生きるべきか死ぬべきか~To Be or Not to Be~
先日、知人の方からおススメで紹介いただいた「生きるべきか死ぬべきか」(原題:To Be or Not to Be)を鑑賞しました。
これは私が大好きな名匠ビリー・ワイルダー監督の師匠であるエルンスト・ルビッチ監督が1942年に制作された映画です。なお日本での初公開は1989年で半世紀後です。
ちなみにルビッチはドイツ出身ですがナチスドイツにドイツ市民権がはく奪され、家族をアメリカに呼び、アメリカの市民権を得た人物でもあります。
主演はキャロル・ロンバートで風と共に去りぬでおなじみのクラーク・ゲーブルの奥様でもあり、公開前に不運な飛行機事故で死去された戦前の名女優です。
私はキャロル・ロンバートの映画は初めて観たのですが、モノクロの映画でも彼女の周りに光が指していることが分かるほど、輝く美しい方でした。
『To Be or Not to Be…』
このセリフ、実は有名な演劇「ハムレット」のセリフです。この後には「that is the question.」とセリフが続きます。翻訳には諸説そうです。
この映画はナチスヒトラー率いるドイツ軍に対抗するポーランドの俳優一座が主役です。これを戦時中しかも1942年に制作したのです。しかもナチスを風刺しているコメディでもあります。
ある意味制作は命がけだったのではないかと思うほどです。
何せこの当時は、この第二次世界大戦の決着は誰にも分かり得なかったのですから。
映画は1939年にドイツがポーランドに侵攻をした事実を背景に描いています。
ある日突然、ポーランドの人たちは、自分たちの自由な生活・安全をドイツ軍に奪われたのでした。
ポーランドの歴史を見ると、ドイツとソ連に領土が分断されたり、本当に残虐な侵略を受けており、あのアウシュビッツ収容所もポーランドに作られたのです…
ただ現在のポーランドは苦難の時代を生きながら、民主化運動を起こし、自身の信仰を守り抜き、1989年にはポーランド共和国となり、再興することができたのです。ポーランドの方は不屈の精神を持っているのですね。
映画のあらすじに戻ると、主人公はワルシャワで俳優一座に所属している俳優夫婦です。
少しポンコツ気味の俳優である夫と、美しいワルシャワ1の女優、そしてその女優に恋焦がれる若者(スパイとして亡命先の英国から故国へ潜入していた浮気相手の空軍中尉)との三角関係が、ひょんなことからイギリス人だがナチスのスパイである教授に女優の情報が渡り、そして他の者たちの家族の情報等もナチスドイツに渡る危機に…
その情報が渡れば収容所送りになる可能性もあります。
祖国や家族を守るため、イギリス人の若者男性やワルシャワの俳優一座は奮闘します。
まず最初に、ヒトラーの物まねをあらゆる場面で行っているところが凄すぎます。
そもそも最初にドイツ軍を物まねした舞台を演じているところから始まります(笑)
「ハイル・ヒトラー」ならまだしも、舞台のセリフとはいえ「ハイル・マイセルフ!」というセリフをこの当時の映画で役者が演じているのはある意味凄すぎますね。
そしてこの映画の最大の見どころは、俳優一座などがイギリスへの脱出を図ります。
そこで占領下のワルシャワで観劇中のヒトラーとその取り巻きになりすました一行と、偽物とはつゆしらないナチスドイツの親衛隊の面前で、ヒトラーになりすました役者に対し、俳優座の同僚のユダヤ人俳優が「ベニスの商人」に登場するシャイロックの有名な科白をわざとぶつけるシーンがあるのです。
”If you prick us, do we not bleed? If you tickle us, do we not laugh? If you poison us, do we not die? And if you wrong us, shall we not revenge?”
”刺されれば血が流れ出るし、くすぐれば笑う。毒を盛られれば死ぬし、不当に扱われれば復讐する…”
なお映画公開当時、アウシュビッツであれほどの残虐が行われていたことは世界は知らなかったそうです…この映画は全体的にとてもテンポがよく、ハラハラドキドキしてコメディタッチでもありますが、この場面はとても辛らつであり、様々な心情を想像しえません。
この映画を観ると、本当に毎日、生と死が隣り合わせのような世界で人々は暮らしていたのかなと感じられます。今の世界を見ると、同じことを繰り返してはならないとより思わせてくれます。
祖国が爆撃された人々の呆然とした表情は映画越しであったとしても、心が苦しいです。
当時映画を観た方はどんな感情を持ったのか。とても興味深いところです。
ある意味ポーランドの誇りを描いており戦時中のリアルなナチスへの風刺を表している歴史映画でもあります。
何が正しかったか、それは全てを知る由もないかもしれないですが
どんな人間にも尊厳はある、助け合うこと、祖国を守ること
その想いをこの映画を通して感じられました。
是非皆さんに一度見てもらいたいなと思う作品です。
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