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私の好きな映画

そぜシネマ
2024/04/01 08:02

2023年度最も評価された作品『オッペンハイマー』が残した功績と功罪

こんにちは!
そぜです。
 

 

『今日何観よう?』のお手伝いができるように
お茶の間や映画館からつながる良質映画を厳選紹介しています。
 


 

観てきました。

 

 

 

 

(c)Universal Pictures. All Rights Reserved.


率直な感想を述べると


「面白いという感情よりも人物相関と時代背景の情報量に圧倒されました」
 

確かに素晴らしかった。
歴史上の実在の人物に対して限りなく忠実で
限界まで当時の史実を、時を使うスタンドのノーラン節炸裂で効果的に表現していた作品だったのは間違いないです。

今年のアカデミー賞でも下馬評通りほぼ圧勝で主要部門総なめの大成功作となり、
監督のクリストファー・ノーランにとっては悲願の監督賞&作品賞オスカー初受賞となりました(具体的な受賞部門は下記参照)

 


ただ、日本人であることを抜きにしても本作が称賛された功績と同時に功罪を感じたのも事実です。特に後者は個人的には今後の映画界に対する憂いも感じています。

そんな2023年度の顔とも言える圧倒的話題作の本作に対して、前半は客観的指標からみた『オッペンハイマー』が残した功績を、
後半は久しぶりにノートとペンを持参して上映中書き殴り、一切他レビューを見ていない頭での忖度無しの感情を述べ、最後に現代の”評価される映画”の風潮と憂いについて吐露します。
 


【目次】
1.オッペンハイマーが残した功績~データ編
2.オッペンハイマーが残した功罪

3.よい映画とは?を振り返る :『ニューシネマパラダイス』が求められた時代に



1.オッペンハイマーが残した功績~データ編 


★製作国:アメリカ・イギリス
★上映時間:180分
★監督:クリストファー・ノーラン
★興行収入:2023年11月時点で世界興行収入が9億4899万2235ドル(約1423億円)
 これまで伝記映画としての歴代興行収入トップとなっていた『ボヘミアン・ラプソディ』
 を抜いて歴代1位となった。

 製作費は約1億ドル(約150億円)だったので興行的には大成功となっている。
★主要外部レビューサイト評価:
 IMDb:8.3/10

  *8点以上は高評価
 Rotten Tomatos:Tomatometer 93%, Audience Score 91%
  *90%以上は高評価
 Filmarks:4.0/5.0
  *4.0以上は高評価

★開発された初の技術:

(c)Universal Pictures. All Rights Reserved.

65mmカメラ用モノクロフィルムが使われており、史上初のIMAXモノクロ・アナログ撮影が実現。ノーラン監督は「オッペンハイマー自身が実際に見たものと見ていないもの」に分け、オッペンハイマーの視点から語られるシーンをカラー映像、それ以外をモノクロ映像と視覚的に分けて表現した。
 


★受賞した主要映画祭と部門※ノミネートは除く
サターン賞(アメリカ) スリラー映画賞 
『オッペンハイマー』 

セザール賞(フランス) 外国映画賞
 『オッペンハイマー』 

第28回サテライト賞(アメリカ)
 作品賞 『オッペンハイマー』 

 監督賞 クリストファー・ノーラン 
 男優賞(英語版) キリアン・マーフィー 

第77回英国アカデミー賞(イギリス)
 作品賞 『オッペンハイマー』 
 監督賞 クリストファー・ノーラン 
 主演男優賞 キリアン・マーフィー 
 助演男優賞 ロバート・ダウニー・Jr. 
 撮影賞 ホイテ・ヴァン・ホイテマ 
 編集賞 ジェニファー・レイム 
 作曲賞 ルドウィグ・ゴランソン 

第81回ゴールデングローブ賞(アメリカ)
 作品賞 (ドラマ部門) 『オッペンハイマー』 
 監督賞 クリストファー・ノーラン 
 主演男優賞 (ドラマ部門) キリアン・マーフィー 
 助演男優賞 ロバート・ダウニー・Jr. 
 作曲賞 ルドウィグ・ゴランソン 

第29回クリティクス・チョイス・アワード(アメリカ)
 作品賞 『オッペンハイマー』 
 監督賞 クリストファー・ノーラン 
 助演男優賞 ロバート・ダウニー・Jr. 
 アンサンブル演技賞 エミリー・ブラント 
 撮影賞 ホイテ・ヴァン・ホイテマ 
 編集賞ジェニファー・レイム 
 視覚効果賞 オッペンハイマー 
 作曲賞ルドウィグ・ゴランソン 

