科学者と、軍人と、政治家と...
オッペンハイマー (2023年・モノクロ及びカラー、180分)
監督:クリストファー・ノーラン
この映画には、原爆が投下された広島、長崎の悲惨な実写映像がまったく登場しない。
その点を最も評価し、支持したい。
天才物理学者ロバート・J・オッペンハイマーは、如何にして「マンハッタン計画」に関わり、本格的な原爆開発に取り組んできたのか。
そしてアメリカ原子力委員会のルイス・ストローズ少将(委員長)が、オッペンハイマーと対立した背景に何があったのか。
この映画はアメリカにおける核開発の歴史を、客観的且つ信憑性を追求して描いたドラマである。
過去の年代毎の出来事を、時系列を交錯させる手法で描きつつ、モノクロとカラー映像の使い分けも見事。
まさに卓越した編集技術、編集の妙で成功した映画である。
第二次世界大戦後、赤狩り旋風のなかの1954年。
天才物理学者オッペンハイマー(キリアン・マーフィ)はソ連のスパイ容疑をかけられ、聴聞会で追及を受けている。彼の妻キティ(エミリー・ブラント)や、実弟のフランク(ディラン・アーノルド)が元共産党員であったことで、オッペンハイマー自身も共産主義者の嫌疑をかけられていたのだ。
画面は突然1926年に変わる。ハーバード大学を優秀な成績で卒業したオッペンハイマーは、英国ケンブリッジ大学への留学を経て、ドイツのゲッティンゲン大学に留学する。彼はそこで物理学者のボーア(ケネス・ブラナー)やヴェルナー(マティアス・シュヴァイクホファー)と出会い、影響を受けて量子力学への研究を始める。3年後、博士号を取得したオッペンハイマーは米国に戻り、核分裂の応用で原子爆弾が開発できないかと考えるようになる。ナチス・ドイツも核開発を進める中、やがて第二次世界大戦勃発。1942年10月、オッペンハイマーは米軍のレズリー准将(マット・デイモン)から「マンハッタン計画」における原子爆弾開発のリーダーに任命される。1947年、米原子力委員会のルイス・ストローズ委員長(ロバート・ダウニー・JR)は、オッペンハーマーと初めて出会った際、自分を卑下されたような言葉を浴びせられる。2年後、水爆開発についての討論でも意見衝突したことから、2人の確執が続くことになるのだが...。
出演シーンは短いが、本編には多くの名優たちが出演している。
ゲイリー・オールドマン:第33代アメリカ大統領ハリー・S・トルーマン役。
ラミ・マレック :マンハッタン計画に参加した科学者、デヴィッド・L・ヒル役。
ジョシュ・ハートネット:カリフォルニア大学バークレー校での、オッペンハイマーの同僚アーネス
ト・ローレンス役。実験物理学者。
ケイシー・アフレック :アメリカ陸軍情報将校ボリス・パック役。
フローレンス・ピュー :アメリカの精神科医で共産主義者のジーン・タトロック役。オッペンハイ
マーと一時恋仲となる。
ジェイソン・クラーク :聴聞会における原子力委員会の弁護人ロジャー・ロップ役。厳しい口調で
詰問する。
そして懐かしきトム・コンティが、アインシュタイン博士役で出演している。とても彼とは分からなかった。
トム・コンティといえば、「戦場のメリークリスマス」(83年)で有名に。「ダークナイト・ライジング」(2012年)にも出ていた。
更に、マシュー・モディーン、ジェームス・ダーシー、トニー・ゴールドウィン、デヴィッド・クラムホルツ、グスタフ・スカルスガルド(ステラン・スカルスガルドの息子)ら、20名以上の中堅俳優が脇を固めている。
出演俳優の顔ぶれを見て感じたことは、アメリカ映画の中心を成す俳優たちは、すっかり様変わりしたということ。
特に、ここ10数年で、主役級の俳優メンバーが入れ替わった感がある。
60年代、70年代の名画に親しんできた吾輩にとっては、鬼籍に入った俳優の名が懐かしい。
1945年8月6日、広島への原爆投下が報道された後、集まった米国市民たちの拍手や歓声が、暫くすると無音になる。
これは何を意味するのか。
興味深いセリフも登場する。
‘我は死なり 世界の破壊者なり’ ‘神の力の恐るべき啓示’
第96回 米アカデミー賞作品賞受賞。
監督賞受賞(クリストファー・ノーラン) 主演男優賞受賞(キリアン・マーフィ) 助演男優賞受賞(ロバート・ダウニー・JR)
助演女優賞ノミネート(エミリー・ブラント)