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趣味は洋画
2024/01/11 10:37

懐かしき1950年代の映画「日本編」

1960年代、1970年代と、懐かしの名作を「アメリカ編」「ヨーロッパ編」「日本編」に分けて振り返っている。前回の1950年代「ヨーロッパ編」に続き、今回は1950年代の日本映画を懐古したい。

当時の作品をリアルタイムで観ていたわけではないが、深い感動に浸れる名画が多い。

 

雨月物語(1953年・大映):溝口健二監督

‘時代(とき)を経ても、人間の本質は変わらず’ 本作を観た感想を一言で述べればこうなる。
そして圧倒的な映像美によって、溝口監督の世界に引き込まれる。

特に物語の前半、水面(琵琶湖)すれすれのカメラが捉える湖のシーンは、陰影に富んだ照明と相まって実に幻想的。この「幻想」が映画の骨格や主題に大きく影響を及ぼし、作品を流麗なものに仕上げている。

「幻想」はときに、絵巻物のような流れの中で繰り返され、京マチ子扮する若狭姫がスクリーンに姿を現した途端、それまでの画面の雰囲気が一気に豹変する。
ススキの揺れる中、朽木の屋敷に向かう若狭姫、乳母の右近(毛利菊枝)、そして源十郎(森雅之)の3人。この地面を這うように歩く姿を、「幻想」といわずしてどう表現の仕様がありましょう。

田中絹代水戸光子小沢栄太郎らの演技も素晴らしい。

 

 

七人の侍(1954年・東宝):黒澤明監督

‘今度もまた 負け戦(いくさ)だったな。 勝ったのは百姓たちだ。俺たちではない’
この名ゼリフが観終わってジーンと効いてくる。
不動の人気と評価を併せ持つ黒澤明の最高傑作で、「クロサワ」の名を世界に響かせた作品。


まず、百姓が侍を雇うという奇抜なアイデアに驚かされる。

そして、時代劇の戦いという考え方が1対1から、集団での戦いに変化していった礎となった作品であろう。敵味方入り乱れての殺陣シーンの迫力はすばらしく、特に雨中の決戦のすさまじさは日本映画史上に残る名場面といえる。泥が撥ね、しぶきとなる。血が飛び交う。馬が跳ね、嘶く。走る、ただひたすら走る侍。斬り込む侍と、もんどりうって倒れ込む侍。まさに地獄の戦場だ。

七人の侍を演じたのは、志村喬加東大介宮口精二千秋実木村功稲葉義男、そして三船敏郎である。

 

 

ゴジラ(1954年・東宝):本多猪四郎監督

記念すべきゴジラ・シリーズの第一作で、これを超える怪獣映画は皆無だし、もう出てこないだろう。
水爆実験が原因で目を覚ました怪獣ゴジラが、口から放射能を吐きながら東京の街を破壊し尽くす。
それに対して人間は何ができるのか...端的にいえばそういう内容だが、素晴らしいいのはゴジラのキャラクターである。巨大で凶暴でありながら、どこか愛嬌があって憎めない、特筆すべき存在だ。

 

逃げ惑う市民の背後に迫る巨大なゴジラの映像、国会議事堂やテレビ塔も瞬時に破壊され、列車はなぎ倒される。テレビアナウンサーが必死の形相で実況する。 ‘銀座や新橋、田町はまったくの火の海です!(中略)もう退避する暇がありません! いよいよ最後です、いよいよ最後、さようなら皆さん、さようなら!’

 

主な出演俳優は、宝田明河内桃子平田昭彦志村喬菅井きん等...
冒頭、スタッフ・キャストのクレジットは、 ‘あの’ ゴジラ・テーマ曲にのって字幕紹介される。

 

 

東京物語(1953年・松竹):小津安二郎監督

老いの孤独、肉親間の感情の行き違い、そして自分の理想どおりには行かない人生...つまり、個人にとっては極めて重大な問題をテーマに描いている。小津安二郎監督の最高傑作として、世界的にも評価が高いのは「ポピュラーな分かり易さ」かもしれない。

 

尾道で暮らす平山周吉(笠智衆)と妻とみ(東山千栄子)の老夫婦は、末娘の京子(香川京子)を留守番役に残し、20年ぶりに東京に住む子供達を訪ねる。長男の幸一(山村聰)は内科医を開業、妻の文子(三宅邦子)と共に両親を温かく迎えた。美容院を経営している長女の志げ(杉村春子)は、多忙で親の相手が出来ず、戦死した平山家次男の未亡人である紀子(原節子)に依頼し、両親を東京見物に連れ出してもらうのだが...。

