本郷功次郎の出演映画 その2
引き続き本郷功次郎である。59年の残りからである。
「貴族の階段」はタイトルからは想像しにくいが、二二六事件を背景としており、森雅之、叶順子、金田一敦子、菅原謙次、友田輝、滝沢修、志村喬などが出演している。本郷は近衛の見習い士官で、金田一の兄、その親友の叶に気があるという役。事件には妹に睡眠薬を飲まされ参加できないのである。金田一敦子、叶順子は共に10期ニューフェイス。金田一敦子は言語学者金田一京助の血筋であるが、60年には引退してしまう。
「風来物語任侠編」は日露戦争当時の東京を背景としたメロドラマで「姿三四郎」で知られる富田常雄の原作。主演は長谷川一夫で、小林勝彦、仁木多鶴子、中村玉緒、根上淳、田崎潤、山田五十鈴などが共演。本郷は仁木と恋仲となる苦学生、小林は国会議員の息子だが家を出て社会主義運動に加わる若者で、中村玉緒と恋仲という役。話は逸れるが、本郷は必殺シリーズには一度だけ「暗闇仕留人」に悪役で出演したことがある。悪徳奉行の役だが、その部下の与力を小林勝彦が演じているのだ。大映時代の同期などと当時は知る由もないが、今調べるとそいう繋がりのあるキャスティングは結構あったりする。
「浮かれ三度笠」は市川雷蔵主演の時代劇で、本郷はクレジット二番手の準主役だ。他に中村玉緒、左幸子、島田竜三、新東宝から移籍の宇治みさ子など。
60年になるがこの年はなんと13本もの映画に出演しており、ホームの大映京都の時代劇だけでなく、大映東京の現代劇にもたびたび出演というハードな時期であった。
「二人の武蔵」は、五味康祐原作。長谷川一夫演じる平田武蔵と市川雷蔵演じる岡本武蔵が登場する。平田の方は俗に言う宮本武蔵で、勝新太郎演じる佐々木小次郎と対決する。勝新は小次郎ってイメージではないが、武蔵のイメージでもない気がする。本郷の役は岡本武蔵と親友となる棒術使いの夢想権之助。他に中村玉緒、宇治みさ子、林成年、鶴見丈二、中村鴈治郎など。
「千姫御殿」はタイトル通り、山本富士子演じる徳川秀忠の娘・千姫が主役。千姫がこもる吉田御殿に公儀の隠密である本郷演じる喜八郎が潜入するが、二人は愛し合うようになってしまう。しかし、喜八郎が隠密と知った千姫は落胆し尼となり、喜八郎は切腹となるといったお話。共演は小林勝彦、中村玉緒、山田五十鈴、志村喬、中村鴈治郎など。
「あゝ特別攻撃隊」は特攻隊を描いた戦記物。本郷はトップクレジットつまり主役で野口啓二、三田村元の若手が続く。他に野添ひとみ、宮川和子、北原義郎、高松英郎など。
「大江山酒天童子」は、川口松太郎原作で、大江山の鬼退治を描く物語である。酒吞童子とも表記される妖怪、つまり鬼の首領が酒天童子を演じるのが長谷川一夫。対する源頼光に市川雷蔵で、その四天王が勝新太郎(渡辺綱)、本郷功次郎(坂田金時)、島田竜三(碓井貞光)、林成年(卜部季武)という面々。中村玉緒は勝新演じる綱の妹役で雷蔵演じる頼光の恋人という設定。ちなみに、勝と玉緒の結婚は翌61年である。鬼側は左幸子(茨木童子)、千葉敏郎(鬼童丸)など。他に山本富士子、金田一敦子、浜田ゆう子、小沢栄太郎、根上淳、田崎潤など。
本作の妖怪は怪獣の造形で知られる大橋史典が担当しているという。伝説では、本郷が演じる坂田金時の幼名は金太郎。あの童話でお馴染みの鉞担いだ金太郎のことである。漫画「銀魂」の主人公・坂田銀時の名はこれをもじったもの。
「勝利と敗北」は「大江山酒天童子」の併映作品だが、こちらは現代劇でボクシング映画で当時の実際のチャンピオンたちが顔を出している。両作に出演しているのは本郷くらいである。主演は川口浩で、三田村元、本郷と続いている。三人ともボクサーの役だ。他に若尾文子、野添ひとみ、新珠三千代(東宝)、船越英二、高松英郎、安部徹、山村聰など。江波杏子がノンクレジットで出演している(ホステスの役)。
「続次郎長富士」はタイトル通り59年公開の「次郎長富士」の続編である。長谷川一夫の次郎長と勝新太郎の森の石松、鬼吉の林成年は前作と同じだが、他は役柄または役者が変更となっている。例えば、市川雷蔵は吉良の仁吉から山上藤一郎に、本郷も小政から小松村七五郎になっている。次郎長一家は中村豊、鶴見丈二、北原義郎、小林勝彦などが演じる。他に中村玉緒、根上淳、近藤美恵子、毛利郁子、阿井美千子に加え、佐々十郎、楠トシエ、堺駿二なども登場する。
この後、「素敵な野郎」「俺の涙は甘くない」「誰よりも君を愛す」という現代劇が続いており、いずれも本郷が主演である。「誰よりも君を愛す」には、飯田久彦が「スリービート」、内田裕也が「スリーガイズ」のメンバーとして出演している。