ネタバレ『落下の解剖学』から見る真実とは
第76回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドール第81回ゴールデン・グローブ賞では脚本賞と非英語作品賞の2部門を受賞し、第96回アカデミー賞では作品賞を含む5部門でノミネートされている『落下の解剖学』
今回のコラムは、
劇中で描かれるそれぞれの真実について考えたいと思います。題して
『落下の解剖学』から見る真実とは
監督/ジュスティーヌ・トリエ
主演/サンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー
ミロ・マシャド・グラネール
アントワーヌ・レナルツ、サミュエル・セイス
ーあらすじー
人里離れた雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見、悲鳴を聞いた母親が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。転落死と思われたが、不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていた事などから、妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられていく。息子に対して必死に自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。
152分の法廷劇『落下の解剖学』
私は素晴らしい法廷劇だと思いましたが、鑑賞済みの皆さんはどのように感じましたか。
伏線回収や犯人探しに集中するあまり会話に追いつけなかった、など色々な感想をお持ちでしょう。でも1番多い感想が結末がスッキリしない、だと思います。私もそのうちのひとりでした。
早い段階でサンドラの犯人疑惑、物語が進むに連れて判明する彼女の性格や夫婦仲を見たら、ますますサンドラが犯人に思えてくる。
しかも日本版ポスターは某洋画に似ているので、これは最後に白黒付くに決まっている、という思い込みとミスリードを既に私たちはしているのです。
しかし2回鑑賞した私は、結末がはっきりわからない時、私たちは何を真実と決めるのか、それによって何を得られるのか、それが本作のメッセージと受け取りました。
まず本題に行く前にタイトルにもある解剖学のことを説明すると、人体の構造を含め生物の有りさまを、どのような形をしているのか、という側面から研究する学問、との事です。
研究なら本作の脚本に納得、やはり真犯人を突き止める事が目的ではないのでしょう。
その証拠に「私は殺していない」というサンドラに対し、「重要なのはそこではない、君がどう思われるかだ」という弁護士のセリフ。
彼女の無実の訴えではなく、法廷で話す内容を二人で決め、あたかも真実のように振る舞う姿は良くも悪くも相手を印象操作できてしまう。
それにサンドラは小説家です、アドリブでそれらしいストーリーをその場で考えるのは容易な事、自分たちに都合の良い真実だと思います。
また法廷やその他でも、今回の転落死について様々な見解が繰り広げられます。
残された血痕と頭部裂傷を手掛かりに、どうすればこれに結びつくか推測、検証し、真実として発言する。
直接、犯行に絡んだ人物が居ないなかで作り上げた真実…犯罪でなくても現実に起こりうることで、とても恐ろしいことです。
そして本作キーパーソンの息子ダニエル。
「何が真実がわからない時は、心で真実を決めるしかない」
物語の終止符を打つ名言 とも取れる言葉をある人物から受け、ダニエルの表情が変わります。
そして父親との過去を振り返り、法廷で証言する。実際にはあり得ないことですが、それでサンドラに判決が出るのです。(ネタバレするので詳細を書けないのがもどかしい)
ここでダニエルが決めた真実は家族を思っての、何より自分の中で父親の転落死に対して、決着を付けるためのものでした。母親の証言や法廷内容に足りないものを補った、と言った方が近いかもしれません。
考察するのも大変、とにかく深い内容でした。法廷劇は他にも色々ありますが、ここまで観客を置き去りにする作品も珍しい。
以上のように気づいた点を上げましたが、いかがでしたでしょうか。劇中では結末のヒントにもなるそれぞれが決めた真実が描かれていました。でもそれは人を幸せにする場合もあるし、反対に不幸にすることもあります。
本作では人が転落死をしているのに、自分の信じたいことだけを真実とする人間の本性を見た気がします。
明確な答えが出なかった時に、
私たちはどの情報から、どれを自分の中で真実と決めるべきなのか、それを問われている作品だと改めて思いました。更に加えると、ひとつの事から判断せず様々な方面から物事を見るべきなのでしょう。これはまさに解剖学ですね。
今年に入り難解映画が続々と上映されていますが本作もその中のひとつです、考察好きの私には堪らない作品でした。
3月のアカデミー賞の行方が気になります。
余談ですが、どうしても白黒付けたくなった時は、韓国のポスターがヒントになるかもしれません。かなり意味深です。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
インスタでは解剖学から見たレビューを投稿しているので、よろしければそちらも合わせてご覧下さい。
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投稿を表示韓国版ポスター見てないと思うなぁ、どんなのだろ?凄く気になる!これとは別次元だけど、松ちゃんの性加害も何が事実かわからない中、印象で進んでいくなら、どこで落とし所を見つけるのか。ふと気になっちゃった笑
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投稿を表示なるほど 解剖学という意味を知って あの弁護士のセリフに気付いたら 結末はあらかたこうなる事も想像出来たんだね👍監督の頭の中にも最初から犯人探しのストーリーを作るつもりはなかったんだね🤔そこを分かった上で見たら また違う景色が見えるのかな🤔そう考えたらパルムドールも頷けるわけだね✨自分はまだここまでの結論には至れないもん かこさん流石だよ👏
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