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私の好きな映画

じょ〜い小川
2024/07/05 21:04

脚本の妙と後味がじわじわとくる法廷ミステリー『落下の解剖学』

■落下の解剖学

(c)LESFILMSPELLEAS LESFILMSDEPIERRE

〈作品データ〉

第76回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールとパルム・ドッグ賞を受賞したジュスティーヌ・トリエ監督・脚本による法廷ミステリー!ベストセラー作家のサンドラは教師の夫サミュエルと視覚障害を持つ息子ダニエルとフランスの山荘で暮らす。ある日、ダニエルが家の近くに戻ると家の前でサミュエルが死んでいて、妻のサンドラが容疑者として疑われることに。主人公サンドラ役をザンドラ・ヒュラーが演じ、他スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ、サミュエル・タイス、ジェニー・ベス、カミーユ・ラザフォード、ソフィ・フィリエールが出演。

・2月23日(金・祝)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー

・上映時間:152分

・配給:ギャガ

【スタッフ】

監督・脚本:ジュスティーヌ・トリエ/脚本:アルチュール・アラリ

【キャスト】

ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ、サミュエル・タイス、ジェニー・ベス、カミーユ・ラザフォード、ソフィ・フィリエール

原題:Anatomie d'une chute/製作国:アメリカ/製作年:2023年

公式HP:https://gaga.ne.jp/anatomy/

 

〈『落下の解剖学』レビュー〉

昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲った作品が盲目の息子が証言者になる法廷ミステリーであるという情報を早々と聞いていて、半年以上待ってようやく見れた第76回カンヌ国際映画祭のパルムドール作品でもあるジュスティーヌ・トリエ監督・脚本作品『落下の解剖学』

(c)LESFILMSPELLEAS LESFILMSDEPIERRE

これ、ずばり脚本の妙が冴えわたる作品で、起承転結の「起・承」まではおとなしいのに「転」で流れが大きく変わり、作品全体を支配する法廷ミステリーで、夫婦や家庭の問題が一気に詰め合わさったハードな家族ドラマにもなっている。

 

雪山の山荘で一家の作家志望の教師の夫サミュエルが謎の転落死を遂げ、妻のサンドラに容疑がかかりながら大方自殺事故の方向で進むけど、サミュエルの遺体の外傷や微妙に残っていない状況証拠から事件として怪しまれる、というのが前半の流れ。ここまではわりとゆったりとした法廷ドラマだけど、中盤に出てくるある物証による事実が凄まじく、ここから大きく流れが変わる。

それまでは交通事故で視覚障害になった息子を抱える夫婦というだけだったのが、それを起点にした夫婦や家庭の問題から、ある個人の悩みや葛藤、闇がふんだんに盛り込まれ、サンドラとサミュエルを見る目が変わり、作中の法廷内で立ち会っている人達ばかりだけでなく、映画を見る観客もこの立ち会っている側の目線で映画を見ることになる。この引き込む力が凄く、そのまま終盤まで映画を見守り、見終えた後も「本当の所、どうなんだろ?」とつい考えてしまうぐらい衝撃が残る。

(c)LESFILMSPELLEAS LESFILMSDEPIERRE

それと、考えてみると唯一の証人になる視覚障害がある息子ダニエルも障害以外は普通の少年だし、サンドラに対して突っ込みが厳しい検事はいるけど肝心な所は詰めが甘く裁判長にたしなめられるし、サンドラの弁護人はサンドラに肩入れし過ぎ。つまり、この事件において優秀な刑事も探偵も弁護士も検事もいなく、誰も現場状況や中盤に出てきた事実についても決定的に詰められないので、ストーリーが最後までどちらに転ぶかわからない面白い展開になっている。

(c)LESFILMSPELLEAS LESFILMSDEPIERRE

音楽の使い方も上手く、大音量で流す50セントの曲のインスト版の意味や、ダニエルが弾くピアノなど肝心なシーンで使う。

 

それと、犬も随時肝心なシーンで動かし印象深く、パルム・ドッグ受賞も納得。

ただ近年のパルムドール作品と比較すると奇抜さやえげつなさは薄味で、脚本の妙と後味がじわじわとくる法廷ミステリーの秀作ではある。

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