第96回アカデミー賞(アメリカ)13部門ノミネート中7部門受賞
 作品賞 『オッペンハイマー』 
 監督賞 クリストファー・ノーラン 
 主演男優賞 キリアン・マーフィー 
 助演男優賞 ロバート・ダウニー・Jr. 
 撮影賞 ホイテ・ヴァン・ホイテマ 
 編集賞 ジェニファー・レイム 
 作曲賞 ルドウィグ・ゴランソン 
※ノミネートのみの部門と受賞者・作品
 助演女優賞 エミリー・ブラント

(受賞はダバイン・ジョイ・ランドルフ:ホールドオーバーズ)
 脚色賞 クリストファー・ノーラン

(受賞はコード・ジェファーソン:アメリカン・フィクション)

 衣裳デザイン賞 エレン・ミロジニック

(受賞は哀れなるものたち)
 メイクアップ&ヘアスタイリング賞 ルイーザ・アベル

(受賞は哀れなるものたち)
 美術賞 ルース・デ・ヨング/クレア・カウフマン

(受賞は哀れなるものたち)
 音響賞 ウィリー・バートン/リチャード・キング/ゲイリー・リッツオ/ケヴィン・オコネル 

(受賞は関心領域)



2.オッペンハイマーが残した功罪


ここからは超主観的な感想になります。
⚠️ネタバレありますのでご注意を⚠️
 

 

本作を観た後、心から面白いというよりは“ 圧倒的に置いて行かれた気分”になりました。
言い換えると「歴史的重大史実に目をそらされ続けた日本人の前提知識では到底理解が追い付かない」です。

一つ言えるのは「本作はアメリカ人に向けた映画である」のは間違いないです。
歴史背景や人物が”常識”として刷り込まれているアメリカ人の知識ベースが前提にある造りになっているため、他国の人(日本含む)はそのレベルまで事前予習することが求められています。

・「量子物理学の父」ニールス・ボーアと「相対性理論の父」アインシュタインとの対立

オッペンハイマーストローズとの対立

・共産主義と赤狩り

・マンハッタン計画とトリニティ実験

上記は世界(アメリカ)の常識ですが我々(俺だけかもw)にとっては詳細まで習わなかった部分かと思います。本作は上記の解説無しに話が進むので事前に頭に入れておく必要があります。
 

そこから初めて映画を感じる→観るのフェーズに行ける作品かと。

(c)Universal Pictures. All Rights Reserved.


個人的にはこの傾向は日本において顕著かと思っています。

【核を経験した唯一の被爆国】としてこの時期の史実については日本人は同じ教育・知識を受けてきたはずですが、残念ながらその教育は限りなく限定的・主観的で、世界から見た場合、我々の認識は世界のそれとは異質である事が明るみにされたこととも思います(現に作品ではオッペンハイマーの開発した核爆弾が本人の意思とは裏腹に”戦争を終結させ(日本から降伏を引き出し)、アメリカ兵を多数帰還させることに貢献した唯一の手段”として歴史的には評価されている面もあることも事実です。

私はそれなりに事前予習したつもりでしたが“観た”とは言えず、圧倒的に“感じただけ”でした。

内容を現場で咀嚼・理解できずにただただ映像と自分が知らなかった事実に圧倒されただけといった感じです。

 

よって初見では本作の良さを我々が感じ取るためには我々が習っていない客観的な歴史の予習核を正当化されているという衝撃的事実に対する覚悟が必要となってくると思います。
 

(c)Universal Pictures. All Rights Reserved.

ただし、本作で忘れてはいけないのは結論としてアメリカに対する究極の反戦映画であることです。

核爆弾を作り出したことを発明者本人の一人称的な後悔の念を表現することで“核のはじまり、終わりのはじまり”を間接的に痛切に訴えていると感じました。

 

私がそれを特に感じたシーンはオッペンハイマーが当時アメリカ大統領のトルーマンとの面会でホワイトハウスに呼ばれたシーンです。

オッペンハイマーの緊張と懸念の告白とは裏腹にトルーマン大統領の気楽さ・コミカルさの対比がそれを一層演出していました(ゲイリー・オールドマン流石です)。

Mr. President, I feel I have blood on my hands. 
(大統領、私は自分の手が血塗られているように感じるのです)

 

戦争でアメリカが圧倒的優位に立てた立役者のオッペンハイマーに対する感謝の謁見のはずが、余りに悲観的で原爆投下の罪の意識を告白し続けた彼の態度に対し、謁見の最後には
「こんな弱虫は二度と連れてくるな」と言い放つ変貌ぶりが当時のアメリカの核至上主義が定着していたのが感じられました。
 

(c)Universal Pictures. All Rights Reserved.


