「オフィサー・アンド・スパイ(J'accuse) 」 文豪ゾラの視点で!
◆エミール・ゾラからドレフュス事件を知る
4年前から、フランス文学作品が映画化されているものを選んで鑑賞していた頃に、ルネ・クレマンの「居酒屋」(1956)を鑑賞し、原作のエミール・ゾラを知った。誰も助けることをしない結末・・なのだが刹那的に人生を描く自然主義とされる系統の様。マルセル・カルネの「嘆きのテレーズ」(1953 ) 等も魅せられる作品。米国映画の「ゾラの生涯」(1937)を早い頃に鑑賞したが、ドレフュスの妻が作家のゾラに支援を要求しゾラが動いたことに、強烈な印象がある。ちなみにエミール・ゾラは日本ではあまり知られていないが、永井荷風は影響をうけたらしい。セザンヌとは、幼少期からの南仏での友人で、「セザンヌと過ごした時間」(2016)という映画もある。
◆「オフィサー・アンド・スパイ(J'accuse) 」(2019) の概要
ロマン・ポランスキーが19世紀フランスで実際に起きた冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化した歴史サスペンス。作家ロバート・ハリスの同名小説を原作に、権力に立ち向かった男の不屈の闘いと逆転劇を壮大なスケールで描き、2019年・第76回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。フランス・イタリアの映画になる。
1894年、ユダヤ系のフランス陸軍大尉ドレフュスが、ドイツに軍事機密を漏洩したスパイ容疑で終身刑を言い渡された。対敵情報活動を率いるピカール中佐はドレフュスの無実を示す証拠を発見し上官に対処を迫るが、隠蔽を図ろうとする上層部から左遷を命じられてしまう。ピカールは文豪ゾラらに支援を求め、腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いに身を投じていく。ピカールをジャン・デュジャルダン、ドレフュスをルイ・ガレルが演じている。また、ピカールの愛人の政府高官の妻のポーリーヌには、エマニュエル・セニエが演じている。
ポランスキーは「ゾラの生涯」を鑑賞し、いつか、この忌まわしいドレフュス事件を映画化すると言い聞かせていた様。
◆音楽・草上の昼食
音楽は、本作もアレキサンドル・デスプラが担当している。社交のコンサートの場面では、フォーレの室内楽の演奏がされている。ハードなシーンの多い映画の中に、癒される空間になっている。ピカールとポーリーヌ達の草上の昼食のシーンも、ソフトなシーン。
◆視点を変えて!(ゾラの立場)
本作は、ドレフュスではなくピカールの立場で描かれているが、私の方はエミール・ゾラ等の立場で、少し説明を加えたい。
1898年1月13日、『オーロール』紙にゾラによる大統領あての公開告発文「我弾劾す (J'accuse!)」を掲載している。ちなみに映画のタイトル自体が、J‘accuseでもある。反ユダヤ派により、ゾラの書籍等は焼かれてしまう事件もあった。ゾラは罪に問われ、イギリスに亡命するが、翌年帰国。ドレフュスの再審が決定した。1906年ようやくドレフュスの無罪が確定し軍籍に復帰したが、ゾラは1902年にちょうど郊外のメダンからパリの自宅に戻ってきた翌日に一酸化炭素中毒によって亡くなった。(当時は事故として処理されたが、煙突が反ドレフュス派によって故意に塞がれていたという可能性も有力である。)
映画ではエミール・ゾラをアンドレ・マルコンが演じているが、色々と過去のジャック・リベット等の映画や、最近の映画「偉大なるマルグリット」(2015)の夫役等にも、しばしば登場し、いい味を出している。
◆いろいろとつながっている
『オーロール』紙の主筆は、後にフランス第三共和政第40代の首相になったジョルジュ・クレマンソーで、ドレフュス事件ではドレフュス擁護の論陣を展開し、エミール・ゾラを支援した。氏が首相になり、左遷され苦労していたピカールは陸軍の高官として出世している。
◆◆関連映画 <レンタルは、画像をクリックして下さい。>
◆「ゾラの生涯」(1937)アメリカ映画
