白石和彌は時代劇を撮るべし!
年間ベスト級の面白さ
監督:白石和彌
原案:笠原和夫
時間:155分
PG12
白石和彌らしさは時代劇が合う
白石和彌監督、絶対に時代劇合ってる。すんごくお上手ですよ。今年は『碁盤斬り』も良かったですけど、それを凌ぐ面白さ。白石監督といえば、残酷な描写や壮絶さ、グロさが素晴らしいのですが、正直言って戦国時代の時代劇で活きると思う。しかも今回『狐狼の血』の製作チームが再集結。脚本は、笠原和夫。東映黄金期『仁義なき戦い』『日本任侠伝』シリーズで知られるレジェンド。
舞台は1868年、戊辰戦争。
道産子の私からすると、五稜郭が思い浮かびますが、それはこの戦の最終決戦。今回は新潟、新発田(しばた)藩が城と民を守る為にした【裏切り】にフォーカスしたお話です。そもそもこれは江戸幕府の終焉であり、幕府軍(賊軍)と新政府軍(官軍)の戦。まだ子供の藩主・溝口直正は、勝ち馬に乗れば良いと、周辺諸国の同盟軍をあざむくよう家老の溝口内匠(阿部サダヲ)に指示。しかし、そんな事をすれば官軍より先に同盟軍に城を攻め入られてしまう。同盟軍が藩主から新発田藩の同盟軍入りを取り付けるまで、出陣しないと言われてしまう。更には官軍参謀の山縣(玉木宏)も藩主に意向を聞きに来ると言うではないか。
この板挟みの中、生き残りを掛けた戦いに決死隊として10人の罪人達を砦へ向かわせる。
10人の罪人達が面白い
藩の為に砦を守れば、無罪放免。そんな言葉にほだされて、様々な罪人達が橋を挟んで、あの手この手で戦います。
政(山田孝之)・・耳が不自由な嫁が乱暴され、その侍を刺殺。こんな条件出された所で言うことは聞きたくないし、脱走もする異端児
ノロ(佐久本宝)・・花火師の息子、花火事故で親を亡くし何故か政を兄と慕って着いてくる
赤丹(尾上右近)・・詐欺師、チャラ男でいつもヘラヘラしてる
おろしや(岡山天音)・・医学を学ぶ為、海外へ密航。賢い。
なつ(鞘師 里保)・・放火。女郎屋の娘だが罪人達の世話係として着いてきた。
引導(千原せいじ)・・檀家の嫁を犯した生臭坊主。
二枚目(一ノ瀬楓)・・姦通罪、美男子。
三途(松浦裕也)・・一家心中の生き残り
辻斬(小柳亮太)・・力自慢の辻斬り
爺っつぁん(本山力)・・長州出身の剣術家
中でもこの、爺っつぁんが密かにカッコ良いと話題沸騰中。普段は斬られ役の本山さん。ラスト近く、2人を相手に炎の中での立ち回りがアツい!アツ過ぎる!!
仲野太賀、優勝で決まり
また、その決死隊を率いる侍衆に、内匠の娘婿になる入江(野村周平)や兵士郎(仲野太賀)
山田孝之、仲野太賀 W主演とは言いますが、ほぼほぼ仲野太賀がメインでしょう。というか、私の中ではもう、仲野太賀大優勝。殺陣も悪くなかったし、道場の息子で腕が立つ役と言うのも、説得力アリ。彼の顔立ちからして、古い日本の作品の方が合ってます。2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟』も楽しみ。この兵士郎の真っ直ぐな性格や、仲間思いな部分が仲野太賀とマッチしている。誰が11人目の罪人となるのかわかる場面は、鳥肌ものです!
政治に巻き込まれ犠牲になるのは
いつの世も同じ人々
戦のしょーもなさや、虚しさ、命の儚さ、抗い生きていくしかない、そんな姿が罪人達からも、兵士郎達からも感じる。
イカサマじゃねーか!
詐欺を働いて罪人の1人となった赤丹(尾上右近)が放つ言葉の意味。自分達は確かに罪を犯した。しかし、それと何が変わるんだ。人を騙してこんな事をさせて。どんなにお願いしても許してくれなかったくせに。戦いの末、傷ついた入江に放つ言葉は真実そのもの。幼い藩主に代わり、全てを仕切るは溝口内匠ですが、組織のトップとしては優秀。しかしその犠牲にする者に対しては、どこまでもブレずに冷血。今回どこまでも救いなく悪者で卑怯者だった。半端な優しさよりも、そこがとても良かった。
裏切り者のレッテル
史実に基づいているフィクションではあるが、鑑賞後に調べた中で驚いたのは、第二次大戦においての話。新発田連隊は裏切り者のイメージがあったため、取り分け過酷な戦地へ送られたとする評もあると言う。うーん、複雑な気持ち。ちなみに白石和彌監督といえば、お馴染み音尾琢磨君。今回は出番が少ない。冒頭あっさり政に刺されて終わりますので、お見逃しなく。
罪人達それぞれキャラクターがわかりやすくて面白く、155分と長尺ではあるが、その長さを感じず楽しめる。激オススメ。予告で流れたDragonAshの曲、どこにも流れないので、あしからず。