女性監督アニエス・ヴァルダの活動のアートの世界 「アニエスによるヴァルダ」
女性映画監督アニエス・ヴァルダの遺作(ドキュメンタリー)
2019年3月(90才)に乳癌により永眠した、生涯現役を貫いた女性映画監督アニエス・ヴァルダの遺作で、長編劇映画監督デビュー作「ラ・ポワント・クールト」(1955)から、数々の映画賞に輝いた「顔たち、ところどころ」(2017)までの作品を通し、60年以上にわたるキャリアをヴァルダ自身の言葉で、劇場の聴衆の前で振り返った映像になる。
彼女の映画に対する信条は“ひらめき・創造・共有”。
アニエス・ヴァルダとは?
ベルギー生まれ。第二次世界大戦を逃れフランスに渡る。映画監督になる前は写真家としてジェラール・フィリップ等の役者の写真等を残している。映画業界のキャリアはなく長編デビューした。
映画監督の「シェルブールの雨傘」(1964)のジャック・ドゥミと1962年に結婚し、彼と共に「ヌーヴェル・ヴァーグ左岸派」と呼ばれた。
1965年の『幸福』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞し、1985年の『冬の旅』でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞している。2017年の第90回アカデミー賞で、長年の功績を称え名誉賞が授与された。
■アニエス・ヴァルダの作品(共作は除く)[Wikipediaを引用]
*黄色の部分は、見た事がある作品。
- ラ・ポワント・クールト La Pointe Courte(1955) - デビュー作、編集アラン・レネ
- コートダジュールの方へ Du côté de la côte (1958) - 短編
- マクドナルド橋のフィアンセ(1961)
- 5時から7時までのクレオ Cléo de 5 à 7 (1961)
- 幸福 Le Bonheur(1965)
- 創造物 Les creatures(1966)
- ブラックパンサーズ Black Panthers(1968)-短編
- イランでの愛の悦び Plaisir d'amour en Iran (1976)
- 歌う女・歌わない女 L'Une chante, l'autre pas(1977)
- 壁画・壁画たち Murs, murs(1981)
- ドキュモントゥール Documenteur (1981)
- 冬の旅 Sans toit ni loi (1985)
- カンフー・マスター! Kung-Fu master (1987)
- アニエスv.によるジェーンb. Jane B. par Agnès V. (1987)
- ジャック・ドゥミの少年期 Jacquot de Nantes (1991)
- Les demoiselles ont eu 25 ans (1993)
- 百一夜 Les Cent et une nuits de Simon Cinéma(1995)
- 落穂拾い Les Glaneurs et la glaneuse(2000)
- 落穂拾い・二年後 Les Glaneurs et la glaneuse... deux ans après (2002)
- Quelques veuves de Noirmoutier(2005)
- アニエスの浜辺 Les Plages d'Agnès(2008)
- 顔たち、ところどころ Visages, Villages(2017)
■主要な作品と感想
(1)5時から7時までのクレオ(1961)
本人も代表作と言っているが、低予算という制約で、短時間でパリで取った作品。ヒロインは歌手のコリーヌ・マルシャンがシャンソン歌手役で出演するが、ピアニストでミシェル・ルグランも出演している。挿入歌「Sans Toi」が気になっていたが、マイナーな曲のため楽譜は見つからなかった。
パリの街で、バスで移動、帽子を買う、公園を歩く等のシーンのモノクロ映像が、おしゃれで美しかった。
(2)幸福(1965)
幸せな家庭に、突然忍び込んだ夫の不倫・・・。ガラスが割れた様な結末に大きな痛みを感じる。ヴァルダは“夏の桃の果実に潜入した虫”というたとえをしているが、なるほどと思う。使用するモーツアルトの曲についても、通常は明るいイメージの作品とされているが、死を感じるとコメントがあった。
(3)百一夜
各種映画を博物館の様に収集しているオムニバスの作品でミシェル・ピコリが主演になるが、多くの著名な女優や俳優が登場し、映画祭の様に華やかな作品。これだけの人を吸引できるのはアニエス・ヴァルダの総合力によるところが大きいと思う。動く映画写真集の様だ。
■これから観たい作品
数年前に、女性監督作品の上映シリーズが企画されたが、あまり鑑賞できなかった。今回の本作でも解説があったので、サンドリーヌ・ポネール主演の「冬の旅」を鑑賞してみたい。改めてアニエス・ヴァルダの作品は、「幸福」等は別として、ドラマ性が少ないので、構成、制作過程等を中心に鑑賞するのが面白いと思った。
■その他
ヴァルダの仏語は聴き取りやすかった。写真を皮切りに、音楽のセレクト、ヴィジュアルアートへのチャレンジ等のアートのセンスは抜群。自身のバイ・カラーのヘアスタイルもおしゃれで、個性が際立っている。