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LOQ
2023/08/02 11:00

【ネタバレ】宮崎駿の「 こんな夢を見た 」というお話。

あらためて申しますが、以下の文はすでにご覧になった方向けです。

 内容に触れ、ネタバレとなっています。やはり、まずは事前に情報を入れずにご覧になってください。

 

 宮崎駿のキャリアを振り返ると、『 ルパン三世 カリオストロの城 』から『 紅の豚 』までを中期、『 もののけ姫 』以降を後期とできると思います。

 中期の作品の特徴は、全能感を与えてくれるファンタジーで『 となりのトトロ 』はまさしくその典型であり、空を飛ぶこと その解放感こそが宮崎アニメの魅力

 この時期の作品は「 金曜ロードショー 」で放送されるたびに観るなどして、いずれも5回は観ています。

 

  後期『 もののけ姫 』以降は世界観が変わりました

 それはまず現実世界の変化の影響があるでしょう。1980年代末ベルリンの壁が崩れソ連が崩壊し、冷戦が終わって世界が平和になるかと思われたが、湾岸戦争が起こりました。バブルがはじけ、阪神大震災、オウム教事件などがありました。  

 

一方で仮想世界はネット空間やVFX、CGなどが発達し、ホンモノとフェイクの見分けがつきにくくなりましたし、高度情報通信社会と高度消費社会は、あらゆるものをあっと言う間に流行おくれの陳腐なものに変えてしまう。 

 現実と仮想。二つの世界は混とんとしてきて、全能感と無力感の間で、私たちは簡単に答えの出ない問いに葛藤して生きていくことになる。

 それが宮崎駿の作品世界の変化でしょうし、細田守新海誠片淵須直らにも共通するものと思います。  

 

(c)2023 Studio Ghibli

 『 君たちはどう生きるか 』

 吉野源三郎の本を予習のため一応読みました。 

 本作の中にも出てはきますが、でも原作ではなく、まったく別物。

今の若い世代への問いかけもまったくないわけではないでしょうが、メッセージ性はまず感じない。  それより若い頃感銘を受けた書として紹介したものと思います。

 

この作品に起承転結のある物語姓やメッセージ性は感じません。

この作品に別のタイトルを付けるとしたら、『 こんな夢を見た 』だと思います。

夢は心に勝手に浮かぶもので、論理的にも感情的にも整合性はありません。

前半のリアルな描写からは『 風立ちぬ 』のような自伝的作品なのかなとも思いましたが、途中からはシュールな幻想で過去作では『 千と千尋の神隠し 』が一番近いと思います。

この作品の夢分析は、作り手の宮崎駿に対しても、観る側の私たちに対しても可能でしょうが、正解はなく、そこから連想するイメージを広げていくだけ。

 

宮崎駿も中期のような作品はもう作れない。

ロキュータス名義のレビュー(  その1)( その2 )にも書きましたが、彼が脚本を書いた『 借りぐらしのアリエッティ 』は『 となりのトトロ 』を自ら分析・批評した作品と思います。

自由な心、イマジネーションは行き詰まり、空を飛ぶことはもはや宮崎駿アニメでは自由を象徴しないのでしょう。

 

『 風立ちぬ 』は自らの資質を育んだ父親と母親を描いた自伝的要素があって、宮崎駿の戦争嫌いでありながらミリタリーオタクな面は、ゼロ戦の部品を作る会社を経営していた父親への葛藤する思いを表していると思います。

『 君たちはどう生きるか 』の父親もそれを踏襲してると思いますし、アオサギ男やインコら鳥の描写もそうでしょう。自由の象徴ではない。

アオサギ男( 声は菅田将暉 )は宮崎駿本人の分身と思います

 

宮崎駿作品の世界観は『 風立ちぬ 』が集大成で完結しているとは思いますが、イマジネーションは終了してないということだと思います。

 

生きる世界は矛盾だらけで、私たち自身もどうしようもない存在。

そこに意味を相殺する虚無に押しつぶされるか、矛盾を超越す力を持った何かを信じるか。宇宙とはカオス(混とんの宇宙)ではなくコスモス(調和のある宇宙)ということなのでしょう。

 

宮崎駿は作品の世界観は変わっても、肯定的な人生観・人間観は変わらず生涯通底していると思います。   

新作が観られることを寿ぎ、愉しみましょう。

 

 

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