フランス映画はシューベルト作品がお好き?
フランスの作曲家では、たまにドビュッシーの「月の光」やサティの曲が使用されることはあるが、なぜか、古いものから最近のフランス映画作品には、シューベルトの音楽作品がとりいれられていることが多く、あらためて興味がわく。
シューベルトの音楽作品といっても、多いのは歌曲集「白鳥の歌」(D957)の中の第4曲「セレナーデ(Ständchen)」ニ短調で、「シューベルトのセレナーデ」としても、良く知られていて、複数の映画で取り上げられている。切なくやるせない想いとかは、日本人好みの曲の一つかと思うが、欧米の人も好みなのかと・・・。
その他の室内音楽では、弦楽五重奏曲や、ピアノ曲では即興曲や「楽興の時」等が使用され、シューベルト音楽の人気度を改めて理解できる。「楽興の時」の方はCMでも使用されている曲もあり有名である。
■9作品をご紹介!
以下に映画作品が新しい順に、9作品をご紹介する。ただ「美しすぎて」に関しては、レンタルでも難しいので、原語版で鑑賞した。レンタル作品を先にご紹介する。<画像をクリックして下さい。>
■「ふたりのマエストロ/Maestro(s)」(2022)
ブリュノ・シッシュが監督、イバン・アタル、ピエール・アルディティ、ミュウ=ミュウが出演。指揮者の父子が最悪の依頼間違いをきっかけに互いの心と向きあう姿をつづったフランスのヒューマンドラマ。
パリの華やかなクラシック界でそれぞれ指揮者として活躍する父フランソワと息子ドニ。ある日フランソワのもとに、世界最高峰のミラノ・スカラ座の音楽監督への就任を依頼する電話が掛かってくる。ドニはライバルでもある父の成功を素直に喜べずにいたが、翌日、今度はドニがスカラ座総裁から呼び出しを受ける。実は就任を依頼されたのはドニで、父フランソワへの連絡は誤りだったのだ。父に真実を伝えなければならず葛藤するドニだった
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音楽の映画なので、ドボルザーク、モーツアルト等の楽曲が登場したが、エンドロールで「シューベルトのセレナーデ」が使用されている。(以下のPR動画にも、コンサートで披露された曲の一つとしてリストアップされている。)
楽曲の引用でいえば、2月6日に逝去した小澤征爾マエストロが、この映画の2つ目の舞台となるミラノのスカラ座でオペラ上演の指揮棒を振っているテレビ映像が流れた。やはり世界的な音楽家と認められていることが理解でき感激した。曲は三大アヴェ・マリアの一つ「カッチーニのアヴェ・マリア」が演奏されていた。
■「幻滅(Illusions perdues)」(2021)
19世紀フランスの文豪オノレ・ド・バルザックの小説「幻滅 メディア戦記」をグザビエ・ジャノリ監督が映画化。バンジャマン・ボワザン、セシル・ドゥ・フランス、バンサン・ラコスト、気鋭の若手監督のグザビエ・ドランが出演する。
19世紀前半。フランスでは恐怖政治が終焉を迎え、宮廷貴族たちが自由と享楽的な生活を謳歌していた。詩人としての成功を夢見る田舎町の純朴な青年リュシアンは、貴族の人妻ルイーズとパリへ駆け落ちするが、世間知らずで無作法な彼は社交界で笑いものにされてしまう。生活のため新聞記者の仕事に就いた彼は、金のために魂を売る同僚たちに影響され、当初の目的を忘れて虚飾と快楽にまみれた世界へと堕落していく。
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主要なシーンで、「シューベルトのセレナーデ」が使われ、全般、哀愁を帯びた印象になるが、本作には少し優しい気がする。
■「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから (Mon inconnue)」(2019)
監督はユーゴ・ジェラン。主演はフランソワ・シヴィルとジョセフィーヌ・ジャピ。
最愛の女性が自分のことを知らない、もう1つの世界に迷い込んでしまった男性を描いたフランス発のファンタジックラブストーリー。高校時代に出会い、一目ぼれから結婚したラファエルとオリヴィア。人気SF作家として多忙な毎日を送るラファエルと、小さなピアノ教室を運営するオリヴィアの夫婦生活はすれ違いが続いていた。オリヴィアと大ゲンカをした翌朝、ラファエルは見覚えのない部屋で目を覚ます。そこは夫婦の立場が逆転した“もう1つの世界”で、ラファエルはしがない中学教師、そしてオリヴィアは人気ピアニストで、ラファエルのことを知らなかった。
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高校で「シューベルトのセレナーデ」をオリヴィアが弾いている。
また好きな曲として、6月になくなったフランソワーズ・アルディの代表曲の「恋の季節(Le temps de l'amour)」を歌っているが、古いシャンソンも若い人には歌われているのかと思った。
■「テレーズの罪(Therese Desqueyroux)」(2012)
クロード・ミレール監督の遺作。オドレイ・トトゥ、ジル・ルルーシュ、アナイス・ドゥムースティエが出演。
ノーベル賞作家フランソワ・モーリアックの同名小説「テレーズ・デスケルウ」を映画化。1920年代のフランス南西部。政略結婚によってデスケルウ家の当主ベルナールの妻となったテレーズは、愛のない結婚生活や堅苦しい家族制度に息苦しさを感じはじめる。やがてテレーズは、親友でもある夫の妹アンヌが若い青年と恋に落ちたことに刺激され、現在の生活から逃れたいという思いを募らせていく。
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楽興の時 第2番 D780の、穏やかな主部から嬰ヘ短調のエピソードが2度挿入される部分が使用される。この部分は突発的な激情の爆発が表現され、「さよなら子供たち」で使用されているのとは異なる印象があるが、この映画のテーマにぴったりあっている。
■「列車に乗った男 (L‘homme du train)」(2002)
