おススメしたい“音楽映画” PART Ⅲ
おススメしたい「音楽映画」を以下の3つのカテゴリに分類しました。
①音楽/ミュージシャンが主役の作品
②音楽が印象的な作品
③音楽と映画が融合した作品
その③、「音楽と映画が融合した作品」を振り返ってみました。ミュージカル映画をはじめ、音楽抜きには成立しない数々の作品の中から、印象深かった“名作”をご紹介させて頂きます。
①フラッシュダンス(1983年)
当時その映像美に、これぞ映画のダイナミズムだと大層刺激を受けた作品。ストーリーは映画のアイデンティティにとって付け足しでも問題ないのだと、映像至上主義な思いを肯定もしました。あの頃僕は若かった。
ロック・ミュージシャンがビデオ・クリップと共に新作を発表するようになったのもこの時期。音楽と映像の融合が映画の世界にも波及し、この作品も挿入歌が大ヒットすると共に、アレックス(ジェニファー・ビールス)が水を浴びるダンス・シーンは色んなところで流用/パロディ化されたものでした。
映画以上に、音楽は時代性の呪縛から逃れようがない。"映画音楽"を超えたジャンルとコラボした結果、この作品も80’sのミュージック・ビデオを懐かしむのとどこか似た面持ちで10年程前に観返したところ、エイドリアン・ライン監督の奏でる美しい映像はとても心地良かった。ダンス、そしてフィジカルな女性美を斬新に演出する中で、かつてのヒット曲はシーン毎に実に効果的にあてがわれている。正直、今尚カッコイイと思えました。ブレイクダンスするストリートダンサーのシーンなんてゾクゾクした。
ジェニファー・ビールズのあどけない笑顔も魅力的。フィルモグラフィーを見ると今もTVを中心に活動しているみたいだけれど、どこかで見かけたら「うわっ、懐かしい!」と声を上げてしまいそう。
エイドリアン・ライン監督はこの後「ナインハーフ」「危険な情事」(怖かったなこれ)と話題作続くも、90年代以降はあまりパッとしない。改めて観返してみるとこの作品も監督も、再評価されてもおかしくないんじゃないかと思えました。
②恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ(1990年)
観終わった時点で、ミシェル・ファイファーに恋した1本。大人の恋を魅惑の歌声と粋な駆け引きと共にジャジーに描いたこの作品は、気が付けばマイ・フェイバリットな1本にもなっています。
個人的な好みのタイプの正反対にいるようなスージー@ミシェル・ファイファーなのだけれど、先ずはそのアンニュイな歌声にやられました。
すれっからしなあばずれ女風に登場しておきながら、実は頭の回転が良く機転が利いて人を見る眼がある。そのくせおっちょこちょいで好きな男の前では初心になる。あー、それって「プリティ・ウーマン」のヴィヴィアンみたいだ。
夢と現実の狭間でくすぶり続けていたジャック(ジェフ・ブリッジス)の男っぷりと、スージーの女っぷりとがそのピアノの腕前と歌声同様に共鳴し、ほろ苦い大人の恋物語に仕上がっています。実の兄弟でもあるジェフとボーの二人が演じた"ベイカー・ボーイズ"の絆と葛藤と共に、人情味のある演出が光ります。
制作総指揮はシドニー・ポラック。彼の作品と相通じる人間味や出会いと別れの方程式がこの作品にも息づいているように思えてならない。本作が監督第1作となるスティーヴ・クローヴスは1960年生まれで撮影当時は29歳という若さ。こんな佳作を世に送り出しておきながら、監督作品はこれを含め僅かに2本で、2000年以降はハリー・ポッター・シリーズを中心に脚本家として名を馳せている。
音楽を担当したのはポラック監督作品でもお馴染のデイヴ・グルーシン。
ミシェル・ファイファーは本作品以降、彼女の名前がクレジットされているだけで観賞意欲が湧く女優さんとなりました。
③ウエスト・サイド物語(2013年)
日本公開は1961年、私が劇場で観賞したのは2013年。
オープニングに、字幕でご丁寧に「序章(4分)」と表示される。これから始まる至高のミュージカル映画に相応しい、ワクワク・ドキドキ感溢れる静止画が続く。
そしてその後は、あっという間の152分。バーンスタインの名曲の数々に、計算し尽くされた歌とダンス。本作を観賞するきっかけとなった「新・午前十時の映画祭」は「デジタルで蘇る永遠の名作」と謳っていましたが、1961年に公開されたこの作品が51年を経て色鮮やかに日本の映画館で上映されている事に感動すら覚えました。素晴らしきデジタル・リマスタリング状態。
ブロードウェイ・ミュージカルを映画化するにおいて、やはり重要なのは映画の醍醐味。「シカゴ」みたいに映画で"舞台"をそのまま再現する事に何の意味があるというのでしょう?
ロバート・ワイズと舞台版の監督であるジェローム・ロビンスの二人が監督としてクレジットされている本作品は、映画でしか成し得ない"ストリート・ミュージカル"の傑作でした。1960年代、映画というエンタテインメントが背負っていたものの重さも感じる、二度とこんな作品はできないだろうと思わせる名作でした。
タモリさんじゃないけれど、私もミュージカルが苦手でした。中学時代には「ザッツ・エンタテインメント」を観に行ったりして勉強もしたのだけれど、基本的に敬遠していました。若い頃にこの作品の凄さを理解できた自信はないけれど、この歳になって初めて劇場で観て、水野晴郎さんのあの名調子(若いコは知らんか)が頭を過りました。
できれば是非とも大画面で観て欲しい作品です。
④ラ・ラ・ランド(2017年)
締め括りはこちらの作品で。
もうね、渋滞する高速道路上で始まるそのオープニング・シークエンスとタイトルクレジットで拍手したくなりました。映画でミュージカルをやる醍醐味とはこういう事なのだ。
ミュージカル映画のタイプとしては、ウディ・アレン監督の「世界中がアイ・ラヴ・ユー」を連想しました。ライアン・ゴズリングのやや鼻にかかった声質はエルヴィス・コステロのように甘い。普通に可愛い現代っ子風なエマ・ストーンの頑張り屋さんぶりも素敵。
そして小道具、色彩、コンビネーションとワクワクする歌と踊りに魅了される128分。デイミアン・チャゼル監督のセンスと才気に恐れ入る。「セッション」観逃がしたのを後悔しました。
二人の"夢追い人"の出会いと夢とロマンスが、ミュージカル映画らしい起承転結のテンポで季節と共に駆け巡る。そして二人が選んだ人生にもう一つの選択肢が懐かしい調べとオーバーラップするラストにグッときました。古き懐かしき映画への賛辞とオマージュに溢れた、まさに温故知新の粋な現代風ミュージカル。
エンドロールに流れるエマのハミング・バージョンの主題歌も素敵です。
以上、おススメしたい「音楽映画」でした~