ジョン・カーニー作品『フローラとマックス』
「ONCE ダブリンの街角で」「はじまりのうた」「シング・ストリート 未来へのうた」などで知られるジョン・カーニー監督。
彼の作品はハリウッド映画のような派手な演出やストーリー展開ではなく、リアルな描写で知られている。登場人物たちの日常生活や感情を音楽とともに丁寧に描き出すことで観客に共感を与え、心を動かす。
私もその手法のトリコになった一人である。
監督ファンの私が今回レビューする作品は
サンダンス映画祭で上映後、Apple Original Filmsが約2000万ドルで配給権を獲得したという話題作『フローラとマックス』だ。
昨年9月の配信開始から多くの人々を魅了した本作が、この度、グラミー賞でフォークアルバム賞を受賞したジョニ・ミッチェルの名曲「Both Sides Now」を重要なシーンで使用していることで、再び注目を集めている。
96分/アメリカ
監督・ジョン・カーニー
主演・イブ・ヒューソン
ジャック・レイナー
オーレン・キンラン
ジョセフ・ゴードン=レビット
ーあらすじー
ティーンエージャーの息子マックスの反抗期に悩む、シングルマザーのフローラ。息子を非行に走らせないため奮闘した結果、ボロボロのアコースティックギターと、しがないロサンゼルスのミュージシャンにたどり着き、ほころびたダブリンの家庭にハーモニーが生まれる。
ジョン・カーニーファンはもちろん、
「僕らの世界が交わるまで」や「ハーツ・ビート・ラウド」が好きな方には、間違いなく心に響く作品だ。
主演のフローラ役はイヴ・ヒューソン 、彼女の父親はU2のフロントマン・ボノだ。有名な父親を持つと、お芝居であっても歌唱することは緊張するだろう。
息子マックス役はオーレンキンラン、本作が映画デビューとなる。
"イケおじ風"LA在住のギター講師役ジェフはジョセフ・ゴードン=レビット
フローラの元夫でミュージシャンのイアン役を、もはやカーニーファミリー?のジャック・レイナーが演じている。
舞台となるアイルランドの首都ダブリンは、
アパートや公園に人々の生活が息づき、誰の周りにもあるありふれた風景が広がる。この日常的な風景が、物語をより身近に感じさせる。
17歳でマックスを出産したフローラは、育児で追われた時間を取り戻したい一心。今すぐに現状を変えたいのだ。その思いが彼女の行動を駆り立てていた。
一方で問題児として知られるマックスは、ケンカや盗みを繰り返し、次なる犯罪で施設送りが決定的な状況に追い込まれていた。
マックスの犯罪を止めるために、彼に夢中になれる物を与えるフローラ。それが音楽だった。
フローラはゴミ収集車からアコースティックギターを盗み、修理をしてマックスに渡すが拒否されしまい、激しい親子喧嘩が勃発する。
子どもに対して感情を露わにするその態度は、強烈な印象を与えるが、私は彼女を憎めない。
フローラ親子は決して裕福ではないギリギリの生活を送っている。しかし、その生活感は微塵も感じさせない。常に自由奔放で今この瞬間を楽しむプロなのだ。
言葉遣いは少々下品な時もある。しかし、それが不思議と彼女の魅力の一つとなっている。
ある時、マックスには拒否されたアコギを始めてみようと手に取るフローラ、そしてオンライン講師を探す。発見したのがジェフだった
ジェフの内に秘めた寂しさと素朴な魅力は、フローラの心を徐々に溶かしていく。
誰よりも変化を望みながらも、いざという時に上手く表現できず、自らを卑下することしか知らなかったフローラは、ジェフから勧められた一曲に涙を流す。その曲がジョニ・ミッチェルの「Both Sides Now」だ。
フローラの気持ちを代弁している歌詞は彼女の心に突き刺さる。ジェフはフローラのことを誰よりもよくわかっていたのだ。
やがて二人はジェフの住むLAで会うことを約束するが、マックスが音楽機材を盗み施設行きになってしまう。LAに行くことは夢となった。
しかしフローラは前向きだった。
「Both Sides Now」で泣き、自身の内面に真正面から向き合い、真実の言葉を紡ぎ出す。
その過程は、自分自身と深く対峙し、新たな境地へと導いてくれた。同時にマックスも音楽の重要性に改めて気づく。
そして音楽という共通の言語を通して、互いの心の奥底に潜む想いを率直な歌詞にした渾身の一曲「HIGH LIFE」を生み出した。
この曲は、本作の集大成と呼ぶにふさわしい、深いメッセージ性を帯びている。
サビの部分「 TO LIVE IN THE HIGH LIFE ♫ LIVING IN OUR HIGH LIFE ♫ 」とリピートされる歌詞は、私たちの豊かな生活のために、と翻訳されている。
現状に満足せず高みを目指す、フローラの強い意思が感じられる。その他、この歌を全ての母に捧げるという歌詞も。これには私は号泣してしまった。因みにセッションにはLAからジェフもオンラインで参加する。
気取った曲もいいが、飾り気のない自然体の歌声やメロディが、聴く人の心の奥底に直接語りかけてくるような感覚を覚えることがある。
それは聴く人の心に深く響き、温かい感動を呼び起こす。カーニー監督は、力を持つ楽曲をラストに置くことで作品に深い余韻を与え、観客の心に残すことに長けている。
それに楽曲は聴き手があってこそ生きてくる、コミュニケーションツールのひとつなのだと改めて思った。カーニー監督はその事についてもよく理解しているのだろう。
本作はApple TVのみで視聴可能なオリジナル映画、多数ある作品の中には埋もれてしまっている"配信だけではもったいない"傑作が存在する。本作もそのひとつだと思う。
音楽の力によって、人生、親子の絆、そして愛を再生する感動作『フローラとマックス』
機会があればぜひ鑑賞して欲しい作品だ。
さらにカーニーの新作ドラマ「フェアプレイ」の権利をNetflixが既に獲得しているとか。
新作はサイコセクシャルということで、監督からは全く想像ができない。
公開時期はいつになるのか、それまで楽しみに待つ事にする。
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
インスタグラムでも映画レビューをしています。ぜひ遊びにきてください♫
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投稿を表示ジョン・カーニーは知っているんですが、観たことなくて、これから観るリストに入れます!ちょっと観る方法と在庫あるTSUTAYAとDISCAS頼みですが。。
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投稿を表示「ONCE ダブリンの街角で」「はじまりのうた」「シング・ストリート 未来へのうた」は大好きなので、本作もぜひとも見たいです!
でも、APPLE TVだけなのですね。
ほんと、もったいないですね(´;ω;`)
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