2025年に観た映画(4) 「お坊さまと鉄砲」

かつて新婚の国王夫妻が来日し、日本でも注目を浴びたブータン。その独自の価値観や国民総幸福量(GNH: Gross National Happiness)という政策が、「世界一幸福な国」として話題にもなりました。その後国連が2013年に発表した「世界幸福度報告書(World Happiness Report)」でも北欧勢に次いで8位にランク入り(日本は43位)し、この国のイメージが定着したのもこの頃です。
そんなブータン王国において、絶対君主制から立憲君主制への移行を果たしたのが2008年。本作はその2年前の2006年の山村を舞台に、突如として国の運営を尊敬する国王からその手に移譲された民の側が、選挙という初めての経験に戸惑い翻弄される悲喜交々を描いた作品。
突然師から不穏な命を受けた若き僧侶。田舎の山村に眠る“お宝”の存在を嗅ぎつけ、金儲けに走る男。選挙がもたらしたぎくしゃくする人間関係に翻弄される一家。そして初の選挙実施に向けて、国を挙げて「模擬選挙」なるイベントを開催し、新しい制度への国民の理解と浸透を図ろうとする選挙委員。
一貫しているのは、パオ・チョニン・ドルジ監督の同胞に対する温かな視線。ブータンの美しい山村風景の中で暮らす人々の様子が、ゆったりとした時間軸の中で描かれる。それは刺激的な事件やアクション映画に慣れた私達からすると少々退屈に思えてしまいかねない出来事でもありますが、その中で唯一タイトルにもなっている物騒な代物が、実にいい働きをする。
同時進行する4つの物語が1箇所に集まるそのラスト、この国を愛してやまない監督の思いと願いが詰まったその結末に、胸が熱くなり、心癒され、たとえ国の制度が変わってもこの国の美徳が変わらずにいてくれる事を願わずにはいられなくなりました。
終わり良ければ総て良し。観終わった後の読後(?)感がすごくいい。感想を書いている翌日とかもその余韻が後を引いています。この映画のラストは、もはや名作の部類に属しているのではなかろうか。
監督のデビュー作「ブータン 山の教室」も是非観賞したくなりました。
№4
日付:2025/1/25
タイトル:お坊さまと鉄砲 | THE MONK AND THE GUN
監督・脚本:Pawo Choyning Dorji
劇場名:あつぎのえいがかん kiki スクリーン2
パンフレット:あり(¥900)
評価:6






「ブータンが「世界一幸福な国」と言われているのは何故でしょうか?」とChatGPTに質問したところ、以下の回答が返ってきました。
1. 国民総幸福量(GNH: Gross National Happiness)
ブータンでは、経済的な発展指標であるGDP(国内総生産)ではなく、国民の幸福度を測るGNHを政策の中心に据えています。GNHは以下の4つの柱から成り立っています:
・持続可能な社会経済開発
・文化の保護と促進
・環境保全
・良い統治
この考え方は、人々の生活の質や幸福感を向上させることを重視しています。
2. 自然環境の保護
ブータンは地球環境を非常に大切にしており、国土の約70%を森林が占めています。また、憲法では森林面積を少なくとも60%以上に保つことが義務付けられています。
カーボン・ネガティブの国として、排出する温室効果ガスよりも多くの二酸化炭素を吸収している点でも注目されています。
3. 精神的・宗教的価値観
ブータンでは仏教が深く根付いており、人々は物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを追求しています。
仏教の教えに基づき、個人や社会全体の調和を重視し、過度な競争や消費主義を避ける文化があります。
4. シンプルで満足感の高い生活
人々の生活はシンプルで、コミュニティのつながりが強く、助け合いの精神が根付いています。
都市化や工業化が進んでいる国々と比べて、生活のリズムがゆっくりしており、ストレスが少ない環境です。
5. 政策と教育の幸福重視
教育や医療は無料で提供されており、国民が基本的な生活の安定を享受できるような仕組みがあります。
また、政府の政策は経済成長だけでなく、国民の幸福を直接的に向上させることを目指しています。
6. 外部の影響をコントロール
ブータンは外部からの文化的・経済的な影響を慎重にコントロールしており、伝統文化や価値観が保たれています。
例えば、観光客の受け入れを制限し、持続可能な観光を促進しています。
まとめ
ブータンの幸福観は、物質的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさや環境との調和、コミュニティのつながりに重点を置いています。そのため、国際社会から「世界一幸福な国」として注目されています。ただし、ブータンにも貧困や経済的課題があり、全ての人が同じように幸福であるわけではない点も留意すべきです。
3.や4.についてはまさに本作で描かれている内容で、経済成長ばかり重視し物欲にまみれた先進諸国民の一員である日本人の目から見ても見習いたい美徳でもあります。
国連が発表する「世界幸福度報告書(World Happiness Report)」において、2013年の8位から2019年には95位に低下したブータンですが、それはそもそも「幸せ」を測る“ものさし”にも問題があるようです。ブータンの独自指標である「国民総幸福量(GNH)」は、5年に一度全国規模の調査が実施され、その結果がブータン政府の政策立案や予算配分に活用され、国民の幸福度向上を目指した取り組みに反映されているそうです。

<CONTENTS>
・イントロダクション
・ストーリー
・ブータン王国について
・レビュー 暉峻創三(映画評論家)
・パオ・チョニン・ドルジ監督インタビュー
・キーワードから紐解く『お坊さまと鉄砲』の社会背景 平山雄大(日本ブータン研究所代表)
・エッセイ 御手洗瑞子(元ブータン政府初代フェロー)
・コラム 本林靖久(宗教人類学者)
・キャスト
・スタッフ
・クレジット
