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私の好きな映画

桃田享造
2024/02/07 15:51

TSUTAYAでコケた面白SF映画

面白いだけではヒット作にならない

 

 『TIMECRIMES タイムクライムス』は2007年のスペイン映画。88分という短めの作品で、劇場未公開。いわゆるビデオストレート。今はビデオが無いからDVDストレート?

 

 

素材を活かせてないアートワーク

 

 90年代に劇場未公開でもビデオレンタル市場に出すと飛ぶように売れた。そのせいか、知らない人だけ出てるアクション、有名な俳優が無名時代に出た無名のドラマ、中身よりジャケットが怖いホラー映画という「特定外来種」が瞬く間にレンタルショップの棚を侵略してしまった。

 この時代の「食べたらおいしくなくて、舌に色のつくおやつ」が身に染みているせいか、劇場未公開作品に対してわれわれ映画ファンはスギ花粉のようなアレルギーを持つようになった。この片棒を担いでいたのは他ならない若き日のわたし。そしてわたし自身もスギ、ヒノキ、イネ、ブタクサ、ヨモギ、ハウスダスト、イヌ、ネコ、金属と、ありとあらゆるアレルギーを持つ身となってしまった。

 

 劇場にかけられない理由はいくつかあって、面白くないからという理由だけではない。そもそも面白くない映画を冒険して買い付けるほど、独立系洋画配給会社の財布の中には、昔と違ってお札も小銭もない。

 まず、そう簡単に都内の劇場が空いていない。閉館も増えたし、昔に比べて配給会社よりも劇場の方が作品を選ぶようになってきているのもあるし、空くのを待っているとあっという間に1年2年たってしまう。つい最近さる劇場チェーンが、配給会社に圧力をかけたとのかどで、公取委に独禁法の調査を受けたというニュースが流れた。ジャニーズ問題やビッグモーターと一緒で、みんなうすうす感じてたことがこのところ次々と明るみに出てくる。

 それはさておき。

 それでも履歴書に「劇場公開作」と書きたいので「イベント上映」とか「なんとか映画祭」というパッケージに入れて一日限りの上映を行うという涙ぐましい「資格の取得」をしている会社もある。頑張って日本の中小企業!

 

 最近は市場のシュリンクによりDVDが売れないので、上映権だけ買ってDVDにしない作品も出てきた。2004年のパオロ・ソレンティーノ監督の『愛の果てへの旅』は最近のイタリア映画としては出色の面白さなのに上映とシネフィルイマジカの放送だけだった。マフィアの会計係の孤独なおっさんが、一人のウエイトレスに自分の存在価値を賭ける。DVD化しても多分売れないし、レンタルショップも無名のイタリア映画なんて仕入れないだろう。この10年で最ももったいない映画だった。

 

 『TIMECRIMES タイムクライムス』はじっくり時間をかけて、最初は単館系で、その後1年をかけて全国の小さい劇場でやり、ファンやマニアの間で話題になってきたところでDVDにしていたら今頃はYouTuberの間でもっと有名になっていたはずだ。

 

 

『TIMECRIMES タイムクライムス』の奇妙なあらすじ

 

 禿頭で中年男のエクトルは、ある日双眼鏡を覗いていると森の中で服を脱いでいる女性を発見する。

 (この時点でバイヤーは「ハゲの中年のおっさんが主人公?売れるわけねえじゃん」と思うだろう。このバイヤーの場合、主人公は若くて美しい青年か美女でないと売れないと思っている。こういうバイヤーは同じパターンの買い物を続けるから、楽しい買付の仕事を、毎回同じ消耗品を買うような事務仕事に自ら変えてしまっている。だがそれは買い手のわたしも同じ)

 不審に思ったエクトルが森の中に入っていくと女性は全裸で倒れていた。ちょっとびっくり。

 (男性諸君はここまで観ればもうOK。あとはノンストップになる。この女優さんの胸の形が素晴らしく、本作で『スペース・バンパイア』的に世界的に知られるようにブレイクしてほしかった。これ、ハラスメントのように受け取られそうだが、俳優側の目線は違うはず。そこまでやるなら、メジャーになる代償が欲しい)

 

