沈黙の叫びが響く夜
映画『サイレントナイト』が描く
言葉を超えた復讐劇

4月11日に公開を迎えるジョン・ウー監督の最新作『サイレントナイト』は一風変わったリベンジアクションだ。
ギャングの銃撃戦で最愛の息子を失い、自身も声を奪われた男ブライアンが、クリスマスイブの夜に復讐を誓う物語。特筆すべきは、全編にわたってセリフが存在しないという点だ。

今回オンライン試写で鑑賞させて頂き、印象に残った点を執筆する。(ありすぎて困った)

【あらすじ】
幸せな一日になるはずだったクリスマス・イブのその日、ギャング同士の銃撃戦に巻き込まれた男は、目の前で愛する我が子の命を奪われる。自らも重症を負った男は、なんとか一命をとりとめたものの声帯を損傷。絶望を叫ぶ声すらも失ってしまう。声なき男の悲しみはやがて憎悪へと変わり、悪党どもへの復讐を決意するのであった。ギャング壊滅の日は次の12月24日。聖なる夜に、誰も観たことのない壮絶な復讐劇が幕を開ける。(公式より引用)
 

ジョン・ウー監督といえば、『男たちの挽歌』をはじめ、『フェイス/オフ』『マンハント』などでスタイリッシュな映像と激しいアクションで私たちを魅了してきた巨匠だ。
作品の特徴である、スローモーションを駆使した二丁拳銃、流れるようなカメラワークは本作でも健在だ。今回はセリフを封印したことで、映像そのものが持つ力が際立っている。
悪に対する情け容赦ない描写や、断片的にインサートされる回顧シーン。これらは、監督の香港時代を彷彿とさせる感情的なアクション演出の真骨頂と言えるだろう。
セリフ無しでも、ブライアンが抱える喪失感と、その根底にある激しい怒りを私たちに突きつける。

また、『ジョン・ウィック』製作陣が参加した完成度の高いアクションは、単なる暴力ではなく、言葉を失ったブライアンの内なる叫びと葛藤を視覚的に表現する為に、重要な要素となっている。聖なる夜クリスマスイブに激しく燃える復讐の炎という対比も、作品の面白さを際立たせている。
 

迫力ある映像を支える裏側では、徹底的にリアルを追求する事と安全対策が両立されていた。
チェイスやクラッシュシーンでは、なんと18台もの主要車両が実際に破壊され、臨場感を高めている。
 

特殊効果チームを率いたダニエル・“チョヴイー”・コルデロは、爆発、煙、弾丸、炎といった要素を可能な限り物理的に再現、シーン毎に真実味を与えた。もちろん、撮影における安全管理は徹底的に行われたという。
 

武器管理チームも専門的に編成され、ロック・ガロッティとアレハンドロ・バスケスが指揮をとった。俳優陣には、主に警察が使用するベレッタPx4やグロックなどの短銃に加えAK-47、サブマシンガン、モスバーグ(ショットガン)といった長銃が提供された。
これらの武器は、物語の展開をリアルに表現するために慎重に選ばれ、安全管理とプロトコルを厳守しながら使用されたそうだ。
 

さらに、ジム・チャーチマンとベルナンド・ブーシオ率いるメキシコ人スタントマンチームも参加し、危険なアクションシーンをプロの技で成功に導いた。彼らは、ギャングとブライアンが激突する場面で、緊迫感MAXのアクションを演出し、私たちを釘付けにする。
 

以上のように細部にまで徹底的にこだわった結果、本作の圧倒的な映像体験を生み出したと言えるだろう。

そして主演のジョエル・キナマン。
彼は全身で感情を表現している。
言葉を失った主人公に渦巻く悲しみ、怒り、そして復讐への執念。
彼の表情や息遣い、鍛え上げられた肉体から繰り出されるアクションの一つひとつを通して、私たちの心にダイレクトに突き刺さる。セリフがないからこそ、ブライアンの感情の機微を、より深く、より生々しく感じ取ることができる。復讐実行日までの計画と、それに対し一喜一憂する姿は必見だ。

これも忘れてはいけない。
ジョン・ウーの新作が公開されると、ファンの間で話題になる"鳩が飛ぶ演出"だ。本作では登場するか否か、新たな描写に注目したい。
また、警察署に掲げられた「平和の維持のために」という言葉と、羽が特徴的な石像。
壊れていく様子は何も行動を起こさない警察への皮肉とも解釈できる。静かに、しかし力強いメッセージが伝わってくる。
 

言葉は時に嘘をつき、感情を偽る。
しかし『サイレントナイト』は、沈黙という言語を通して、人間の根源的な内面を描き出している。スクリーンに映し出される映像、そして俳優陣の渾身の演技が作り出す、言葉を超えた物語体験。
劇場で、この静かで激しい復讐劇に身を委ねてみてはいかがだろうか。
 

2025.4.11（金）新宿バルト9ほか全国ロードショー

製作・監督：ジョン・ウー
脚本：ロバート・アーチャー・リン
撮影：シャロン・メール
音楽：マルコ・ベルトラミ
出演：ジョエル・キナマン、スコット・メスカディ、ハロルド・トレス、カタリーナ・サンディノ・モレノ
2022年/アメリカ/英語/カラー/ビスタサイズ/5.1CH / 104分
原題：SILENT NIGHT / 字幕翻訳：長岡理世/配給：クロックワークス【映倫：R150＋】
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