一方キャストについて。

これは文句ないキャスティングです。そして各々の主要人物を演じ切るキャストの熱量は素晴らしかったです!。アカデミー賞の主要部門受賞&ノミネートも観てから納得できました。

今のドジャーズのようなオールスター軍団のキャスティングはさすがでした。

 

個人的にはトルーマンのゲイリーオールドマンとジーンを演じたR15指定の立役者笑フローレンス・ピュー、気が小さく嫉妬深いストローズのロバートダウニーJr.が圧巻でした。

(c)Universal Pictures. All Rights Reserved.

3.映画とは、を振り返る :『ニューシネマパラダイス』が求められた時代に


本作は内容が非常に複雑で長時間です。

 

ノーランお得意の時系列切り貼り系で、かつよくありがちな過去=モノクロ、現在&未来=カラーの方程式ではなく、オッペンハイマーが見たもの・体験したもの=カラー、見ていないもの=モノクロとなっており、その斬新な手法を理解するのも複雑化させています。

 

ただその手法は結果として伝記映画では史上最高の興行収入を叩き出し、アカデミー賞では主要部門受賞するなど、本年度の代表作として語り継がれることは確実です。

 

しかし、この映画が全世界で称賛されてしまったことによる懸念も正直感じています。

 

それは【映画の複雑さ、長時間化】が評価されている潮流はこれからも進んでいくかと思っています。

 

時間に関して言えば今回の作品賞ノミネート作も総じて2時間半超えの作品が目立ちました。

そしてその中でも最長180分の『オッペンハイマー』が受賞、今後の潮流として『アカデミー賞には同作の様な長尺で複雑性を極めた作品が評価される』と世間の監督が感じて意識して製作したり、メディアがノーラン監督の様な作品を流行として誘導するのが心配です。

 

繰り返しますがこういった映画も大好きです。ジャンルの一つとして、ある監督の個性として評価はされるべきです。

個人的に大好きな『テネット』は初見全く理解できずに3日連続観に行きましたし『インターステラー』は10回以上は観直して今でも復習しています。

 

ただ、そもそも昔の映画ってふらっと行ってその場で喜怒哀楽をはじめとしたあらゆる感情を受け取り、その場で感じて各々が自分なりの解釈を持って家路に帰る、といったものだったじゃないでしょうか。

 

この本質は揺るがないし、主流であるべきだと思います。

事前知識や背景の有無こそあれ、予習が必要で、さもなくば現場で置いていかれて、映画技術や音響技術だけに圧倒され、終わった後に考察や議論できるような理解も整理もできず、無言で家に帰って復習が必要な映画は自分にとって素晴らしい映画とは言えません。

 

「考察しがいのある」は時として諸刃の剣になります。観た後のネタバレ記事との答え合わせ、お互いのレビューを見比べての気づきの補完は嫌いではありませんが、ただ気軽に作品に入りこんで映像からリアルタイムで感情をダイレクトに感じ取り、自分の基準と照らして面白い面白くないを自己評価してスッキリしておしまい

の方が本来の『映画』なのかなと感じた次第です。

(c)Universal Pictures. All Rights Reserved.

 

繰り返しますが本作の様なジャンルも大好きですし今後も必要かと思います。

 

ただこれが評価されすぎた事で『わからせないことを美徳とする作品が主流になっていく』ことへの不安もあることは確かです。

 

『ニューシネマパラダイス』

映画好きなみなさんなら観たことはあるかと思います。私も大好きな作品です。

作品の中で映画に魅了された少年トトが、目をキラキラさせてスクリーンを見つめる純粋な表情は、忘れていた、薄れていた何かを思い出させてくれます。

あのダイレクトに伝わる感情表現をこれからも体験したい。
そう思いました。

少々長くなりすぎた私のコラムについても自分で辟易していますが😂。
最後の締めくくりとして最近観た傑作『映画大好きポンポさん』からポンポさんの言葉を借りて締めたいと思います。

 

「映画の長さは90分がいい!」

 

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4 件の返信 (新着順)
LOQ
2024/04/01 22:10

クレームではなく、あえて違う見解を申すのですが。

クリストファー・ノーランは世界史の視点で本作を作っていて、核の時代の矛盾がテーマ。

つまりヒロシマ・ナガサキの犠牲者には心痛むけど、同じ目に合うのはおそろしすぎる。
核が怖いから核の廃絶を願う。 核が怖いからこそ核のかさに依存してしまう。
そういうパラドックスに私たちは今生きていると指摘し、その始まりを描いています。