パトリス・ルコント監督作品で、ジャン・ロシュフォール、歌手で「ゴダールの探偵」に出演したジョニー・アリディが出演する。
実直な初老の男とアウトローの中年男、正反対の人生を歩んできた2人が偶然出会い一緒に過ごす3日間の物語。2人の男が互いの境遇を振り返り、夢に見た別の生き方を相手の人生の中に見出し心を通わせていく様を、しみじみと切ないタッチで描いたヒューマン・ドラマ。シーズン・オフのリゾート地。くたびれた革ジャン姿の中年男ミランが列車から降り立つ。店でアスピリンを買ったミランは、そこで狭心症の薬を買おうとしていた初老の男マネスキエと知り合う。そして、ひょんなことからマネスキエの自宅に泊めてもらうことになる。マネスキエは定年を迎え、街から出ることもなく、少年に詩の個人教授をするだけの平々凡々な日々を過ごしていた。
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初老の男マネスキエが、自宅で、ピアノを前に演奏する曲が、4つの即興曲 第2番D 935 変イ長調で、しみじみと奥深く聴き入ることができる。
■「美しすぎて(Trop belle pour toi)」(1989)
ベルトラン・ブリエ監督に、出演はジェラール・ドパルデュー、ジョジアーヌ・バラスコ、キャロル・ブーケ、フランソワ・クリュゼ。
美しすぎる女性を妻にもった男が別の女性との恋に悩む姿を描く恋愛映画。パリ郊外で高級車のディーラーをしているベルナールは、ある日派遣秘書としてやって来た平凡で太めのオールドミス、コレットとなぜか恋におちてしまう。しかし彼には人もうらやむ美しぎる妻フローレンスがおり、コレットにもパスカルという売れない小説家の恋人がいた。ベルナールは、昔はいい時もあったフローレンスとの結婚生活を思い返し、今は何も信じられないと思い始める。一方フローレンスは夫のオフィスを訪ね、ガラス越しにコレットの姿を見、安心して帰るのだった。しかしベルナールとコレットの恋は募り、モーテルでの昼間のデートが始まる。夫の浮気をかぎつけたフローレンスは、そのかけらも見せないようにしながらも取り乱してゆき、次第に家庭が耐え難いものに思えてきたベルナールは、コレットと妻が入れ替わればと思い始める・・・・。
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映画全般で、4つの即興曲 第3番D 899変ト長調等が流れる。ベルナールは、「シューベルトは嫌い」と言ってしまう。
■「インド夜想曲(Nocturne Indien)」(1988)
アラン・コルノーが映像化し、主演はジャン・ユーグ・アングラード。
友人の行方を捜してインドへとやって来たロシニョルは、そこで彼が病気にかかっていた事や、神智学協会とかかわりのあった事を突き止める。そして彼は協会へと赴くが……。この映画での、主人公の魂の紀行を追って描く
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弦楽五重奏曲 D956 第二楽章が使用され、神秘的で幽玄な世界を導いてくれる。
■「さよなら子供たち(Au revoir les enfants)」(1987)
ルイ・マル監督が描く、自伝的色彩が濃厚なナチス占領時代の少年もの。1944年、ナチス占領時代のフランス。パリからカトリック寄宿学校に疎開している12歳の少年ジュリアン・カンタンの学校に、ある日ジャン・ボネという少年が転入してくる。彼は少し変わってはいるが、数学、国語、ピアノなど学業優秀でジュリアンのライバルとなった。初めはどこか打ち解けない2人だったが、次第に連帯感が生まれてきたその頃、ふとしたことからジュリアンは、彼が偽名を使って転入してきたユダヤ人であることを知る……。映画は、彼がユダヤ人であったことを偶然知ってしまったジュリアンの複雑な思い、そしてライバルとして反発しながらも次第に高まりゆく二人の友情を、淡々としながらも詩情溢れる画面から、少年たちの心の動きをくっきりと浮かび上がらせてゆく。
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楽興の時 第2番 D780の最初の主テーマの部分等が使用されているが、その他、楽しい曲も使用されている。
■「赤ちゃんに乾杯!(3 hommes et un couffin)」(1985)
コリーヌ・セロー監督作品で、アンドレ・デュソリエ、ローラン・ジロー、ミシェル・ブージュノーが出演する。
続編は、この初編の映画と同じ、監督と3名の主演俳優というのはすごい。独身生活を満喫している三人の男性の前に突然現れた捨て子の赤ちゃん。三人は協力して赤ちゃんの世話をする事になるが……。勝手のわからない子育てに対する男性陣の悪戦苦闘ぶりが笑いを誘うコメディだが、赤ん坊の母親を名乗る若い女性の出現によって彼らの心境に起きる変化など、人情溢れる描写も良い味付けになっている。
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赤やんのマリーが登場する場面やエンドロールで、弦楽五重奏曲 D956 第二楽章が使われ、穏やかで満ち足りた気分になる。
18世紀から歌われているフランス民謡の「月の光に(Au Clair de la Lune)」を、3名の男性が嬉しそうに合唱している場面がある。
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投稿を表示本当にフランス映画と、音楽が専門のstellaさんの記事!
シューベルトは歌曲数曲以外、ほぼ門外漢なのですが、自分があまり聞かないせいか、
とても地味に感じてしまうのですが、そこをちゃんと映画から感じ取って、曲と
作品のイメージをくみ取ってご紹介するStellaさんの記事、さすがですっ
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投稿を表示すげー記事だヾ(゚д゚ll)
この中でもとりわけ泣けるものはなんですか?
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