2024年に観た映画(10) 「落下の解剖学」
「構造を明らかにするためには、外部のみではなく内部を細かく分けて研究しなければならない。anatomyとは、(ana) 相互にあるいは下から上に (tomia) 切るという意味であり、まさに解きわける(剖)と言うことである。」(wikipediaより抜粋)
養老孟司さんは「解剖」を分析と置き換えていました。雪山の山荘で起きた夫の転落死を巡り、殺人を疑う検察と無実を訴える妻との間で繰り広げる法廷劇。徐々に明らかになる事実に対し、双方の見解が真っ向から対立する。
この手の法廷劇としては非常にオーソドックスな展開。次々と切り取られて衆目に晒されるこの夫婦のプライバシー≒事実関係。検察の追求と被告の弁明が、観客の心証を左右する。この事件の内部構造をより複雑にするキーパーソンでもある息子ダニエルの存在と彼が放つメッセージが、ただの謎解き以上の問題提起をもたらす。
とはいえです、この手の作品において観客の興味は詰まるところ「殺ったのか殺っていないのか」「有罪か無罪か」に行きつくのですが、そもそも本作の予告編でも「私は彼を殺していない」と言うサンドラに対し、弁護士のヴァンサンは「そこは重要じゃない」と言い切っていた。
真相などどうでもよくなるくらい、夫の死を巡る事件の解明プロセス≒アナトミーに観応えや新鮮味があったかというと、私的には微妙です。タイトルから連想される作品のモチーフを、ディベートのノリで再三サンドラを追い詰める検察の姿勢が台無しにしているようにも思えました。
第76回カンヌ国際映画祭は、
・パルムドール 「落下の解剖学」
・グランプリ 「関心領域」(未見)
・監督賞 トラン・アン・ユン(「ポトフ 美食家と料理人」)
・審査員賞 「枯れ葉」
という結果。
私が審査員なら、本作より「PERFECT DAYS」推します。次点は「怪物」です。
№10
日付:2024/2/24
タイトル:落下の解剖学 | ANATOMIE D'UNE CHUTE
監督・共同脚本:Justine Triet
劇場名:シネプレックス平塚 screen1
パンフレット:あり(¥880)
評価:5.5
「疑わしきは罰せず」というルールは少なくとも民主主義の国々における共通認識だと思うのですが、状況証拠しかない検察側が繰り出す推測に基づいた誘導尋問まがいの質問は、日本の裁判ものなら弁護人の「意義あり!」で大半が却下されてしまうのでは?
<CONTENS>
・愛の破滅のその先へ 門間雄介(ライター/編集者)
・キャスト
・ジュスティーヌ・トリエ監督インタビュー
・ジュスティーヌ・トリエ監督
・『落下の解剖学』解剖メモ 森直人(映画評論家)
・クルー
・崩壊と挫折 齋藤敦子(映画評論家)
・トラウマとコンテクスト 斎藤環(精神科医)
・クレジット