2023年に観た映画(37) 「ザ・クリエイター/創造者 」
「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」以来、7年振りとなるギャレス・エドワーズ監督の新作。「スター・ウォーズ」の記念すべき第1作(EPISODE Ⅳ)の前日譚を描いた前作は、スピンオフ的位置付けながら、印象深い作品でした。
自宅のベッドルームで映画作りを始めたギャレス・エドワーズ監督は、低予算のSF映画からハリウッド版ゴジラへの監督オファーを経て、憧れのスター・ウォーズ作品に関わるという成功への階段を着実に歩んできた。やや寡作気味ではありますが、ここ最近の2作品は観客のエモーショナルな面を揺さぶる作品作りに成功していると思います。
「モンスターズ/地球外生命体」(2011年)
未見!
「GODZILLA ゴジラ」(2014年)
監督デビュー作「モンスターズ/地球外生命体」が評判を呼んで、いきなりハリウッドの大作を任された監督第2作目。
これが文化の違いというものなのでしょうか。ディズニーにジブリ作品は作れないし逆もまた然り。それは判っちゃいるものの、ハリウッド版ドラゴンボールにしろATOMにしろこのゴジラにしろ、結局海の向こうの連中はクールJAPANの魅力を全然判っちゃいなくない?と言いたくなりました。そういえばフランス版「ベルばら」(ジャック・ドゥミ監督)も池田理代子先生の世界とは似て非なるものだったなぁ。
そもそも日本が誇る"怪獣王"の名を再び拝借しておきながら、主人公がゴジラじゃない。ゴジラの原点に還った作品だと渡辺謙さんは仰っていたけれど、出自も異なれば核と戦争へのメッセージも描かれていない。
何故だかGODZILLAが後を追うムートーなるエイリアンの出来損ないみたいな巨大生物も、そこに怪獣の美学など何処にも存在しない。だからこいつの相手がGODZILLAである必要性も感じない。米軍の間抜けな介入振りも笑うしかない。謙さん、私ゃ悲しいですよ。
1980年代にヤクルトに在籍した大物大リーガーのボブ・ホーナーは「地球の裏側にもうひとつの野球があった」と名言を吐きましたが、本作は「地球の裏側で作られたGODZILLAはゴジラじゃなかった」と言ってやりたくなりました。
「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(2016年)
ハリウッド版ゴジラに続いて彼に白羽の矢が立ったのが、米国SF映画の金字塔となったシリーズ第1作の前日譚。そのオープニングクロールに記されていた「反乱軍の初勝利」を導いた名もなき戦士たちのエピソードは、本編のアメリカン・プロレス的王道路線とは一味違った味付けとなっています。その象徴がドニー・イェン演じる盲目の凄腕僧侶。"フォース"に憧れる彼が繰り出す剣技が完璧なる東洋の"殺陣"で、これが実にカッコいい。彼だけでなくダース・ベイダーが反乱軍を蹴散らすシーンも同様で、従来のへなちょこチャンバラ劇とは一線を画した出来栄えに感心してしまいました。
「脚本作りが嫌い」という監督をサポートする為、脚本担当に名を連ねた二人。クリス・ワイツはファンタジー物に強く、トニー・ギルロイは「ボーン・アイデンティティー」シリーズをはじめ数多くのスパイアクション作品の脚本・監督を担当している。この辺の強力な布陣はさすがディズニーといったところか。
EPISODE Ⅳの主要キャラクターが何人も時を超えて本作に出演していて、40年前の"続編"へのバトンタッチはなかなかスムース。
そして新たな三部作の完成を前に星になったキャリー・フィッシャー≒レイア姫の最後の台詞が、本作をただのスピンオフ作品に留めることなくシリーズ上の重要な作品に押し上げているようにも私には思えました。
"May the Force be with you."
「ザ・クリエイター/創造者」(2023年)
AIを人類の敵とする欧米諸国と、許容する後進国(ニューアジア)とが対立する未来の地球。AIとの共存を認めない米国が、米国軍人ジョシュアに依頼したミッション。
米軍の作戦が最初から実に行き当たりばったりで、ニューアジア側もお尋ね者のジョシュア一行を密告する者あれば何故か匿う者ありと、その動機が良く判らん。そうこうしながらもアジア各国(のロケ地)を歴訪しながら、彼が追い求める真実に徐々に近づく。
エドワーズ監督はヒトとAIの区別をとことん曖昧にしていて、彼らの振る舞いは機械である事を逸脱し、ほぼ人間と変わらない。観客の側も、もはや異民族の体で感情移入を求められてしまう。話の展開的にも違和感を禁じ得ないのですが、監督は確信犯的に敢えてそうしている事をインタビュー記事で知った。本作で登場するAIは、このSF作品において“リアル”である事を求められてはいない点を割り切る必要はあります。
迫害される側に立って観客を判官贔屓に誘導しつつ、自己犠牲の精神が涙を誘うという展開は前作同様。ここにこの監督の真骨頂があるような。終盤彼が用意するドラマの数々に、涙腺崩壊しました。
次回作も楽しみです。
ちなみに本作は渡辺謙さんの台詞をはじめ様々な言語が交錯する中、いろんな場面で日本語が聞こえてきますので、吹替えよりも字幕版をお勧めします。
№37
日付:2023/10/20
タイトル:ザ・クリエイター/創造者 | THE CREATOR
監督・共同脚本:Gareth Edwards
劇場名:シネプレックス平塚 screen8
パンフレット:あり(¥880)
評価:5.5
<CONTENTS>
監督からの情報が充実していて嬉しい。
・ギャレス・エドワーズ監督より
・イントロダクション
・ストーリー
・キャスト
・監督インタビュー
・ギャレス・エドワーズが探求する、失われゆく“人間性”の可能性 村山章(映画ライター)
・AIは自我を持てるのか?理想的な人間との関係とは 栗原聡(慶応義塾大学理工学部教授)
・時代や社会を映し出す、AI映画の変遷 神武団四郎(映画ライター)
・ChatGPTが選ぶAI映画 作品解説=武藤龍太郎(ライター)
・逆転の発想から生まれた、SFアクション映画の新たなスタンダード 宇野維正(映画ジャーナリスト)
・スタッフ
・プロダクション・ノート
・クレジット