新藤兼人のヒバクシャ3部作と言える作品
シリーズ『オッペンハイマー』の日本公開を待ちながら その6
『 オッペンハイマー 』がアカデミー賞に最多13部門ノミネートされ、また3月29日の日本公開が決まりました・・・ようやく。
さて日本映画が原爆についてどう描いてきたかを観てみようと、まず思い浮かんだのは、やはりライフワークとして撮ってきた新藤兼人( 1912~2012 )の作品。
僕にとって原爆・水爆は重く、つらいテーマであり、これまで心理的ハードルが高くて新藤兼人の作品も敬遠してきましたが、今回意を決して彼の作品を3本観てみました。
やはりずっしりときましたが感嘆し、鑑賞後に監督、出演者、制作過程などを調べてみると、これまた感慨深いものがありました。
1本目は『 原爆の子 』(1952) 40歳
ヒバクシャの子どもたちの文集「 原爆の子 」(長田新・著)原作としているが、モチーフとしているものの、新藤兼人脚本のオリジナル・ドラマ。
主演は乙羽信子。
広島で幼稚園の教諭をしていた石川孝子( 乙羽信子 )は8月6日原爆に会い、幼稚園の建物の下敷きになったものの奇跡的に助かった。
しかし一家は全滅。彼女自身も腕にガラス片が入ったまま( 新藤兼人の親戚の娘の実際 )で、戦後は海軍兵学校があった能美島で小学校の教諭をしていた。
7年ぶりに広島を訪れ、かつての同僚や園児3人に会いに行く。
そして道ばたで物乞いしている顔一面のケロイドで盲目の老人が、石川家で下働きをしていた岩さん( 滝沢修 )であることに驚き、孫を抱えて苦境にあえいでいるの知る・・・。
ロキュータス名義のレビューはこちら。
2本目は『 第五福竜丸 』( 1959 ) 46歳
1954年3月1日、アメリカはビキニ環礁で水爆実験( キャッスル作戦 ブラボー実験 )を警告なしで行い、マーシャル諸島沖で操業していたマグロ漁船・第五福竜丸が放射性降下物( 死の灰 )浴び、乗組員23名がヒバクした事件を描く。
取材に基づくドキュメンタリー・タッチで描いたドラマで、主演は宇野重吉。
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3本目は『 さくら隊散る 』( 1988 ) 76歳
さくら隊とは先の大戦中の慰問劇団・桜隊のこと。
広島の原爆で亡くなった9名の俳優・スタッフについて、殉難の再現ドラマ(白黒)と、証言を記録したドキュメンタリー( カラー)で構成される。
原作は江津萩枝のノンフィクション「 桜隊全滅 」( 未来社 )
さくら隊殉難者の一人 宝塚出身で『 無法松の一生 』( 1943年 阪東妻三郎版 )の出演で知られる園井恵子の伝記
「園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢」 千和裕之・著( 国書刊行会 」があります。
ロキュータス名義のレビュー1回目 (2009年3月28日)はこちら
ロキュータス名義のレビュー2回目 (2024年2月27日)はこちら
3作を観終わって、その過酷さに哀しみ、痛み、憤りが入り混じった複雑な感情で胸いっぱいになり、やはり重くずっしりときました。
それでも打ちひしがれず、無力感や虚無感を引きずらなかったのは、作品が共通してメッセージ先行や政治プロパガンダにならず、人間を描いている、と感じたからです。
残酷に命を奪われた死はちゃんと描きますが、それまで生きた人生、そして殉難後の過酷な人生を生きるヒバクシャたちの人生に、厳粛な思いがしました。
新藤兼人監督は反核をライフワークとし、『 原爆小頭児 』「 8.6 」など他の作品もありますが、この3本はヒバクシャ3部作と位置づけてもいいのではないでしょうか。
参考
「 新藤兼人・原爆を撮る 」新藤兼人・著 ( 新日本出版社 )
「 新藤兼人伝~未完の日本映画史 」小野民樹・著( 白水社 )
「 どろんこ半生記 乙羽信子 」聞き書き・江森陽弘( 朝日新聞社 )
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投稿を表示「さくら隊散る」
先日、観ました。
アドバイスをいただいたとおり覚悟して観ましたが、覚悟が足りませんでした。
今までにも原爆関係の作品はいくつも観てきたのに、これはちょっと違っていました。上手く説明出来ないのですが、物語自体は原爆反対や戦争反対をうたっているわけではなく、被爆した桜隊のメンバーの足取りを追い、淡々と現実だけを描いていました。
登場人物の誰一人、原爆についての発言はなかったと思います。
宿舎の焼け跡から見つけた骨片を、これが女優たちのものに違いないと認めたり、収容所で見つけた丸山さんや自力で中山さんの家まで辿り着いた二人や、自宅に帰った女優のその後(皆、原爆症で亡くなりましたが)を描いただけでした。
これまでに見たドキュメンタリーでは、助かったひとたちの姿、傷痕、苦悩が描かれても、亡くなる瞬間は映して来なかったと思います。本作も当然、再現シーンではありますが、私には衝撃でした。
こんな事を書くのは憚られますが、たった数日、命を長らえただけだけにすぎず、しかもずっと苦しんだだけでした。
即死した方が楽だったのじゃないか?とさえ、不謹慎にも思ってしまいました。
ディスカスのレビューには流石に其処まで書けず、支離滅裂な文章になってしまいました。
そのような訳で、あちらでは鑑賞のご報告にも伺えず失礼しました。
本作のご紹介に感謝しております。