扉の向こうにはすべての時間があった。
雨、雲、光の映像美と共に描かれるのは見えぬ物を可視化した巨大ミミズ、人々の生活と隣り合わせにいるのだ。正体は?対抗する草太たちの未来は?そしてすずめの戸締まりは完了したのか?ぜひ確かめて欲しい作品だ。
唐突な入り方だが、
新海誠作品の映像美は有名だ。
夜空の星、雨、雲の動き、差し込む光など、私たちが見慣れている日常の光景をリアルにとても美しく描いている。
もちろん本作でもこのような映像美は健在。
雨や光を可視できる現象とするなら、今回監督が伝えたかったものは不可視な力や現象だ。
その現象とは災い。突然起こる災いの原因となるものを巨大ミミズに例え可視化、不気味な巨大ミミズは、わたし達の美しい日常と常に隣り合わせにいるようだ。常世(とこよ)の住人が現世(うつしよ)に来た、と言ったほうが近いのか…?
なにやら冒頭から難しい話しになってしまったが、早速『すずめの戸締まり』について執筆していこうと思う。
新海誠監督/121分・日本
主演(声)/原 菜乃華・松村北斗
深津絵里・染谷将太
伊藤沙莉・花瀬琴音
花澤香菜・神木隆之介
松本白鸚
➖あらすじ➖
九州の静かな町で生活している17歳の岩戸鈴芽は、”扉”を探しているという青年、宗像草太に出会う。草太の後を追って山中の廃虚にたどり着いた鈴芽は、そこにあった古い扉に手を伸ばす。やがて、日本各地で扉が開き始めるが、それらの扉は向こう側から災いをもたらすのだという。鈴芽は、災いの元となる扉を閉めるために旅立つ。
➖目次➖
1.閉じ師(とじし)とミミズ
2.地震を抑える要石(かなめいし)
3.常世(とこよ)とすずめの成長
4.まとめ
1.閉じ師(とじし)とミミズ
本作は2011年の東日本大地震にフォーカスしているのだが、今でも考えることがある、事前に防ぐことはできなかったのか、と。
私は東京在住のため大きな被害は無かったが、地震発生当時の職場は情報を正確に伝えるために、大混乱したのを今でも鮮明に覚えている。
実際には地震を事前に防ぐことは不可能だが、本作では、地震を起こすミミズを封じ込める役目が閉じ師(とじし)で、物語の主人公 草太だ。草太と一緒に閉じ師ではないが、草太をたすけ活躍するのが、こちらも主人公のすずめ。ふたりはミミズが通り抜けようとする廃墟に存在する扉に鍵をかけるために、日本各地を旅することになる。
2.地震を抑える要石(かなめいし)
この日本各地の廃墟に存在するという扉。
草太とすずめが追いつけなければ、ミミズは通り抜け放題なのか?と不安になるが、本作を鑑賞すると廃墟の多さに驚かされる(演出かもしれないが)。
気になるので調べたところ、廃墟に関する記事が多数見つかった。私は案内されても廃墟巡りは遠慮したいが、すずめ達には扉とミミズの存在を知らせてくれるダイジンという白猫がいる。ダイジンが現れるところにミミズも現れるのだ。
すずめは訳あってダイジンを嫌っているが、ダイジンは物語のキーパーソン、いや猫だからキーキャットか?憎きミミズが出現するようになった原因に実はダイジンも絡んでいるのだ。
そして本作には要石(かなめいし)という言葉も頻繁に出てくる。本作の要石とはミミズが活動しないように身をもって釘を刺す役目で、非常に重要な存在だ。
ここで要石についても調べてみたのだが、茨城県の鹿島神宮、千葉県の香取神宮、三重県の大村神社、宮城県の鹿島神社に存在し、地震を鎮めているとされる、大部分が地中に埋まった霊石。人々が要石に祈りを捧げる絵とともにwikiに記載されていた。思い返せばわたしも、御朱印集めをしていたときに、見たことがあった。
ではその要石が抜けたら人々はどうなるのか?
ダイジンとは一体何者か?
草太の勇気ある自己犠牲と心の叫びとともに、ぜひ本作を鑑賞して確かめて欲しいと思う。
3.常世(とこよ)とすずめの成長
前述の通り廃墟の扉からミミズが現れるが、ただ現れる訳ではない。後ろ戸という扉が開くとミミズが現れ、通り抜けてしまうと現世に地震を起こすのだ。
後ろ戸の向こう側に存在するのは常世(とこよ)といって、死後の世界だといわれている。つまりミミズは死後の世界からの招かれざる客だ。
日本の下にひそむ地震プレートじゃないが、
ひずみが溜まった場所に移動して地震を起こす、自由自在で神出鬼没な奴だ。
これが人間になると違うらしい。
草太の祖父が「人が通れる後ろ戸は生涯に一つだけ」とすずめに伝えるシーンがある。
でも実はすずめは過去に後ろ戸を通っている、そう簡単に扉を見つけることができるのか?
私の推測だが、その答えは冒頭から度々映し出されるシーンにあると思う。
母親を必死で探す小さな少女とそれを見つめる一人の女性、どちらもすずめ本人だ。
震災で母親を亡くした事実を認めたくないという思いが、当時4歳のすずめに常世に通じる扉を見つけさせ、すずめは迷い込んだのだ。
そして母親を必死でさがす…。
その姿をみると涙を堪えることができない。
12年経ちすずめは高校生になったが、母親への強い思いからすずめの心は被災地にある。
消化できない思いがすずめに夢の中でも常世を見させているのだ。
だが、憎いミミズを封じるうちに、12年間叔母にたくさんの愛情を貰い育てたられた事、好きな人がいるという心強さ、すずめとして立派に生きてきたことに気づいたのだ。
さらに亡き母の手作りの黄色い椅子を通して母の愛情の大きさにも改めて気づく。
12年後の真実を伝えるためにすずめは再び常世の扉を開け、不安だった幼い頃の自分と対峙し、あなたの未来は大丈夫!とエールを送るのだ。そのシーンはとても感動的だ。
そして扉を閉め鍵をかけ「行ってきます」の言葉とともに、すずめの心が現世に来たのではないか?と私は捉えた。
4.まとめ
内容は本作と全く違うが、今年公開された映画「CLOSE」では親友が亡くなり心は当時のまま止まっていても、季節は変わり、花や草木は何事もないように咲き、生い茂るシーンがある。
わたしは残酷で無情に感じたのだが、何も知らない人はその土地に咲く花や木を見て、綺麗と言うだろう。
本作でも被災地を見た草太の友人が、この辺てこんな綺麗な場所だったんだなぁ、と呟くシーンがある。すずめにとっては当日の日記を黒く塗りつぶした程、思い出したくない出来事だ。人それぞれの受け取り方があるのかもしれないが残酷に感じた。
地震などの災害はいつ起こるかわからない、月日が経てば震災自体を知らない命も誕生する。わたしは本作を鑑賞して震災当時を振り返り、犠牲になった人々のこと、残った人々が生きることの意味を、私なりに考え、胸に刻んだ。
そして12年間の思いに戸締まりをしたすずめの姿に、感動せずにはいられない作品だった。
長文になりましたが、
読んで頂きありがとうございました😊
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