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私の好きな映画

桃田享造
2023/05/01 11:35

キモチいい邦題

好きな邦題、キモチいい邦題

 

 最近、カタカナ表記、オリジナルタイトルの洋画が増えた。増えたというより、邦題を付けるのが減った。わたしが育った60~80年代は何でも邦題を付けた。これは洋画のみならず、洋楽でもそう。特に日本で人気の高いQUEENらのアーティストの楽曲は、わざわざ曲目を邦題に変えていた。90年代に入った頃から、それがだんだんと減っていった。邦題がダサく感じてきたのだ。今の洋楽曲には、もう邦題はないと思う。洋楽のタイトルを日本風に変える文化が無くなったのだ。いずれ洋画もそうなるのだろうか。海外ドラマは一足先にそうなってしまった。

 邦題も善しあしで、付けた方がいいのと付けないで良かったのがあるのは分かっている。

 『ロッキー・ホラー・ショー』なんかは『恐怖六鬼劇場』というのも変だし、『ファントム・オブ・パラダイス』も『怪奇パラダイス座の怪人物』では人気出なさそう。『エルトポ』も『もぐら』じゃ観る気がしない。『イレイザーヘッド』も『消しゴム頭』では『ねじ式』みたいな昭和のマンガみたい。

 そういう何の役にも立たないことを日曜日の昼下がりに考えていたら気づいたのだが、わたしには個人的に好きな邦題の響き、視覚的快感、語呂のリズムといったものがあるのだった。

 

 1.「四字熟語」+「カタカナ4文字」 

 『未来惑星ザルドス

 『未来世紀ブラジル

 おお、なんと響きの良い、そして視覚的にカチっとはまり、リズムの気持ちよい邦題なのだろう。

 「四字熟語」+「カタカナ4文字」の美しすぎる組み合わせ。

 これって日本映画界が考え出した奇跡的なレトリックではなかろうか。視覚的には似たようなものでも、響きとリズムで違う感触がするものはある。

 『不思議惑星キン・ザ・ザ』

 『砂の惑星デューン』

 『宇宙空母ギャラクティカ』

 うーん、ちょっと違うんだよ。「タタタ・タタタン、タタタタ」、そして四字熟語+カタカナ四文字。の、が入ってはだめ。カタカナ数多いのはリズム感劣る。

 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』なんかは、この記入フォームに入れて考えると良さそうだが、良いのが出ない。(『並行宇宙エブリン』とか『複数世界エブリン』とかアホっぽい)

 一方で、舞台がどこかの惑星とか、別の世界の誰かだとこれはハマる。

 『レディ・プレーヤー1』なんかは『未来装置オアシス』とか『驚異空間オアシス』でいい。『アリータ/バトルエンジェル』は『戦闘天女アリータ』か『未来戦記アリータ』。

 

 2.困ったら「愛と○○の○○」

 80~90年代に『愛と○○の○○』というなんとなくドラマティックでなんとなくロマンがあってなんとなく中身がありそうな雰囲気を纏えるハイセンスなフレーミングが大人っぽかった。このフォーマットはわたし的にはハズレがない。邦題はビッグヒットにあやかって似たタイトルをつける風習がある。が、このシリーズはヒットに関係ない。そういうところがいい。

 『愛と哀しみのボレロ』

 『愛と青春の旅だち』

 『愛と宿命の泉』

 『愛と憎しみの伝説』

 『愛と追憶の日々』

 これ、大事なのは最後が体言止めとなること。『愛と死の間で』というのは違う。「で、何」と突っ込みたくなる。最近少なくなったが、まだ使える。洋画ドラマ系はこの形式にぜひ挑んでほしい。

 『ザ・ホエール』なんかは『愛と孤独の終焉』とか久しぶりにやってみてほしい。 

 

 3.「恐怖の」「地獄の」「悪魔の」

 70年代、幼いわたしをトラウマティックに苦しめた洋画ホラーの邦題も今や心地よい響きとぬくもりをくれる。だがホラーもオリジナルタイトルでそのまま行くというのが多くなった。『死霊館』なんて最初に聞いた時に首を傾げた邦題もあったが、邦題を付けたこと自体は素晴らしい。でも、ワーナー・ブラザースの担当者のあなた、この作品には「悪魔の」を付けてほしかった。『悪魔の死霊館』ではない。『悪魔の家』『悪魔の屋敷』『悪魔の館』。「悪魔の」がつくと「ああ、悪魔が棲んでいるんだな」と誰でも感じられるし、オカルト臭が充満してくる。『悪魔の赤ちゃん』と『悪魔の沼』は例外だが、この画数の多さと勝ち目無さそうなヤバさが実にキモチいい。

 「恐怖の」や「地獄の」も最近聞かなくなったが大好き。「地獄の」はチャック・ノリスのせいで戦争もので使われるようになったが、本来ホラーで活用してほしい。

 わたしの中では、「悪魔の」はオカルト系で、「恐怖」と「地獄」は微妙に中身で使い分けたいと思っている。「恐怖の」は怖い目に遭わされる、「地獄の」は地獄のような時間を過ごすというニュアンス(どっちも一緒か)。

 

 タイトルでネタバレなりそうな感じはするが、最近のホラー映画を邦題に変えてみた。

 

 『ゲットアウト』→『恐怖の恋人紹介』

 『アス』→『恐怖の家族旅行』

 『ノープ』→『恐怖の空模様』

 『イット・フォローズ』→『恐怖の尾行』

 『ドント・ブリーズ』→『恐怖の呼吸』

 『ヘレディタリー』→『恐怖の儀式』

 『オールド』→『恐怖の渚』 

 『パラノーマル・アクティビティ』→『恐怖の録画』 

 『ミッドサマー』→『地獄の歓迎会』

 『パージ』→『地獄の法律』

 『エスター』→『地獄の養子』

 『グリーン・インフェルノ』→『地獄の食人族』

 『クワイエット・プレイス』→『地獄の沈黙』

 『ハッピー・デス・デイ』→『地獄の繰り返し』

 

 こうしてみると「カタカナタイトル」より「恐怖」「地獄」付の邦題がしっくり来て「ピラフ」「リゾット」みたいな西洋料理が「釜めし」「おじや」になった感じがする。どれも旨そう。ああ、キモチいい。だが、こうして並べてみるとオジサン臭さが隙間から漏れている。

 

  さっきまで楽しかったのに、急に恥ずかしくなってしまった。

 

 

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1 件の返信 (新着順)
いち映画ファン
2023/05/07 11:31

楽しく読ませていただきました。

「ゴースト」のデミ・ムーアが主演した1991年のアメリカ映画「夢の降る街」を思い出しました。
この邦題に惹かれて観たのですが裏切られました。原題は「The Butchers Wife」でした。


桃田享造
2023/05/07 17:15

あっ、裏切りし邦題!ありましたね!こんなの言ってるの日本人だけなんでしょね。