ワーナー・ブラザースのプレステージ映画として、伝記映画には実績のあるディターレ監督と、多彩なメイクアップを得意としていたポール・ムニが、ゾラを自由と正義を貫いた人物として描いた作品。エミール・ゾラの伝記を基に、前半は名作『ナナ』をはじめとする連作「ルーゴン・マッカール叢書」によって名声を得るまで、後半はスパイ容疑で投獄される参謀将校ドレフュスの潔白を信じて世論に訴え、無罪を証明したドレフュス事件の実話をドラマ化している。
◆「パピヨン(Papillon)」(1973)フランス/アメリカ映画
胸に蝶のイレズミをしている所から“パピヨン”というあだ名で呼ばれている主人公が、無実の罪で投獄され、13年間にも及ぶ刑務所生活を強いられながら、自由を求め執拗に脱獄を繰り返し、ついに成功するまでを描いてゆく。マックィーン&ホフマンの名演技はもちろん、脱獄囚が書いた実録小説が原作となっている。場所は南米ギアナのデビルズ島で、“有名なドレフュスの椅子がある”というセリフがある。
この「オフィサー・アンド・スパイ」では、ドレフュスが投獄されているシーンがある。
◆「大統領の恋(La maîtresse du président)」(2009)
マーゲリット・ステネールはフェリックス・フォール大統領と出会い、二人は燃える恋をする。大統領夫人がいるにも関わらず、彼女は大統領の愛人としてエリゼ宮殿を何度も訪れる。しかし大統領は急死する。フォール大統領は、このドレフュス事件の際の大統領にあたるが、この「オフィサー・アンド・スパイ」には登場していない。
音楽には、フォールではなく、フォーレの美しい曲「パヴァーヌ」が演奏されている。
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投稿を表示良くも悪くも日本人は(自分も含めて)ユダヤ人というのがよくわからない。
『 ゾラの生涯 』のレビューにも書きましたが、岸恵子さんも夫を驚かせました。
ピーター・フランクルさんは生まれたハンガリーでも亡命先のフランスでも、ユダヤ人に対する憎悪の目を経験したましたが、日本ではガイジンと扱われるのがいい、とウイットのある言い方で日本での暮らしやすさを言ってましたが、他の在日ユダヤ人も何人か同様のことを書いてます。
ドレフュス事件もその後のシオニズムやホロコーストと関連するのに、世界史ではならうものの、あまり認知度は高くないと思います。
ロマン・ポランスキーがドレフュス事件を題材に撮ること自体がビッグ・ニュースなのに、宣伝やエンタメニュースでも、一般ニュースでも扱いが地味で低調でした。
ぼくも劇場で知りました。 公開を知らなかった人も多いのでは。
『 ゾラの生涯 』でもエミール・ゾラはドレフュスと友人だから支援したわけでもないし、『 オフィサー・アンド・スパイ 』でもピカールはドレフュスとはしっくりこないしユダヤ人は嫌いかもしれない。 でも、ユダヤびいきの情実だからではなく、不正を正すために行動したというのがむしろ信頼できます。
ドレフュス事件は大佛次郎の著作もありますね。
『 俺たちは天使じゃない 』でハンフリー・ボガートら囚人らがいるのもドレフュスが送られた当時の悪魔島。
ドレフュスというのはユダヤ系の苗字なんでしょうか、リチャード・ドレイファスがいますし関連作画あったような?
『 アパートの鍵貸します 』でジャック・レモンの隣人の町医者もドレイファス。
「 mentsh(イディッシュ語で良き人 信頼できる人 )になれ 」と言いますね。
ちなみにシャーリー・マクレーンの役名はフラン・キューブリック。
( もっとも Kubelik で大監督の Kubrick とは違います )
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投稿を表示映画と歴史をからめた、教科書的な圧巻コラム!
歴史的事件と一人の作家とのかかわりを映画の流れで解説されていて読み応えあるし、ご紹介の作品(『パピヨン』しか見てない・・・)も観たくなりました。
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