2024年に観た映画(33) 「街の上で」
1983年春の大学入学と共に始まった東京暮らしは、高井戸、八幡山/経堂、富士見ヶ丘/芦花公園と、京王井の頭線&小田急線と共にありました。その距離と比例して、下北沢はとても身近な街として存在し続けていた。
今ではお芝居を観に年に1回行くか行かないか。訪れる度に再開発が進み、踏切も食品市場もアンゼリカもなくなって、渋谷同様に当時の面影が薄れる一方です。
そんな下北の街を前面に押し出すわけでもなく、残り続ける古き良き街の雰囲気を借りながら繰り広げられる男女の人間模様。
どこにでもある日常を、恋愛映画として、コメディ・タッチの群像劇として、絶妙なる会話劇として、今泉監督は見事な起承転結をもって成立させてしまった。
ダラダラしがちな空気感を随所で引き締めるのが、思わず笑ってしまう登場人物同士のやりとり。特にヒリついた場面での畳み掛けるような“口撃”の連打は、私がこれまで観てきた今泉作品にはなかった展開。
改めて、今泉作品に登場する女性陣がとても魅力的な事にも気付かされました。本作でも青君(若葉竜也)に関わる4人の女性達がとても素敵。ほんのワンシーンだけ登場する女性までも、その役に見合った魅力が映像から滲み出るかのようです。
今泉力哉監督の作品に劇場で最初に触れたのは、「愛なのに」(脚本)/「猫は逃げた」(監督・共同脚本)の2本。本作はそれ以前に製作・公開された作品なのに、今頃になってどこからともなく作品の情報が飛び交い、幸運な事にkikiさんが1週間の限定公開をしてくれていた。映画の神様の計らい感じます。そして本作が今泉作品観賞4作目にしてダントツ1位のお気に入り作品となりました。この監督の真骨頂に触れたようで、とても後を引きそうです。年末くらいにはもっと自分の中の評価点が上がっていそう。「チーズケーキの唄」は、きっと名曲として歌い継がれる事でしょう。
パンフレットの対談記事で、
「登場人物をいつまでも見ていたいと思わせられれば、(映画の)終わり方は大したことではない」
と語っていた今泉監督。本作はまさに監督の意図に応えた作品でした。上映終了後、こっそり拍手しました。早くももう1回観たくなっています。
№33
日付:2024/8/23
タイトル:街の上で
監督・共同脚本:今泉力哉
劇場名:あつぎのえいがかん kiki スクリーン1
パンフレット:あり(¥880)
評価:7
<CONTENTS>
・イントロダクション
・ストーリー
・空の下、街の上 マヒトゥ・ザ・ピーポー
・若葉竜也 インタビュー
・キャスト・コメント(女性陣)
・その他キャスト
・対談 今泉力哉 × 大橋裕之
・スタッフ
・『街の上で』衣装解説 小宮山芽以
・『街の上で』部屋探訪 中村哲太郎
・『街の上で』用語辞典
・下北沢へ愛をこめて 髭野純(プロデューサー)
・『街の上で』下北沢ロケーションマップ イラスト:岡田成生
・マンガ「街の中で」 大橋裕之
・挿入歌 「街の人」「チーズケーキの唄」
・クレジット