Discover us

私の好きな映画

桃田享造
2023/04/24 13:27

【ネタバレ】名作気になる気になる病

不治の病「気になる気になる病」

 

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の序盤で、ドクがマーティにビデオカメラを持たせ、デロリアンのタイムトラベル実験を記録させる。デロリアンが猛スピードで二人に向ってくる。あわや衝突かと思いきや、時速140kmに達した瞬間、車は消滅、時空の彼方へ飛び去った。二人の足元のタイヤ痕からは炎が立ち上り、猛烈なエネルギーが放出されたことがわかる。

 この「タイヤ痕から炎」という映像表現は、脚本も担当したロバート・ゼメキスか、それとも共同脚本のボブ・ゲイルかそれとも特殊視覚効果を担当したILMの発案か。この表現は画期的だった。「想像を超えた猛スピードで走り去った」映像表現では今のところこれを超えるものが見つからない。

 Netfixがこの場面をYoutubeにアップしているのでご覧頂きたい。

 「金曜ロードショー」の予告でもだいたいこのシーンが流れる。だが、タイムコード1:00あたりを良く見てほしい。一瞬、二人が炎の上に立っているショットがある。

 

 合成が甘いんだよ。

 

 一度気になるともう治らない。映画館のリバイバル、ブルーレイ、金曜ロードショー、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のこのシーンを観るたびに、画面の下、二人の足元を見てしまう。こうなったらもう一生治らない。「気になる気になる病」は恐ろしい不治の病だ。特効薬はない。そして恐ろしいことに人から人へ伝染してしまう。

 

 1976年のオリジナル版『犬神家の一族』の菊人形の場面を覚えているだろうか?

 

ジャケの「愛と憎しみ、そして怪奇~」のキャッチは不要

 犬神家の人々の顔に似せた菊人形がずらりと並ぶ中に、金田一耕助(石坂浩二)が、佐武(地井武男)の生首を発見してしまう。生首はバランスを失ってゴロリと砂利に落ち、耕助は悲鳴を上げてその場にしゃがみこむ。明るい陽の下、菊人形という華やかな装置と生首の対比が鮮やかで、観客に強いショックを与える、作品の中でも屈指の恐怖シーンだ。首が落ちた時に砂利にピシッと血糊が飛ぶ、市川崑監督の細かな演出も冴えわたり、一度見たら忘れられない。

 

 でも、その生首どう見ても作り物なんだよ。

 

 この生首は辛うじて地井武男に似てはいるが、皮膚感の生々しさがなくどう見ても人形の首に見えてしまう。野村芳太郎監督の『八つ墓村』の冒頭で落ち武者たちが村人に惨殺され、首をさらされる場面がある。稲光の中、その生首がカッと目を開く、物凄い恐怖演出がある。この場面は血まみれの尼子義孝(夏木勲)の生首は、メイクを施して、箱の中から首を出して撮影している。だから実に生々しい。一般に首を切り落とされた場合、瞬きの筋肉の神経が遮断され、目は開いたままになることがあるが、時間経過とともに自然に閉じる。『犬神家』でやるなら、目を閉じた状態で地井武男自身が菊人形になり、短いカットで人形の生首を落としてから、砂利に寝転んだ顔にズームアップし、その落ちた衝撃でカッと目を開ける、というやりすぎなほどのショック演出の方が良かった。もはやホラーな演出。

 そういえば『エクソシスト』もそうだった。悪魔に憑りつかれたリーガン(リンダ・ブレア)の首が180度回転してニタリと笑う場面。どう見てもロボットなんだよ。そこを編集と俳優の演技で乗り切らないと。フリードキンともあろう人が。エレン・バーキンの腰の骨折るような演出する前にココをしっかりやらないと。

 

 『エクソシスト』の大ヒットの次に『オーメン』が公開された。悪魔の子ダミアンを抹殺する短剣を手にした育ての親ソーン(グレゴリー・ペック)は躊躇してしまい、短剣を捨ててしまう。ところがダミアンの出生の秘密を追っていた写真家ジェンキンス(デヴィッド・ワグナー)がその短剣を手にした時、バックしてきたトラックの荷台にあったガラス板が勢いよく滑り落ち、ギロチンのように彼の首を切り落とす。頭はボールのように回転し、ガラス板の上を転がり落ちていく。

 このオーメン』の中で最もショッキングな場面は観客の度肝を抜いた。序盤、ダミアン5歳の誕生パーティ中、乳母が「ダミアン!あなたのためよ!」と叫んで首吊り自殺をする場面もショックが大きいが、やはりガラス板の首切断シーンはおぞましさでは群を抜いている。生首のデヴィッド・ワグナーの顔もそっくりで、『犬神家』の地井武男には7対3で勝っている。

 

 だけど血が一滴も飛ばないんだよ。

 

 リチャード・ドナー監督が後にインタビューでこんな事を言っていた。「ワタシね、血が嫌いなの。だからどのシーンでも血は流さなかった」いやいや、だったらこの仕事受けたらあかん。全体的に演出は見事だけど、首には動脈がある。切れたらすぐ血は出る。血が嫌いなら別のショッキングシーンもできただろうに。2006年のリメイク版ではさすがに現代的演出がなされ、血はドバっと吹き出し、リアルでおぞましい死に方をする(ガラス板は出てこない)。いろいろ評価の分かれるリメイク作だが、殺人シーンのアップデートは一見に値する。

 

 血で思い出した。『椿三十郎』のラストの三船敏郎と仲代達矢の決闘の場面。誰もが賞賛するあの「とても筆では書けない」場面。椿三十郎(三船)と室戸半兵衛(仲代)の二人の間に長い恐ろしい間があって、勝負はギラッと刀がいっぺん光っただけで決まる。

 

 仲代達矢の血圧、上いくつだよ。

 

 血を一気にポンプで噴き出させ、一発撮りで撮影したという逸話を知ってからはもう気になって気になって仕方がない。

 

 この病気は、もう一生治らないのだ。 

 

 

  

 

 

  

 

コメントする