私たちはどうしてもアイデンティ・ポリティクスの歴史観 つまり思想や国家・民族・ジェンダーで歴史を解釈してしまい、自分と対立する立場とオセロゲームのような論争をして、非難合戦の泥沼に入ってしまします。 
歴史は矛盾しているのに、二項対立では理解できない。
そのため本作は原爆を日本とアメリカの話にせず、両国を含めた世界で観ています。
日本の観客がアメリカからのメッセージと解釈し、日本としてどう反応するかという視点にしばられると、世界の反応とずれてしまうのを恐れます。

とは言え、そぜさんも本作を高く評価されている点は同感です。
ぼくも映画は90分くらいがいいですが(笑)、本作はあの分厚い原作をよくも3時間に収めたものだという感じ。  あっという間でした。
日本では誤解を受けやすいが、語りがいのある、語りたくなる作品なので、話を盛り上げていきたいと思っています。   失礼しました。


そぜシネマ
2024/04/02 02:54

コメントありがとうございます!
核を持つことの世界的な脅威については最後のアインシュタインとオッペンハイマーとの会話が物語っていましたね。それを作ったことによる後悔・責任と地球の破壊の始まり(まだあの会話内容には至っていないが将来いずれ起こることにアインシュタインは驚愕し、ストローズに見向きもせずに立ち去って行った)。

これが全ての始まりでしたね。
最後の最後で最初の伏線が回収できましたがそこに至る圧倒的な歴史と史実を主観的客観的織り交ぜて語っていく手法は本当に圧巻でした。

率直な感想としては今回当たり前のように語られた歴史的背景・事件を知ってはいたが日本人として教科書レベルで学んだレベルだったので正直今回の海外からみた解釈・それに関わる人の証言・評価を受けて少なからずショックを受けました。これが悪いとは全く思いませんがこういった世界の基準から見たフラットな立場を学べたのは貴重な機会でした。もう少しこの時代について真っ向から受けて勉強する必要があると感じた次第です。オッペンハイマーまた見る機会がある気がします^^

記事の中身が濃くていつも驚かされます!笑
オッペンハイマーについての話もそうですが、そこから「映画とは」に繋げるのがソゼさんならではで読み入ってしまいました!
色々書きたいですが、私も長くなるのでシンプルに…映画の長さは90分がいい!に全て詰め込んでて流石です笑


そぜシネマ
2024/04/01 19:33

エリオさんいつもありがとうございます😊。

ここ最近劇場で観たのが『落下』や『哀れ』や『砂虫』や本作など超大作系が多くて疲れてしまいました😂。

ゴジラ-1.0やパーフェクトデイズを観た時の感情ダダ漏れ系のも意識して入れないとですね。

エリオさんのレビュー観て知ったポンポさんのおかげでコラムが良い感じに締まりました😂

最近の名作級は長い映画ばかりですよね😅面白いのは面白いのですが…キラーオブザフラワームーンも長すぎたのでスルーしました😖
ゴジラ-1.0やパーフェクトデイズ分かります!観たものそのまま感じ取れるような作品がいいですよね。。シンプルで笑
ポンポさんありがとうございます😂
観た映画をここでもアウトプットするソゼさんいつもさすがです!✨
気づいたら私も長くなりそうなのでここで…笑

そぜシネマ
2024/04/06 10:28

鑑賞前には厠で必ず儀式をしないと後半やばくなる作品増えましたね😂。

最近映画館大作多いので家では何も考えない系選んで流し観してます^_^

飛べない魔女
2024/04/01 12:24

全文、めちゃくちゃ共感です!
凄い映画だったことは認めざるを得ませんが、
特に『『わからせないことを美徳とする作品が主流になっていく』ことへの不安もあることは確かです。』この部分。私も同じ気持ちです。


そぜシネマ
2024/04/01 12:36

コメントありがとうございます😊。
ノーランの時を使う能力、好きなのですがノーラン前、後で映画自体の評価も変わってきている気がしてます。

作品賞てはノマドランドとかコーダくらいの100分くらいのが個人的には好きだったりします☺️

はじめ バッジ画像
2024/04/01 09:15

「歴史的重大史実に目をそらし続けた日本人の前提知識では到底理解が追い付かない」
ここは観る前にもわかっていたことでしたが、やはりそうでしたね。まさに僕自身に突きつけられました。「ほんと自分は知らないんだなぁ〜...」という未熟感も味わされた映画でもありました。(良い意味で)


そぜシネマ
2024/04/01 09:50

これは文科省の教育方針というかこのセンシティブな部分こちら側の立場でしか習ってないですよね。。知ればわかるのですが今になって良いか悪いかは別として原爆に対する日本側と他国との評価とそれにまつわる教育は全く違うと思い知らされました。。