圧倒的な力強さ『オッペンハイマー』レビュー
今年のアカデミー賞を語る中でやはり外せないのはこの一本。
クリストファー・ノーラン監督最新作の『オッペンハイマー』です。今回機会に恵まれ一足先に見て参りました。
『メメント』でのブレイク以降、”ダークナイト三部作”や『インセプション』、『インターステラー』、そして最近作の『TNENT/テネット』など巨匠ではあるモノの”ジャンル映画の人”だったノーランですが、実話ベースの『ダンケルク』で賞レースの本流になるような作品も行ける人だと証明しました。
それまでも『ダークナイト』でヒース・レジャーの受賞があったり、視覚効果や撮影、編集などで受賞歴はありましたが、作品賞の大本命になるような作品をいよいよ手掛けてきました。
本作『オッペンハイマー』については描かれる事柄(描かれていない事柄)から傑作とするかどうかに関しては人それぞれ、多くの意見が出ることは間違いないでしょう。
アメリカ本国でもいろいろ意見が出ているぐらいですから、日本で公開されるに至っては、その反響の大きさは察して余りあるものがあります。
ただ、その上で一本の映画として『オッペンハイマー』を見た時の圧倒的な力強さは否定できないのもまた確かなことです。
多くのものを抱え、激動の時代を生きた故に様々なものを抱えるオッペンハイマーという複雑なキャラクターを演じたキリアン・マーフィー。中盤以降抜群の存在感を示すロバート・ダウニー・Jr。こちらも高評価が納得のエミリー・ブラントの熱演も素晴らしいです。
実話映画ではありますがノーラン監督はその中に得意のサスペンス的な演出を盛り込んだことであっという間の3時間となりました。ノーランとしても一段上に昇った感があります。
ただ、メインキャラだけでも数十人に及び(しかも名のある俳優が演じている)、しかもそれについて説明がしっかりされているわけでなく、物理の世界の用語についても、オッペンハイマーの主観で語られていることもあってか、知っている事柄として話がどんどん進んでいきます。はっきり言って”わかりやすい映画”ではありません。
ただ、キャストの熱演とノーランのパワフルな演出でグイグイとスクリーンに視線を釘付け続ける映画であることは確かです。
ちなみに映画は65ミリフィルムと、IMAXカメラという仕様で撮影されていることもあるのでできればIMAXシアターでの鑑賞をお薦めします。サウンドデザインもそれに合わせてあります、振動のような音響も一番活きる環境だと思います。