法廷映画の傑作に迫る その④
評決(1982年・アメリカ、カラー、129分) 監督:シドニー・ルメット
アメリカの社会派監督の雄、シドニー・ルメットが手掛けた名作に「十二人の怒れる男」(57年)があった。 ‘法廷映画の傑作に迫る その①’ で取り上げた作品である。
そして25年後、再び彼が法廷映画に挑んだのが、この「評決」である。
出産のために入院した女性が、麻酔処置のミスで植物人間になってしまった責任が裁判で争われる。
正義感の強い一人の弁護士を通して、正義とは何かを訴えているのだ。
アルコール依存症の落ちぶれた中年弁護士フランク・ギャルヴィン(ポール・ニューマン)は、新聞の死亡欄で係争問題が起こりそうな事故死を調べては葬儀に向かい、名刺を渡すという屈辱的な生活を送っている。そんな折、彼の良き理解者である老弁護士ミッキー(ジャック・ウォーデン)が、ある事件を持って来た。出産で入院した女性が、麻酔処置のミスで植物人間になってしまったという医療ミス事件だった。依頼人は妊婦の姉夫婦で、実に4年もの間、植物状態となった妹の世話をしている。訴えられた聖キャサリン病院はカソリック教会の経営で、病院の評判が傷つくことを恐れ、ブロフィ司教(エドワード・ヴィンス)は21万ドルの大金を提示し、ギャルヴィンに示談を申し出る。
だが、この事件に執念を燃やすギャルヴィンは示談を蹴り、法廷に持ち込んだ。教会側は老獪な一流弁護士コンキャノン(ジェームス・メイスン)を雇った。そんなある日、ギャルヴィンは馴染みの酒場でローラ(シャーロット・ランプリング)という美しい女性に出会うが...。
そもそもギャルヴィンはなぜ、落ちぶれた弁護士になり果てたのか...
一流大学の法科を首席で卒業、権威ある法律事務所で腕を磨き、やがて結婚、まさにエリート・コースを歩んでいた。ところが先輩の不正事件に巻き込まれ、買収工作の罪を着せられて逮捕、事務所を解雇され、妻とも離婚し、全てを失って転落の一途をたどるようになったのだ。
前半は、ギャルヴィンの荒んだ生活ぶりが、真冬のボストンの風景と共に描かれる。
ところが中盤以降は、証人捜しに奔走したり、法廷での攻防戦など、緊迫感あふれる展開に様変わりする。謎の女ローラの登場も、サスペンスに一層の拍車をかけている。
本作には「十二人の怒れる男」に出演した陪審員2人が、役柄を変えて出演している。
一人は陪審員⑦番を演じたジャック・ウォーデンで、「十二人の怒れる男」では野球好きの陪審員で、すぐにでも野球観戦に行きたい男を演じていた。本作では主人公を助ける老弁護士役。
もう一人は陪審員⑥番を演じたエドワード・ヴィンスで、「十二人の怒れる男」では老人をいたわる心優しい塗装工の男を演じていた。本作ではカソリック教会の司教役。
25年が経過し、2人ともベテラン俳優の落ち着きと貫禄が垣間見れる。
何と言ってもポール・ニューマン迫真の演技が素晴らしい。
若い頃からナイーヴで反抗的なイメージがあり、スターであることを自ら嫌い、演技者であることにこだわり続けたポール・ニューマン。
数々の名作、話題作に出演し、本作がアカデミー賞・主演男優賞6度目のノミネートだった。
しかし「ガンジー」のベン・キングスレーに敗れ、またしても受賞ならず。
「ハスラー2」(87年)でやっと念願の主演男優賞を受賞、7度目の正直だった。
本作において、最終弁論のシーン(陪審員に向かって「正義」を問う)は、彼の名演技のなかでも屈指のシーンである。
そして、ジャック・ウォーデン、ジェームス・メイスン、そしてリンゼイ・クローズは、オスカーに値する好演。
80年代を代表する、メッセージ性の強い傑作である。