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cine-ma
2025/03/11 09:51

秀逸なプレゼン手法としてのドキュメンタリー映画 2選

ドキュメンタリー映画、つまりはノン・フィクション。その映像が映し出すのは現実世界の“事実”ではあるけれど“真実”ではない。そしてそこには基本的に報道の公平性とかも存在し得ない。だから作品の中で描かれる“事実”は側面でしかない。
という事を教えてくれた、ドキュメント映画2選。


ボウリング・フォー・コロンバイン(2003年)

ドキュメンタリー映画を商業映画として成立させた第一人者でもあるマイケル・ムーア監督。
公開から20年以上を経て観ても、本作におけるその“手口”は古びる事無く軽妙で鮮やか。事件を契機に生じる素朴な疑問を足で解明しつつ、広い視野で問題の連鎖を手繰り寄せる。優れた「プレゼンテーション・ムービー」として本ドキュメンタリー映画が商業映画としても機能しているのを改めて認識しました。

再見して興味深かったのが、銃所持に寛容なカナダとアメリカの銃による死亡者数の差(カナダの165人に対し、米国は11,127人)。デトロイト川を挟んで隣り合うウインザーとデトロイトでの聞き取り調査で浮かび上がる両国両都市における相似点と相違点。ちなみにカナダでは当時より更に銃規制が強化されているのが現状です。
一方、この映画が公開されて20年超経過するも、事態は何も好転していないという事実。愚かなり人類?愚かなり合衆国?

結局ムーア監督作品を観賞したのはこの1本のみ。「華氏119」は観とけばよかった。この国の盟主に返り咲いた途端、その本領を発揮している今だからこそ、再びムーア監督の出番なのではと思います。
第75回アカデミー賞ドキュメンタリー長編賞受賞。


ザ・コーヴ(2010年)

このドキュメンタリー映画は下手な娯楽作品よりもよっぽど面白かった。
「わんぱくフリッパー」の元調教師でもあり、イルカを利用したショー・ビジネスを立ち上げた張本人でもあるリック・オバリー氏。彼がイルカの保護運動に走る経緯を、かつての愚行を反省した欧米人の贖罪行動として、この活動の倫理面における正当性の柱に据えている。

アウエーに乗り込んだ彼らと地元住民との軋轢。
証拠を押さえるべくリックが企んだ作戦を遂行する為の人集めは、スパイ映画顔負け。地元民の徹底した排除行為の網を潜り抜け、その決定的な瞬間を手に入れるまでの緊張感ある行動に息を呑む。

そしてラストに待ち受ける凄惨なシーン。

実はこのラストにこそ最大の問題が存在します。彼等が決死の(?)覚悟で潜入したあの入江は、地元のイルカ猟師にとっては「と殺場」に過ぎないのだから。凄惨な現場なのが当り前。イルカを殺して食べるのが当たり前の食文化である人達(≠国)にとって、あの現場をまるでアウシュビッツの処刑場であるかの如く紹介されてしまっては心外極まりない事でしょう。

とにもかくにもお金を払って観に来る客への対処法(=映画を作る術)をちゃんと心得ている監督さんだとお見受けしました。当時本作品の上映に反対する人達の行為が目立ったのは、この作品の持つ力を恐れたからではないかと思えてしまいました。
第82回アカデミー賞ドキュメンタリー長編賞受賞。

(C)OCEANIC PRESERVATION SOCIETY. ALL RIGHTS RESERVED.

例えば「ザ・コーヴ」の中で、撮影クルーを地元民が威嚇・恫喝するシーンが出てくるのですが、これが同じ問題を扱ったNHKの特集番組だと、イルカ保護団体が日本人を口汚く罵るシーンに取って代わっています。
どちらも“事実”ですが、片方だけ観るのと両方観るのとでは現場の状況への認識が大きく異なる事になる。

上記の2作品や「ノー・アザー・ランド」のようなメッセージ性が高い作品ほど、ドキュメンタリー映画において“事実”を切り取るとはそういう事だと観客の側も肝に銘じた上で、目の前の映像に対峙する必要があると感じます。

 

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