白い肌の異常な夜」、TVMだが「激突!」などが印象深い。
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投稿を表示先日のDiscover usイベント後の二次会で、映画の公開された年で誕生年を当てるみたいなことやったのですが、私の誕生年、フレンチコネクションにダーティハリーかっ!
なかなかかっこいい!!
しかし、誕生年と映画のヒーローに似るかどうかはあまり関係なかったようで愕然としてます(笑)
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投稿を表示「コールガール」は、屈折した人生を送る女と私立探偵の男の心のふれ合いを中心に、コールガールの生態や大都会の断面を鋭く捉えた秀作だと思います。
この映画「コールガール」の主演女優のジェーン・フォンダは、1960年代後半にヴェトナム反戦運動に目覚め、自分自身でFTAという反戦グループを設立し、その反戦運動の同士でもあった、ドナルド・サザーランドとタッグを組んでこの映画に出演した、いわば、1970年代を象徴する女優だと言えます。
監督は、当時、デビュー作のライザ・ミネリ主演の「くちづけ」を撮り、後に「大統領の陰謀」という社会派の政治サスペンス映画の秀作を、そして「推定無罪」というサスペンス・ミステリーを撮ったアラン・J・パクラで、当時、バリバリの反戦女優で、ラディカルなイメージだったジェーン・フォンダから最高の演技を引き出し、この一作を契機に演技派女優へと開眼させていったのです。
ペンシルヴァニアにある研究所の科学者グルマンが、謎の消息を絶って数カ月。彼の上司ケーブルは、警察の捜査がはかどらないのでグルマンの幼友達で警官のクルートに依頼します。
そして、私立探偵になったクルートは、ニューヨークで生計を立てて、舞台女優を目指しているというコールガールのブリー(ジェーン・フォンダ)に宛てて、グルマンが書いたという猥褻な手紙を手掛かりに捜査を始めます。
クルートはブリーに捜査の協力を求めますが、警察への恨みを持つ彼女は、冷たく彼を追い返したりします。
そこで、クルートはブリーと同じアパートの一室を借り、彼女を監視する中で、ブリーの心が和らぎ、やがて彼女の協力でクルートの捜査線上に、意外な人物が浮かび上がって来て------。
この映画の邦題から受ける印象は、何かアメリカのコールガールの生態でも描く風俗映画のような感じですが、ところが、この映画は大都会ニューヨークに渦巻く甘美な情事の謎を、ハードボイルド・タッチで解明していくミステリー仕立てになっています。
そして、この映画の最大の見どころは、私立探偵となったクルートが丹念に謎を解いていく過程と、彼と舞台女優志願のコールガール、ブリーとの人間的な反目と結びつきに、このドラマの面白さが秘められていて、それと併せて、ニューヨークという砂漠のような荒涼とした大都市に住む人間の"無限地獄のような孤独や不安定な心理"に焦点を絞って描いた、優れた心理ドラマになっているのです。
そして、このジェーン・ファンダが演じるブリーという女性の、大都会の中で他人との深い関わり合いを持つ事を極力嫌うヒロイン像というのは、人間同士のコミュニケーションが希薄になっている現代社会の在り方を象徴する人物像になっていて、華やかできらびやかに見える大都市生活の裏側に潜む感情を、醒めた眼で冷ややかに見つめるアラン・J・パクラ監督の演出のうまさに引きずり込まれてしまいます。
また、ブリーという女性の全てを受け止める男の役を静かな抑えた演技で好演するドナルド・サザーランドのうまさにも唸らされます。
ニューヨークのハーレムでの現地ロケを敢行し、大都会の裏側の生々しい生態をリアルに映像化したゴードン・ウィリスの撮影が、我々観る者の心に冷え冷えとした臨場感を持たせる効果を与えてくれます。