 

映画の最初から最後まで、出演者以上に最も登場するのが「うちわ」である。
夏の風物詩といわんばかりに、誰の手にも「うちわ」がある。

ゆらゆらと揺らしながら、年老いた親を気遣う子供たち、自問自答しているのか...。

そして周吉がひとりになったときに揺らす「うちわ」、何を思っているのか...。
 

 

点と線(1958年・東映):小林恒夫監督

推理作家、松本清張の名を一躍有名にしたベストセラー小説を映画化。
既に65年が経過した今観ることによって、「昭和」の時代にタイムスリップできる。

 

福岡県、香椎の海岸で男女の死体が発見される。東福岡署の捜査員らは状況から無理心中と予測するが、ただ一人、古参の鳥飼刑事(加藤嘉)は ‘不自然な点がある’ として事件性を訴える。遺体の身元は産工省の課長補佐と、東京・赤坂の料亭の仲居だった。警視庁捜査二課の三原警部補(南広)は、鳥飼刑事と協力して捜査を開始した。やがて、東京駅15番ホームで夜行列車に乗り込む課長補佐と仲居を見たという目撃者が現れるが...。

 

この時代は「移動」の手段は列車が中心で、本編中に何度も列車が登場する。
前半、東京駅のホームで目撃される2人の時間帯が、1日のうちでもわずかな時間しかないという着眼点は、サスペンスの構成上、大きなキーワードになっている。事件解決の糸口となる ‘ある発見’ が、今では考えられないような事柄ではあるが、当時としては十分、観客に訴えることのできる現象だったのだろう。


上述の加藤嘉、南広に加え、山形勲志村喬高峰三枝子堀雄二月丘千秋風見章子花沢徳衛らが出演している。

 

 

流れる(1956年・東宝):成瀬巳喜男監督

下町の芸者置屋の使用人から見た、芸者社会の世知辛さを描いた作品。

大物女優8人(後述)の共演により、「女の業」を巧みに描いた成瀬監督の手腕が光る。

 

東京・柳橋に「つたの家」という一流置屋がある。ここに、職業安定所からの紹介で、梨花(田中絹代)という45歳の未亡人がやって来る。「つたの家」の女主人つた奴(山田五十鈴)は人気の芸姑だったが、経営者の気質ではなく、華やかさとは裏腹に借金が膨らんでいた。つた奴は、住み込みの女中として働きたいという梨花を一目見て採用する。一方、つた奴の異父姉・おとよ(賀原夏子)は、つた奴に旦那を世話して金を取り立てようと画策するが、つた奴にその気はまったくなかった。

 

クレジット上位8人の大物女優は、田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子岡田茉莉子杉村春子中北千枝子栗島すみ子、賀原夏子の面々。

 

迫力あるシーンがある。

つた奴(山田五十鈴)と勝代(高峰秀子)の母娘 対 染香(杉村春子)の大バトル(口喧嘩)である。双方とも一歩も引かず、激しい口調で罵り合う。

女の怒り’ が、内面から一気に外面に変化した瞬間だった。

 

 

上述以外にも、黒澤明監督の「羅生門」、「生きる」、「隠し砦の三悪人」、「蜘蛛巣城」、

溝口健二監督の「山椒大夫」、「西鶴一代女」、「祇園囃子」、

小津安二郎監督の「お茶漬の味」、「浮草」、成瀬巳喜男監督の「めし」、「浮雲」、等々

名作が並ぶ。

これらの作品についても、いつの日か、PARTⅡとして振り返ってみたい。

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1 件の返信 (新着順)
飛べない魔女
2024/01/12 10:52

趣味は洋画さん♪
待っておりました!邦画編!
〖雨月物語〗〖点と線〗←小説は読みました 〖流れる〗は未見なので見てみたいと思います。


趣味は洋画
2024/01/13 09:45

魔女さん、早々にコメントありがとうございます。

いつかレビュー広場でお話したかもしれませんが、自分のハンドルネームが超ダサイ「趣味は洋画」にしているので、邦画の選定に躊躇う気持ちもありました。
でも、広場で数々の邦画に巡り合えて、日本映画も絞り込みには限界があると感じました。
まずは名監督と云われた方々から1本づつを選定してみましたが、到底、不十分であり、近々に別の角度から追い続けていきたいと思っています。

数千本という数の作品をご覧になられている魔女さんが、「雨月物語」、「点と線」、「流れる」を未見とは意外でした。
レビュー広場で(或いは本欄で)、また感想をお聞かせ下さい。
楽しみにお待ちしております。
2024.01.13