 恐る恐る女性に話しかけようとしたところ、赤く染まった包帯で顔を覆った奇怪な男に襲われ、腕をハサミで切りつけられる。ちょっとびっくり。この包帯男まるで『ダークマン』。

こういう姿の変質者が向うからわたしを見つめています

 

 身の危険を感じたエクトルは丘の上の奇妙な施設に逃げ込む。するとそこにいた研究員風の男に促され、不思議な機械の中に身をひそめるよう指示される。その機械の大きな蓋が閉じられ、再び開いた時、なんとそれは1時間前の世界だった。

 起承転結の、起。まさに『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』的な展開。我々観客はもう慣れているので、全く驚かないし、はいはい、話進めましょ、このループからどうやって抜け出すかって事ね、という感じになる。しかし、なぜ女性が全裸で横たわっているのだ?あの包帯男は誰だ?なぜ襲ってくるのだ?などいくつか謎の提示があって、話に引き込まれる。いや、これは拾い物かも!?

 

 研究員風の男はエクトルに「この世界に1時間前の自分「エクトル2」がいるが、決して接触しないように」と話す。研究員風の男は黒板にいい加減な曲線と〇を描いて、これが時間の流れだとして云々という、一発では絶対に理解できない説明をする。「エクトル2」が妻に接触するとややこしくなる。1時間前の自分なのに自分の妻に会わせたくないエクトルは、「エクトル2」の行動をコントロールし始める。なるほど、ループから抜け出すんじゃなく、ループ内でループ操るのか。

 ここからは展開が早いので、集中力を維持したまま話についていかなければならない。わたしの大好物の「冒頭10~15分でいかに観客を引き込むかに全集中」している映画である。

 

 もうあんまり書くとどれもこれもネタバレと言われてしまうので、もうやめておくが、もう本当に本当に何も見るものがないという気分の時に、「まあ、どうでもいいや」くらいの気分、できれば「どうせ面白くない」と頭に刷り込んでから観ることをお薦めする。その方が良い。 

 

あとがき

 

 まあ、タイムループ系の話なのだが、1時間前に戻るってどこかで観たかなぁ。SFっぽい感じがするのは、研究室内のタンクくらい。『アルタード・ステイツ』のタンクよりもちょっと大きい。いや『シェイブ・オブ・ウォーター』くらいかなあ。いやもうちょっと小さかったかな。『悪魔の毒毒モンスター』のドラム缶よりは大きかった。『バタリアン』の最初のタンクより5倍以上あった。

 

 この作品の面白いところは、タイムループというテーマもさることながら、包帯男や全裸美女などビジュアルの見どころ、そしてそのボディランゲージも面白い。出演者はたった4人と包帯の男、かつロケーションは家、森、その奥の研究所というミニマムな舞台設定という、少ないリソースで最大限の面白い話を生み出すという低予算映画の工夫も良い。 

 

 この作品には「ハリウッドであのデヴィッド・クローネンバーグがリメイク決定!」といういつもの「リメイク詐欺」をかまされた。

 こうなりゃTSUTAYA発のヒット作品を出そうじゃないか、と本部では盛り上がる。リリース当時は結構な大量入荷があった。後に当時の仕入れ責任者に質問すると「えっ!?それってハリウッド映画の大ヒットの・・・」というくらいの枚数が全国のTSUTAYAに並んだらしい。

 

 さあ、ここで問題だが、もしTSUTAYA発のヒット作品として成功していたら?今、この映画は『恋はデジャ・ブ』や『ショーシャンクの空に』のようにいつまでもいつまでも映画ファンが語り継ぐ作品となり得ただろう。それは『死霊の盆踊り』や『プラン9・フロム・アウタースペース』でもいい。ファン同士の話題として語り継がれるほど映画にとって幸せなことはない。

 しかし、わたしがこうして念仏唱えて成仏させようとしているくらいだから、今もまだどこかのTSUTAYAか、東大阪にあるDISCASの倉庫内を彷徨い続けている一本なのだった。

 

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1 件の返信 (新着順)
椿五十郎 バッジ画像
2024/02/07 21:00

滅茶苦茶気になります!
そういう作品に飢えてます(笑)